P[R]ay To Wild Card 4
『もらった、であります!』
そう叫んだ小玲は両肩の砲口から2発の弾頭を射出する。
その弾頭は"誘導された"ようにロケットを正面から捕らえ、眩い光を放ちながら炸裂する。
『クソ! フレアをこんな使い方するバカが居るのかよ!?』
アントニオは光に潰された視界に目を細めながら毒づく。
フレアはミサイルの誘導装置に対する欺瞞装置であり、決してロケットに正面からぶつけるような兵器ではない。
『シャオは、バカじゃないであります!』
その声を知覚したその瞬間、アントニオは同時に絶望を理解させられてしまった。
ロケットとフレアの爆風を切り裂いて現れたアナイアレイション、その右手握られた合金製の五画柱は真っ直ぐにヴェルトロの叩きつけられた。
かつてない暴力に晒されたヴェルトロは乾いた荒野に投げ出され、荒野の砂にいくつも痕跡を残しながらバウンドしていく。
『アントニオ!?』
ヘレンは同僚のD.R.E.S.S.の損壊に思わず声を上げてしまう。
激しく破損したダークブラウンの装甲の狭間からは混合液が漏れ出し、黄色の単眼のマシンアイは不安定な点灯を繰り返すヴェルトロの有様はどう見ても絶望的だった。
『――わり――、しく――た』
ノイズにほとんどが占められたアントニオの言葉にヘレンの体温が一気に引いていく。
自身らの切り札である雷斬だけでなく、優秀なフロントマンであるヴェルトロまでもが撃破されたこの状況はヘレンにとって悪夢のようだった。
『――ろよ、隊長と添い遂―ん―――』
『うるさいであります!』
小玲の無感情な声とバトルライフルの2発の銃声が、アントニオの最後の言葉を無慈悲に遮る。
重質量の弾丸は爆破を起こし、ダークブラウンの纏甲は爆炎に飲み込まれた。
『キサマァァァッ!』
白いデュアルアイから送られて来る映像に、激昂したヘレンはアナイアレイションへとスナイパーライフルの銃口を向ける。
白い視界に映るマシンアイに黄色の光を灯していたヴェルトロの頭部は、その中身ごと弾丸に吹き飛ばされていた。大事な仲間は確かにこの瞬間に殺されたのだ。
しかしそれでもヘレンは冷静さを失うべきではなかった。
『う、る、さ、いであります! ここは議論の場ではなく、戦場なのであります!』
そう叫ぶ小玲の纏うアナイアレイションの銃口は、動きを止めてしまったセラフィナイトを捉えていた。
ヘレンはその光景に絶望し、後悔する。
緑色の目を授けられたその敵対者を舐めていた事実を、射撃と移動を怠ってしまった事。
そしてその報いは銃声と共に、セラフィナイトの頭部を吹き飛ばす弾丸としてヘレンに訪れた。
首を失ったセラフィナイトが地面へと叩きつけられるのを見もせずに、小玲はシアングリーンの視界に映るレーダーへ視線をやる。
雷斬はまだ遠くへは行っていないはず。
そんな事を考えていた小玲の耳に、重厚な金属が叩きつけられたような重低音が襲い掛かる。
途端にアナイアレイションのレーダーにノイズが走り始め、小玲は覚悟を決めるように深呼吸をした。
訪れた2度目のチャンス、情報でのみ知っているそのD.R.E.S.S.は小玲に危機感を持たせるには十分だった。
金に塗られた上に紫のトライバルが走る流線型の装甲、両手に1丁ずつ握られた巨大なバトルライフル、その背中に生える翼のような粒子拡散兵器。
それは間違いなくオブセッションだった。
『2人は死んでしまったか――否、自分のせいで死なせてしまったのか』
聞き覚えのあるバリトンボイスが悼むように、自責するようにただ言葉を紡ぐ。
女は妻となるはずだった。
男は2人で歩みだすための後押しをしてくれた。
だからこそ、草薙はただ覚悟を決める。
『これよりは弔い合戦、これより自分は仇敵を殺す修羅と成り下がろう。名乗るのは2度目で、そして最後だ』
そう言って草薙は金色の巨体で握るバトルライフルの銃口を、アナイアレイションへと突きつけて告げた。
『草薙司郎、"ジハード"――推して参る』
『……死んでもらうであります、今度こそ!』
そう叫んだ小玲は殺すべき、殺さなければならない仇敵へと飛び出した。
シアングリーンの視界の端に走る、イヴァンジェリンからのメッセージに気付きもせずに。