[Revolutionary] Witch Hunt 4
――対象の限界は近い。乱暴でもさっさと終わらせるしかねえか
そう胸中で呟きながら、レイは窓を背にする形で銃口を扉へと向ける。
今回の任務は対象の身柄の安全の確保ではなく、対象を救出してモスクワまで無事届ける事である。
ナーヴスの装甲程度の頑丈さを持つシェルカプセルによって身体の安全は確保されたものの、心的外傷後ストレス障害など負われてしまえば任務は失敗となってしまうだろう。
エリザベータには既に2人の死を見せた、だからこそレイは急がなければならないのだ。
そして乱暴な無数の足音を間近に捉えたその瞬間、部屋の扉が蹴り破られる。
ライフルの先に付けられたフラッシュライトの光が5つ。
最も襲撃を恐れるべき場所に送られた戦力の少なさに、レイは建物の外で見たテロリスト達全員がD.R.E.S.S.を所持し、そして警戒に当たられてしまった事を理解して辟易とする。
ルードやクラックという戦闘を想定したD.R.E.S.S.はそう簡単には手に入らないが、ナーヴスという災害時の救助等を想定し、あらゆる場所に普及されたD.R.E.S.S.は購入も強奪も容易い。
「ベータ1の全滅を確認、人質も不明。これが連中の答えだって言うなら、見せしめが必要だ――散開して対象の奪還、襲撃者を殺害しろ」
フラッシュライトで頭部を打ちぬかれた死体を照らしていた隊長格の男は、そう指示を出して部屋を後にしようとするが、何かに気付いたように足を止める。
硬質な物がぶつかり合う、カチカチという皮膜越しに聞こえる歯がぶつかりあう音。
――マジでやべえ
レイは見誤っていた。
狙われていることすら知らずに、過保護なほどに守られ続けていたフィオナ・フリーデン。
戦う相手を正しく認め、暴力をちらつかせられながらも足を止めなかったエリザベータ・アレクサンドロフ。
フィオナは誘拐されかかった事実すらおぼろげに感じていたが、エリザベータは敵対する者達の持つ暴力の質を理解してしまっている。
――いいさ、やってるよ
レイはそう胸中で呟き、ハンドサインで散開命令を取り消している隊長格の男の男へと銃口を向ける。
気付かれないように脱出するという甘い考えではあるものの、1番ベストなプランは不可能となってしまい、数においても装備においても負けているレイが対象を連れて脱出するには先手を取るしかない。
――俺の代わりに祈っててくれ
自身の視界ではかろうじて見えるシェルカプセルの皮膜にそう胸中で呟きながら、レイはテロリストの1人がランタンの明かりを点けたその瞬間引き金を引く。
サプレッサーを通した上で殺しきれない銃声と共に銃弾が放たれ、ランタンの明かりに照らされた室内に新たな赤黒い水溜りが生まれる。
新たに生み出された死体が地面に叩きつけられるより早く、レイは銃口をスライドさせるようにランタンを灯したテロリストへ発砲を続けながら改めて大口径のリボルバーをホルスターから取り出す。不意打ちで殲滅する事が出来なかった以上、もはや消音性など気にしていられはしない。
2人目の仲間を殺されたテロリスト達は、レイが姿を隠しているデスクへの銃撃を始め、レイは狭い室内を姿勢を低くしながら移動する。
テロリスト達は2人が死亡、残った3人は扉を背にして横に並んでいる。
そしてその全員がエイリアスに与えられた大口径のリボルバーであるレイジングブルの弾丸すら貫通しないであろうボディアーマーを纏っている。
その辺のテロリスト達とは違う、D.R.E.S.S.を除いても安価ではない装備達、アテネで交戦したラスールの人間達と似た装備に恵まれながらも目前の獲物に強く惹きつけられてしまう浅ましさ。
――まあ、今は関係ねえか
そう胸中でせせら笑うように毒づいたレイは、未だ消されていないフラッシュライトへ向かって大口径のリボルバーの引き金を引く。
グリップを握っていたレイの両腕が反動に踊らされ、大口径の銃口から放たれた弾丸はボディアーマーの表面を叩き、テロリストの男の1人がその強すぎる衝撃に崩れ落ちる。
自身らが取り回すライフルの銃声すら、掻き消してしまうほどの銃声。
それがもたらしたむごたらしいほどの暴力。
それをむざむざと見せ付けられたテロリストの男達は、その結果である4つ目の死体を見て戦慄する。
軍隊や民間軍事企業のような訓練を積めないテロリスト達は、パトロン達がもたらす資産によって装備を充実する事で対抗していた。
しかしその装備よりも遥かにチープである筈の装備で既に4人が死に、テロリスト達は未だに襲撃者の人数すら分からない。
そして頼りのボディアーマーが役に立たないと知った2人の男達の脳裏に、撤退という選択がよぎり始める。
指揮官は死亡し、部隊が受けた損害は壊滅的なもの。
もはやここに留まる理由はない。
そう考えながらも銃撃をやめた瞬間に殺されてしまうのではないか、決して間違いではないその考えが2人の男の足をそこへ縫い付けていた。
それでも圧倒的な暴力をちらつかせる襲撃者は、その間にも男達へと明確な殺意を向けにじり寄る。
逃げよう。そうハンドサインでもう仲間に告げた男の顔が、爆音と共に吐き出された質量を伴う殺意によって殴り飛ばされその赤黒い中身を撒き散らす。
撤退する事も、避ける事も出来ずに踏み込んでしまった決定的な死線。
そして風切り音の後に腹部に感じる決して軽くはない衝撃。
テロリストの男が自身の腹部を見下ろすと、自身には届いていないもののボディアーマーに確かに突き刺さっているタクティカルナイフがあった。




