I'm Not Your [Justice] 2
レイは舌打ちをしてケイシーを追い駆ける。
こういった事は初めてではないが、ケイシーのこういったところにレイが慣れる事もなかった。
裏路地の更に裏路地を抜け、ケイシーの手荷物を狙おうとする引ったくりを退け、5分ほど走ったケイシーは急に足を止めた。
路地裏から覗くそこは、薄汚い街並みに似合いの薄汚い倉庫だった。
「都合よく事が進んだわね」
「それで、今度は何をすればいいんですか?」
息を整えるために深呼吸を繰り返しているケイシーに、レイは肩を竦めながら問い掛ける。
倉庫の前には黒塗りの車両が何台か停められており、これから下される命令が面倒ごとであると理解するには十分だったのだ。
「この中で行われてるギャングの取引をやめさせなさい」
「なぜ取引と言い切れるので?」
停められている車両、車両付近に配置されている人間から、ギャングが仲で何かを行っているのは理解出来る。
しかし構成員の私刑や死体の処理を度外しているケイシーが、レイにはおかしく思えたのだ。
「頭の悪いあなたには分からないかもしれないけど、人と金は頭で使うものなのよ」
ケイシーは呆れたとばかりに深いため息をつきながら、レイにディスプレイを見せ付けるように携帯電話を突き出す。
ディスプレイに表示されていたのは御巫トランスポートという送信者の名前と、ダウンタウンでギャング同士の麻薬取引が行われるという情報だった。
「……運送屋が情報屋の真似事ですか」
「傭兵だって今は私の小間使いじゃない――そんな事よりさっさと行きなさい、これは命令よ」
傭兵としての誇りがある訳ではないが、事実上の自分の立場にレイは肩を竦めながらスーツの袖を捲くる。
そしてレイは露わになった灰色のバングルの表面に触れるなり、シアングリーンの粒子の光を纏いながら倉庫へと走り出した。
車両付近で待機させられていたギャングの構成員達は、光り輝く闖入者に銃口を向けて慌てて引き金を引く。
しかし弾丸は光の向こうから現れた灰色の装甲に叩きつけられるだけで、殺すという本来の役割を果たせぬまま地面へと落ちていく。
ネイムレスはかったるそうに車両へマシンガンの銃口を向け、躊躇いなく引き金を引いた。
人の身で対峙するにはあまりにも巨大な銃口から吐き出された弾丸は、車両を食い破って合金を混じらせる爆風で構成員達を吹き飛ばす。
その爆風を真正面から受け止めながら、ネイムレスはゆっくりと倉庫の中へと正面から侵入する。
「な、なんだテメエ!?」
『警告だ、30秒以内に取引をやめて消えろ。俺の視界に入ってる奴は全員どうなるか分からねえぞ』
食って掛かるギャング達に、レイは見せ付けるようにブレードユニットの刃を展開する。
ギャングは合わせて20人ほど。何人かを犠牲にすれば展開できるであろうD.R.E.S.S.が展開されていない事から、ギャング達はD.R.E.S.S.を所有していないとレイは判断する。
しかし数以外では何もかもが劣っているはずのギャング達は、小さな拳銃をネイムレスに向けたまま退こうとはしない。
「ふざけんじゃねえぞコラァッ!」
『日を改めろって言ってやってんだよ、クソヤロウ。ここにはバカしか居ねえのかよクソが』
逃げるどころか立ち向かおうとすらしているギャング達に、レイは苛立たしげに吐き捨てる。
ケイシーの命令は"今この瞬間に行われている取引をやめさせろ"というものであって、ギャングの殲滅や取引の永劫的な妨害ではない。
しかしケイシーをこれ以上待たせる訳には行かないレイは、殺意を突きつけるように合金製の刃を突き出した。
『時間切れだ、せいぜい自分を恨めよ』
器用にネイムレスの灰色の肩を竦めたレイは、背部ブースターを吹かせることで彼我の距離を一気になくす。
3mほどの巨大な合金の鎧に反応する事が出来なかったギャングを、ネイムレスは容赦なく蹴り飛ばした。
砕かれ、千切れたギャングの1人が、肉片と血液を撒き散らしながらコンクリの壁に叩きつけられる。
あまりにも凄惨な光景に状況を正確に理解したのか、ギャングの何人かが入り口へと向かって走り出す。
その背をシアングリーンのマシンアイで捉えたネイムレスは、マシンガンの銃口を入り口に向けて引き金を引く。
横に線を引くように放たれた弾丸達は、容赦なくギャング達の体に喰らい付いて全てを血煙に変えていく。




