[Reign] Of Terror-I'm [Rain] Maker 6
「ほら、もう悪足掻きをし始めた。幼稚だ、稚拙だ、愚昧だ、愚劣だ、あまりにもくだらない――アキラ、相手が核弾頭を持ち出したのを国防軍へ」
「今メッセージを送信しました。これでわたし達に責任はありません」
「いい手際だ」
「こういったやり方には悩まされたましたので」
晶はそう言ってどこか疲れたような表情を浮かべる。
OL時代の上司や部下達。
一杯食わされてしまったアメリカ国防軍所属の交渉人。
そして雇用主であるイヴァンジェリン。
その全員が責任の所在をうやむやにしながら晶に面倒を押し付け、晶はそれらの解決に奔走する事になってしまったのだから。
誰のせいだ。言うだけな無駄だと理解しているその言葉を飲み下し、晶は深いため息をついて元凶の1人へと問い掛ける。
「それで、次はどうされますか?」
「前線に出したピグマリオンとブラッディ・ハニーを国防軍の壁にする形で配置、それ以外のピグマリオンを連れて私達は空域から全速力で一時離脱する。爆風に備えて全員こっちのフロアに移ってシートに体を固定して欲しい」
感心したように言葉を紡ぐイヴァンジェリンの赤い視界には、核弾頭発射を阻止しようと前進するロシア国防軍のD.R.E.S.S.部隊だった。
その意思と行動はとても崇高なものであるが、イヴァンジェリンにとっては愚かな行為でしかない。
弾頭のサイズから察するに威力規模は戦場全てを飲み込むほどではなく、そして弾頭の発射を阻止するにはもう遅すぎると理解出来ているはずなのだから。
「お優しい事で」
「擦り寄ってくる野良犬達に、食べかけのBLTサンドをくれてやる。その程度の話さ」
どこかシニカルな響きを持つ晶の言葉に、イヴァンジェリンは自身の指示を待つD.R.E.S.S.達に指令を出しながら答える。
聖戦を覆すための意義を与えて、再征服の背中を押した。
リベリオン、アナイアレイション、ブラッディ・ハニーという戦力を用意して、勝ち馬に乗せてあげた。
ピグマリオンの制止を振り切って核弾頭に向かっていく命を救うために、31の傀儡を犠牲にした。
全ての命が救われ、報われるわけではないが、それでもイヴァンジェリンは自身の使徒の救済を与えた。
それらは確かに人々を遥かな高みから見下ろしているという事実から生まれた物。
しかしそれを与えるイヴァンジェリンにとっても、与えられる国防軍の人間達にとってもそんな事に関心を抱きもしなかった。
「レイさん達は大丈夫なんですの?」
「2人には私からメッセージを送ったし、リベリオンとアナイアレイションは真空と水中以外では限りなく優秀な鎧だ。心配は無用だろう」
汚染物質除去能力は何よりも高いが、流石に酸素ばかりは精製出来ない。
もし酸素を精製する術を知っていたのなら、イヴァンジェリンはとっくの昔に地球を見限っていただろう。
そう肩を竦めるイヴァンジェリンは、固定したシートベルトを確かめるように強く引くエリザベータへと返す。
やがてローターは回転速度を落とすヘリに衝撃が走る。
しかしそれは攻撃ではなく、2機のピグマリオンが左右からヘリを抱きかかえた衝撃だった。
――炸裂
イヴァンジェリンが胸中でそう呟きながら入力したコマンドにより、ピグマリオンの背部ブースターが炎を吐き出す。
ヘリ単体では出せない速度、その速度から生まれたGにイヴァンジェリンは目を瞑ったまま身を任す。
過去にニューヨーク、カルフォルニア間のフライトで味わった速度以上の速度に、4人は体に食い込むシートベルトとGに苦悶の表情を浮かべる。
そして4人が眩光と轟音を知覚したその瞬間、ヘリが爆風に飲み込まれる。
――舐めてくれるなよ、私を
荒れ狂う爆風に歯を食い縛りながら、イヴァンジェリンは赤い視界で自身の支配下にある全てのD.R.E.S.S.へと命令を出し続ける。
爆風から4人を守る壁になってヘリを支えろ。
情報攻撃を続けて敵にヘリの位置を探らせるな。
味方マーカーの付いていないD.R.E.S.S.を探せ、そして殺せ。
その指令を受けた生き残りのピグマリオンは爆風に吹き飛ばされながらも情報攻撃と索敵を行い、そして砂塵に強く打たれるヘリを抱えるピグマリオン2機は姿勢制御を行い続ける。
ネイムレス、ディファメイション、ブラッディ・ハニー、殲滅、そしてリベリオン。
それらから採取したデータから導き出したコマンドを、イヴァンジェリンはリアルタイムで打ち込む続ける。
イヴァンジェリンの熱い息を吐き続ける口は渇き、常人ではありえない情報処理に脳は軋みを挙げ、轟音に晒され続け機能しない耳は激しい鼓動の音を捉えていた。
30機のピグマリオンがロシア国防軍のために消滅したとはいえ、残った20機のピグマリオンに指示を出し続けているのだからそれも無理はないだろう。
やがて暴力的な風が過ぎ去り、コックピットから疎ましいほどに明るい日光が差し込む。
19機のD.R.E.S.S.はその背部ブースターから推進剤を燃やした炎で滞空し、ヘリは回転を始めたローターが一定の速度に達した頃、ヘリを支え続けていた2機のピグマリオンはようや解放された。
イヴァンジェリンは無造作にシートベルトを外し、一瞬の浮遊感の後にバランスを取り戻したヘリの中で器用にコックピットまで歩いていく。
そしてピジョンブラッドの瞳で見下ろす中東の荒野には、跡形もないほどに焼け爛れた合金と溢れ出した燃料でその身を躍らせる炎、威力を放たれた核弾頭の威力を物語るように刻まれたクレーターが存在していた。
間違いなく、少なくはない、世界を見捨てようとしなかった人間達が死んだ。
しかしピジョンブラッドの瞳に憐憫の情が浮かぶ事はなく、今しがたまで刺青に触れていた白く華奢な右手は、左手の薬指の指輪を撫でていた。
「全部燃えてしまえばいい。邪魔なんだよ、私達の足を引っ張る有象無象共が」
命を糧に燃えるその炎に、イヴァンジェリンはただ無感情に呟いた。




