[Reign] Of Terror-I'm [Rain] Maker 3
『起動』
聞きなれたマシンボイスに耳を傾けながら、レイはリベリオンの最高速度に身を任せる。
シアンブルーのバイザーアイは、やがて砂埃で薄汚れたデウス・エクス・マキナを捉えた。
『"計ったように時間ぴったりにやって来たな"、ブルームス』
『黙れ、死ね』
薄ら寒いファイアウォーカーのシェイクスピアの引用と共にデウス・エクス・マキナを切り捨てんと、リベリオンは甲高い咆哮を上げるネイムレス・メイサアを振りぬく。
しかしレイの隠密襲撃という戦法を知っている上に、自身に向かってくると理解しているファイアウォーカーは半身になる事でそれを間一髪回避する。
『"我々は生贄を捧げる者であり、屠殺者であってはならない。"君は生贄かそれとも屠殺者か』
『知るか、死ね』
バリトンの声で紡がれるファイアウォーカーの言葉に、リベリオンは返す刀を振るうもデウス・エクス・マキナはバックブースターで回避する。
『"どのように時代は過ぎても、我らの行なったこの崇高な場面は繰り返し演ぜられることであろう。"そして君は今、世界の分岐点に立っている。君が私を殺してジハードを破壊してしまえば、世界は秩序を失うだろう』
『俺が死ねば世界は救われるって言うのか? ふざけんな、死ね』
なおも言葉を続けるファイアウォーカーのデウス・エクス・マキナを、リベリオンはガトリングキャノンの掃射を続けながら追い縋る。
しかしそのほとんどが空を切るばかりで、グレーリザードの装甲を穿つ事はなかった。
『"光が光を求めると光から光をだまし取られる。"世界が救われていた事など有史以来なかったろうさ。だが君達の勝利は戦争を終わらせ、紛争が始めてしまう。君達の反逆は曲がりなりにも機能している管理社会の破壊に帰結する』
『だから何だ、たかだか傭兵がくだらねえ絵空事ほざいてんじゃねえよ』
遮蔽物もない荒野で、デウス・エクス・マキナは1発1発が致命傷となりえる大質量の弾丸を回避し続ける。
D.R.E.S.S.自体の性能差は歴然、となれば違うものはそれを纏う人間だけ。
それを圧倒的な余裕と理解していたファイアウォーカーは、ようやくデウス・エクス・マキナの両手に装備されたマシンガンとアサルトライフルの銃口をリベリオンへと向ける。
『ブルームス、"天と地の間には君の哲学では思いも寄らない出来事がまだまだあるぞ。"雑然としながらも秩序を保っている、凄惨でありながら優美な舞台を穢すなど私には耐えられない』
『じゃあ死ねよ! どうせ皆地獄行きだ、アンタのクソ芝居に付き合ってくれる奴も向こうには居んだろ!』
『"冗談が栄えるのは聞く者の耳のおかげであり、それを言う者の舌の力ではない"』
その言葉をレイが知覚した次の瞬間、1発の銃声と共にリベリオンの右膝の装甲を何かが強く叩いた。
大型の武装にパワーアシストの外装等のせいで不安定になっているリベリオンはバランスを崩しそうになるも、ターンブースターを高出力で吹かす事でそれを回避する。
――腐っても、ってかよ
そう胸中で呟いたレイは思わず舌打ちをしてしまう。
デウス・エクス・マキナの左手に装備されたアサルトライフルは、銃口から微かな硝煙を上らせている。
いつでも殺せたのだと言わんばかりのそのファイアウォーカーの態度に、レイは苛立ちを募らせていく。
『言うなれば、"芝居はしまいまでやらせてくれ"、だ』
ファイアウォーカーが陶酔と怒りが混ざり合ったその言葉が紡がれたその瞬間、デウス・エクス・マキナは攻勢へと転じた。
マシンガンから吐き出された弾丸は牽制とばかりにばら撒かれ、アサルトライフルから吐き出された弾丸はリベリオンに喰らいつかんと追い縋る。
リベリオンの装甲に自信があるとはいえ、オブセッションとの戦闘が控えているレイは回避を余儀なくされる。
しかしデウス・エクス・マキナは平然と両肩部のコンテナのハッチを開き、露わとなったミサイルポッドの砲口から両者が放つ弾丸の海へとミサイルを発射した。
運動エネルギーのベクトルを上書きされた弾丸達は四散し、レイは咄嗟にターンブースターで急速旋回をしながら、ネイムレス・メサイアを装備する左腕を振り回す。
高速で外歯を回転させるチェーンソーの刃は弾丸のいくつかを弾き飛ばすも、弾丸のいくつかが破裂したミサイルの熱波で表面を溶解させられた白銀と紫の装甲を穿った。
劇的で、危うくもあり、そして最後には勝利を得る。
それがファイアウォーカーのやり方で、確実な勝利を模索し続けるレイの天敵の戦い方だった。