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D.R.E.S.S.  作者: J.Doe
Burn To [Lovely] Ashes
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Show [Must] Go On 1

 アフガニスタンの砂丘に身を横たえながら、レイ・ブルームスは双眼鏡である1点を見つめていた。

 その視線の先にあるのは、4台のジープと岩山の横合いに掘られた洞窟。

 自然を利用して作られたその要塞を根城とする武装テロ組織シック・シングス、彼らが"レイ達"の抹殺対象だ。


「"どうしてこんなに気が滅入るのだろうか。"そう考えるのも無理はないと思わないかね、ブルームス?」


 背後で吐き捨てられた男の声に、レイは舌打ちを返しながら振り向く。

 炎天下の下だというのに乱れはなくスーツを纏う金髪碧眼の美男子。

 そこに居たのはレイと同じ民間軍事H.E.A.T.に所属する、ジャスティン・ファイアウォーカーだった。


 イスラエルでの作戦において、レイは引き抜きに応じるような発言をしていた。

 レイは別れ際の牽制によってその発言が漏洩する事はないと踏んでいたが、トマスは娘を無傷で救出した"ヘンリー・ブルームスの息子"を欲してH.E.A.T.と移籍交渉をしてしまったのだ。


 それは紛れもなくH.E.A.T.の契約事項に反した行いであり、レイは減俸と観察処分を受ける事となった。


 そしてジョナサンは最上級の観察者をレイにつけた。


 ジャスティン・ファイアウォーカー、ジョナサンが一線を退いた事によってH.E.A.T.最強座についたD.R.E.S.S.傭兵。


 レイが1勝も出来ていない最強の戦力にして、レイが最も嫌っている人間だった。


「知らねえよ、恨むならジョナサンを恨め」

「"不幸な時代の重荷は我々が負わねばならぬ。"だが、それは決して君の尻拭いではない」

「じゃあ受けなきゃ良かっただろうが、俺だってシェイクスピアが居なきゃ喋れねえアンタと一緒なんて最悪な気分だ」


 レイは苛立たしげに黒い髪をかき上げながら毒づく。

 一々引用されるシェイクスピアが、気持ちの悪いほどに整った容姿が、腹立たしいほどの差を感じさせる実力差がレイは気に入らないのだ。


 しかし戦力として申し分がない事は事実である。


 レイは深いため息をつくことで苛立ちを紛らわしながら、この作戦自体を早く終わらせる事にした。


「だからさっさと任務を終わらせてアンタとおさらばさせてもらう――武装テロ組織シック・シングスは情報通りなら超小規模な武装テロ組織。所有してるD.R.E.S.S.もそう多くはねえだろ」


 レイはそう言いながらボディバッグに双眼鏡をしまう。


 今回の任務はシック・シングスの殲滅。


 依頼人であるボリス・コッリは2ヶ月前にシック・シングスによって家族を殺されており、大手である民間軍事企業H.E.A.T.に復讐を依頼したのだ。

 そして復讐に燃えるコッリは経費に限度をつけなかったために、レイはその金を湯水のように使いながらシック・シングスの情報を集めていた。


「"天は自ら行動しない者に救いの手を差し伸べない。"D.R.E.S.S.は私が全て受け持とう、君には施設の破壊工作を任せたい」

「正直楽で良いけど、1人でやる気か?」


 考えるまでもなく望外なファイアウォーカーの申し出に、レイは思わず問い返してしまう。


 相手のD.R.E.S.S.戦力は最低でも小隊規模。


 ファイアウォーカーの実力は理解しているが、数字上の不利は見るまでもないのだ。


「"臆病者は本当に死ぬまでに何度死ぬか分からぬが、勇者はただ1度しか死を味あわない。"それだけの話だよ」


 ファイアウォーカーは何でもないようにそう言いながら、右手首に付けられた紫色のバングルに触れる。

 途端にオレンジ色の粒子の光が解き放たれ、ファイアウォーカーの体へと集束していく。

 晴天の太陽にも負けぬとばかりに輝いた光はやがて質量を伴い、ファイアウォーカーのルード改修機デウス・エクス・マキナへと変容した。


『"世界は舞台だ、誰もが何か役割を演じなければならない"――もっとも彼らには、端役しか残されていないがね』


 嘲笑うように言葉を中空に躍らせながら、ファイアウォーカーは何の気負いもしていないかのようにアサルトライフルの引き金を引いた。

 銃口から解き放たれた弾丸はジープを押し潰し、爆音と共に合金片と砂漠の砂を撒き散らす。

 レイはそれらから逃れるように地面へと身を投げ出し、デウス・エクス・マキナをアジトから出て来た殲滅対象らが追い駆けて行くのを視認する。

 視認したシック・シングスが保有するD.R.E.S.S.はルードが2機、クラックが1機、違法改修(イリーガル)ナーヴスが5機。

 まんまとファイアウォーカーの筋書き通りに踊らされた敵対者達を見送りながら、レイはボディホルスターからコルト・ガバメントを取り出して敵のアジトへの接近を始める。

 複数のジープを巻き込んで炎上する炎の熱を感じながら、レイは敵アジトである洞窟を覗き込む。


 洞窟という自然の要害を利用しているものの、そこには迎撃装置が設置されている様子はなく、あるのはちっぽけなプレハブだけだった。

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