P[R]ay To Wild Card 7
ソレはシアンブルーの軌跡を残しながら退避し、翼を失ったジハードは集束した粒子の暴発に巻き込まれる。
背中に生まれた眩光を伴う暴力的なほどの熱波、その眩い暴力にジハードの巨体は無様に吹き飛ばされてしまう。
地面にその身を擦りつけ、軌跡を残しながら草薙は自信を越える高速戦闘をなしえる存在の名を吐き捨てた。
『……嫉妬狂いの化け物ッ!』
『初めまして。それでもってさようならだ、クソヤロウ』
馴染みのある名前の響きを持った怨嗟の声。
それにシニカルな響きを持つ挨拶を返し、レイは横たわっているジハードの腹部を蹴り上げた。
いつ現れたのか、どう現れたのか。
理解出来ないほどに縦横無尽の高速機動で現れ、ただ当然のように強力な力を行使するシアンブルーのバイザーアイを輝かせる白銀のD.R.E.S.S.。
考えるだけ無駄なそれらの事を脳裏から排除し、草薙は宙に放り出されたジハードの腹部に搭載されたブースターを駆使して後退する。
『貴様は世界の秩序よりも、あの女狐の望みを取るつもりなのか!?』
『知るかよ――女1人に壊されちまうような脆いもんなら、そんなもんはさっさと壊れちまえばいい』
あらゆる場所に不備が生じ始めているとはいえ、決して遅くはないジハードの退避。
しかしリベリオンはいとも簡単に追いついてみせ、そしてターンブースターを駆使した回し蹴りを振り下ろすようにジハードの左肩に叩き込んだ。
『気に入らねえんだよ。アイツを勝手に祀り上げて、アイツの作ったD.R.E.S.S.を使っておいて、アイツを悪役みたいに扱うアンタらが』
左足に感じる確かに人間を壊した感触にリベリオンの機動1つを乱すことなく、レイは前蹴りでジハードを遠くへと蹴り飛ばす。
再度地面を転がされたジハードの装甲のほとんどは欠損し、ソフトにも深刻なダメージが生じ始めたのか赤いマシンアイは、かつてのヴェルトロのように不安定な点滅を始める。
『大体アンタだってそんなものを使ってるんだ、不公平だなんて絶対に言わせねえ――暴力で人を従わせる、俺もアンタらも何も変わりゃしねえよ』
かつて殺した育ての父が纏っていたD.R.E.S.S.を見下ろしながら、レイは苛立ちを滲ませた声で吐き捨てる。
確かにイヴァンジェリンが作ったD.R.E.S.S.は世界を変えた。
しかしそれによって大量殺人を成し遂げたのはイヴァンジェリンではなく、それを纏う人々だったはずなのだ。
それだと言うのに全ての罪をイヴァンジェリンに着せようとする人間達を、レイが許せる訳がなかった。
何よりこの場には確かな平等性が生まれていた。
草薙は小玲の姉を殺し、小玲はアントニオとヘレンを殺した。
草薙はイヴァンジェリンの存在を疎み、イヴァンジェリンは自身が生み出してしまった妄執の鎧を疎んでいた。
そして草薙はジハードと名を変えたオブセッションを纏い、レイはリベリオンでネイムレス・メサイアの刃をオブセッションへと突きつけていた。
それらの事実は皮肉にも歴戦の猛者である司郎・草薙と、最強の傭兵であるレイ・ブルームスと、そしてその弟子である小玲をイーヴンな立場に立たせていた。
この戦いは"暴力"以外の解決法を失い、3人は相応しい"暴力"を有している。
だからこそ、レイは当然のように告げた。
『やれ、シャオ。もう終わらせちまおう』
そのレイの言葉にゆっくりとジハードの体を起こしていた草薙は、慌てて自身の後ろへと視線をやる。
そこにはあらゆる箇所に損壊を負いながらも、巨大な五画柱を両手で構えるアナイアレイションが居た。
『いきます、師叔!』
小玲がそう叫び、アナイアレイションがフィストガードの中の引き金を引く。
その瞬間、ブルータル・ボザーの平面となっている背が開き、中から縦に並んだ複数のブースターが展開された。
『鏖殺』
耳元で囁かれたマシンボイスを小玲が耳にした瞬間、ブースター達が火を灯し始める。
その火は段々と大きくなっていき、アナイアレイションはそこから生まれる運動エネルギーに身を任せるようにして飛び出した。
草薙は迫り来る圧倒的な殺意から逃れようともがくも、限界を迎えてしまった自身もジハードも満足に逃れる事など出来るはずもなかった。
『死、に、さ、ら、せ、クソヤロウ!』
そして小玲はアクセントを付けた悪態を吐き出し、粗暴な厄介者を仇敵へと強く強く叩き付けた。




