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D.R.E.S.S.  作者: J.Doe
Smash To [Brutal] Desperado
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[Reign] Of Terror-I'm [Rain] Maker 4

『"さらば、さらば、さらば、私を忘れるでないぞ!" 革命劇は終わりを告げ、悪しき女教皇の首は私がもらう!』

『ほざいてろ、クソナルシストがァッ!』


 重力に導かれて白銀の装甲に包まれた足が地面についた瞬間、リベリオンは地面を蹴ってデウス・エクス・マキナに一気に接近する。

 右肩部のシールドを向けるその突撃は、ネイムレスを纏っていたレイがするはずもない特攻だった。

 デウス・エクス・マキナは咄嗟にバックブーストを吹かせて後退しながら、両手の銃の引き金を引く。


 しかしその程度の弾雨で5mの巨体の突撃は止まる事はない。


 そして荒野に大質量の合金同士がぶつかり合う派手な音が響き渡り、その衝撃に両者は脳を揺らされながらも退く事はしない。


『……番狂わせだ、やるようになったじゃないか』

『いつまでも上から見下してんじゃねえよ、クソヤロウ!』


 余裕がなくなりつつあるのか、ついにシェイクスピアの引用をやめたファイアウォーカー。

 殺すべき敵対者を怒鳴りつけながら、レイはガトリングキャノンの砲口を向ける。


『本当に強くなった、期待以上だブルームス。だが、それでも君達に世界を変えさせる訳にはいかない。この命に代えても、だ』


 呻くように、それでいてどこか感心するような口調でそう言いながら、ファイアウォーカーは再度ミサイルを射出する。


 近接距離、自爆覚悟で射出されたミサイルを、リベリオンは平気でネイムレス・メサイアのガイドバーで叩き上げる。

 打ち上げられたミサイルは上空で炸裂し、その閃光を背に負うリベリオンは前蹴りでデウス・エクス・マキナを地面へと転がす。


 両手の銃はひしゃげ、薄汚れた紫の装甲は大部分が破損。


 それを纏うファイアウォーカーも無事ではないと一目で分かるデウス・エクス・マキナへと歩み寄ったリベリオンは、無感情にその胸部を踏みつけてネイムレス・メサイアの刃を突き立てた。


『アッチで独りよがりなクソ芝居を続けてろ、俺はアイツらと先に進ませてもらう』

『……それが、君の答えか? ……あの女教皇に付き従い、歪であっても人々が身を任す安寧を、壊してでも続ける侵略なの、か?』


 自身にとっての絶対(ファイア)強者(ウォーカー)の呻くように紡がれた言葉に、レイはどこか呆れたような嘲笑を浮かべる。


 ミレーヌと工作部隊を利用し、少なくはないラスールのテロリスト達を盾にし、自爆覚悟で自身を殺そうとした敵対者。


 一方で自身らのパトロンが失脚する事で荒れる世界情勢を憂い、異教の十字軍を殲滅しようと舞台を整えた救済者。

 その機械(デウス)仕掛け(エクス)の神(マキナ)のような理解の出来ないファイアウォーカーの在り方と、自身らに仕掛けられた罠にレイは舌打ちをする。

 戦場では確かにリベリオンという最強の力でレイは勝利し、女達を守り遂せる事は成功した。

 しかし女達を戦場へと引きずり出してしまった事により、女達を極1部の宗教関係者や武装テロ組織のターゲットにさせてしまった。


 この戦争がどういう意味を持っているのかは理解していた。


 その全てを背負う覚悟をしていなかった訳じゃない。

 それでもファイアウォーカーは自身の描く悲劇の主人公を演じきり、全ての逃げ道を塞いでレイ達を残忍な悪役へと貶め、確かに世界が変わる方へと物語を進めた。

 死後も纏わり続けるであろうその配役(ノロイ)がレイを苛立たせるのだ。


 敵対者達は"救済者"を演じているのだ。


 女達を傷付け、欲望のままに暴力を行使していた敵対者達が、だ。


『バカ言ってんじゃねえよ、クソヤロウ。アンタが英雄ぶって凱旋決め込もうとしたクソみてえな聖戦は、アンタの上から目線のクソみてえな同情の産物じゃねえか』


 そう言ってレイは2度とファイアウォーカーが口を利けないように、白銀の装甲に包まれた右足に力を入れる。

 ルードでは発揮出来ないパワーに、デウス・エクス・マキナの装甲は音を立てて更なる破損を始める。ミサイルを再度発射しようにも、リベリオンのタックルの影響かコンテナのハッチが酷く歪み、一向に開く様子を見せない。


『分からねえのか? 全部アンタの独りよがりと政治屋共の損得勘定の結果だって言ったんだよ。まあアンタがどれだけイヴを討つべき悪女だってほざいてても、イヴはアンタの事なんざ気にも掛けちゃいなかった。アイツにとっちゃアンタはただのムシケラなんだよ――これで満足かよ、英雄気取りのオナニー野郎。俺もアンタも拝金主義の戦争屋(ウォーモンガー)だ、英雄(ヒーロー)になんかになれやしねえんだよ』


 レイがそう言うなりファイアウォーカーはデウス・エクス・マキナを踏み潰しているリベリオンの脚部を、ひしゃげたアサルトライフルの銃身で殴打し始める。

 そのプライドが傷付けられたとばかりのファイアウォーカーの様子に、レイは思わず深いため息をついてしまう。

 その光景はあまりにも惨めで、かつてレイが乗り越えようとしていたファイアウォーカーとは似ても似つかない。


 事実としてイヴァンジェリンは司郎シロウ草薙クサナギとオブセッションの情報をレイ達に与えていたが、ファイアウォーカーの情報はレイが独自に集めた物でしかないのだ。


 そしてレイはかつての脅威を見下ろしながら、ネイムレス・メサイアを振り上げる。

 ファイアウォーカーは女達にとって脅威であり、レイにとって乗り越えるべき壁"だった"。


 殺さない理由などは1つもない。


『"血の匂いのする色好みの下司下郎め、残忍な裏切り者め、情欲まみれの卑劣漢め――さあ、復讐だ"』


 意趣返しのようなシェイクスピアの引用。


 そしてレイがネイムレス・メサイアを頭部と胸の間の接合部へと滑らせる。

 飛び散る火花と響き渡る金属同士が擦れ合う音、中身の詰まった合金の叩きつけられる鈍音、溢れ出し始めるどす黒い混合液。

 その光景は舞台などではなく、紛れもないレイが慣れ親しんだ戦場の物だった。


 ――さて、もう一働きするか


 レイはリベリオンを包囲しつつあるラスールの機影をレーダー上で眺め、シアンブルーの視界に走るイヴァンジェリンからのメッセージに胸中で呟く。


 まだ撃破対象の1人が死んだだけで、戦争は終わっていないのだ。


 それに小玲が死んでしまえば"宗教戦争にジュニアソルジャーを巻き込んだ"という事実だけが先行してしまう。

 だからこそレイは自身に向けられた幾重もの銃口に向かって大声を張り上げる。


『死にてえ奴から掛かって来いよ、クソヤロウ共がァッ!』


 リベリオンはガイドバーに付着した混合液を振り払いながら、ガトリングキャノンを装備している右手を中指を立てて突き上げた。

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