Here My Story's [End] 3
『では、これからについて話をさせてもらおうか』
レイの感情が小玲に向いているのが気に入らないのか、イヴァンジェリンは不機嫌そうに言葉を紡ぐ。
この3年でこういった時、下手な事を言うのは逆効果だと理解させられた小玲は肩を竦めながら頷く。
こうしている間にもイヴァンジェリンは元アメリカ攻防軍の所有物だった軍事衛星で小玲を見下ろしているため、2人にとって返事はそれで十分だった。
『旧ロングビーチ地区で唯一営業をしているバーに行き、ノウマンという男から旧エルモンテ地区にある非合法兵器の製造工場の情報を仕入れて欲しい』
「その情報屋の特徴は?」
『上等なスーツを着た初老の男、スキンヘッドにハットを被っている。1度会った事があるはずだ。私の名前を出せば無料で情報の提供をするだろう』
「その工場は何を作ってる工場なんですか?」
『新型機動兵器の雛形。あまりにも稚拙な物だが、私の技術が使われている以上無視は出来ない』
複雑系アクチュエーター技術と超小型電力増幅回路。
車やエレベータなどの暮らしに密接した物にまで影響を与えたそれらの技術は、かつて地上の全ての軍事兵器に対して脅威と化したD.R.E.S.S.に使われた技術だった。
そしてそれが兵器開発に利用される事はイヴァンジェリンにとって想定の範囲内であり、それを破壊しない理由などありはしなかった。
「つまり次の任務は、データの奪取とターゲットの完全破壊ということで?」
『そうだ。今度は上手くやりたまえ、これ以上彼に心配を掛けさせるな』
そう言ってイヴァンジェリンは一方的に通信を切り、小玲は自身が悪いとはいえ子供のようなイヴァンジェリンの態度に思わず苦笑してしまう。
フィールドジャケットの袖にバングルを隠した右手は、自然と胸元の十字架へと伸びる。
師に近付きたくて買ったそれはレイが持っている物より1サイズ小さい物だったが、今ではそれくらいで丁度良かったのではないかと小玲には思えた。
レイに心配を掛けたくないが、忘れられてしまうくらいなら心配してもらいたい。
あまりにも幼稚な考えだとは思うが、それは小玲にとって偽らざる気持ちだった。
そして小玲は核とエネルギーの変遷によって、ガスで覆われ始めて暗くなった空を見上げる。
復讐の対価に藍玲の全てを失ったが、自由がなかったとしても小玲としての新たな人生を与えられた。
師は態度にこそ出してはくれないが、小玲は1つの事実に気付いていた。
レイが自分に世界中を回らせているのは、自分に新しい人生を選ばせるためだということに。
その気持ちはとても嬉しいと小玲は感じると同時に、小玲は自身が選んだ戦い続けるという選択肢に一握りの後悔も持ち合わせては居なかった。
この運命でなければ大好きな姉の復讐を果たし、レイの傍に居たいと願う事すら出来なかったのだから。
そんな事を小玲が考えていると、突然強い横殴りの風が吹き、晴れたガス雲の合間から太陽が顔を出す。
かつて自身の未熟を糾弾しているように感じたそれは、自身の新しい物語の始まりを祝ってくれているように小玲は感じた。
そして小玲は隠しきれない期待に、満面の笑みを浮かべて口を開く。
「すぐに会いに行くであります、師叔」
そう呟いた小玲の言葉は、荒野の乾いた風に消えていった。




