P[R]ay To Wild Card 2
『ほう。荒削りだが、なかなかにやってくれる』
『死んでもらうであります! 姉さんの仇!』
『……なるほど、そういう事か』
隠し切れない殺意を内包する少女の言葉に、草薙は逡巡した後に言葉を返す。
その姉とやらを思い出そうとしても、その手に掛けて来た人間の数はあまりにも膨大で検討などつくはずもなかった。
『しかし、こちらもまだ死ぬ訳にはいかない』
雷斬は赤い装甲の右腕に装備されたブレードユニットを、左腹部に当てるようにしながら構えて姿勢を低くする。
居合いの射程に獲物を捕らえた侍のような雷斬の姿勢に、小玲は訝しむような視線を送りながらブルータル・ボザーを突き出すようにして構える。
小玲は軽量高機動型の加速度と、扱い遂せる傭兵の強みは師によって嫌と言うほど理解させられているのだから。
そして最初に動いたのは雷斬だった。
『草薙司郎、雷斬――推して参る』
赤の鎧武者は黄色いデュアルアイの軌跡を残しながら、アナイアレイションの首を刈り取らんと高速で飛び掛ってくる。
小玲は咄嗟に半身になってそれを回避し、ブルータル・ボザーでアナイアレイションの首に刃を突き立てようとしている雷斬を振り払う。
――危なかったであります
バトルライフルでジャミング装置が搭載された雷斬の左肩部を吹き飛ばしながら、小玲は胸中で安堵するように呟く。
殲滅では確実に対応出来なかった速度、出会って数分後に失神するほどに心と体を痛めつけられた恐怖に似た速度。
気をつけてはいたつもりだった、それでも小玲は事実として首を刈られかけた。
いくらイヴァンジェリンが手ずから作り上げたD.R.E.S.S.だと言っても、機動性ではなく防御性を重視されたアナイアレイションでは、防戦を強いられるのは必至だった。
――なら、覆してしまえばいいであります
考える事をやめるな。
出撃前に聞かされた師の言葉に、傭兵としての在り方に答えるように胸中で呟いた小玲は深呼吸をする。
確かに相手は師と同じ強者で、自身の知らない修羅場をいくつも乗り越えてきた猛者なのだろう。
しかし世界を相手に1人で戦い続けたグリーンアイドモンスターと呼ばれた最強の剣でも、たった1人の敬愛する師でもないのだ。
そして小玲は怒鳴り声を上げて、殺すべき対象へと飛び出した。
『お前なんか、恐くないであります!』
『言ってくれるッ!』
アナイアレイションは雷斬へとブルータル・ボザーを振り下ろすも、雷斬はターンブースターでそれを回避して斬撃を加えようと腕を引く。
近接距離、それは雷斬のブレードユニットの射程なのだから。
しかし雷斬は、眼下から迫ってくる青白の何かに気付いて一気に飛び退る。
それはアナイアレイションの青白の装甲に覆われた足だった。
雷斬のブレードユニットの射程はアナイアレイションのブルータル・ボザーの射程でもある以上、小玲が草薙の考えを読めないはずがなかった。
『いくらでも言ってやるであります!』
そう言って小玲は動きを止めたアナイアレイションのバトルライフルの銃口を、雷斬へと言葉を共に突きつけて引き金を引いた。
小玲が取ったのは、格闘ではなく射撃だった。
『お前なんかより師叔の方が100万倍恐くて、100万倍強くて――』
2つの銃口を持つバトルライフルの銃身がコッキングの機構が動き、解き放たれた弾丸達は雷斬へと飛来して痛めつけていく。
赤と黒で塗り分けられた装甲が、余裕からか向けられる事もなかったアサルトライフル、その装甲を裂く事が出来るブレードユニットが次々と破壊されていく。
草薙は体に次々と走る苦痛と衝撃の中で相対する近接格闘機の射撃に驚愕し、小玲はただ無感情に引き金を引き続ける。
格闘ではなく、射撃を取った事に小玲は迷いも躊躇いも抱いていなかった。
動きを止めた状態での精密射撃は師のお墨付きなのだから。
『――100万倍、格好良いであります!』
そして止めを刺そうとシアングリーンの視界で、小玲が雷斬の頭部をロックしたその時、ダークブラウンのルードが間へと割って入る。
邪魔が入ったのなら、その邪魔な障害物ごと殺してしまえばいい。
レイの教えの全てを理解出来ていなかった小玲はそう考え、構わずに引き金を引こうとした。
しかし小玲はアナイアレイションの分厚い装甲の上からであっても、無視出来ない威力の衝撃に回避行動を取らざるを得なくさせられてしまう。




