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D.R.E.S.S.  作者: J.Doe
Smash To [Brutal] Desperado
168/460

[Rebellion]/[Annihilation] In The Name Of [Alias] God 6

『諸君、考えた事はないか? いつ世界は生まれ、誰がそれを生み出したのかを』


 硬質でハスキーな声で告げられた突然の問い掛け。


 その言葉に耳を傾けている者達は理解の出来ない問い掛けに首を傾げ、後部のシートに目を閉じたまま腰を掛けているレイはただその言葉に耳を傾けていた。

 その両隣にはフィオナとエリザベータが寄り添い、その向いにはキャップの十字架が掘り出された銀のトップボタンに見入っている小玲が居た。


『最初に言っておくが、宗教が謳うような都合の良い神など居ない。火を与えたのはプロメテウスかもしれないが、火を使う事で進化したのは人だ。キリストを恐れ、殺しの正当性を見出したのは人だ。ヤハウェは洪水という災害を与えはしたが、堤防を築いたのは人だ。だからこそ私は考える。我々人類は神を超えた、実在していようとしていなかろうと神など不要だと――まあ私は神の存在など信じていなければ、私の剣は私が望めば神でも殺してくれるだろうがね』


 付け加えた言葉を誇らしげな笑みを浮かべるエリザベータは、リベリオンのカラーリングを模したスポーツサングラス越しに眼下に展開されるロシア国防軍を眺める。


 もしクリスチャンの1人でも居れば自身を八つ裂きにしたいと、(はらわた)を煮えくり返らせているだろう。


 しかしそれで構わない、自身の目的はとてもシンプルな物なのだから。

 そんな事を考えながらイヴァンジェリンは言葉を続ける。


『君達は知っているはずだ。戦争に善悪はない、あるのは思想と打算と衝動だけだという事を。そして彼らはそれらに駆られて全てをもみ消すだろう。逝ってしまった君達の同胞達の無念、ただ意味もなく奪われていった弱き人々の怨嗟、その全てを道連れにして。私にはそれを許す事は出来ない』


 表面上だけを取り繕ったイヴァンジェリンの浅い言葉に、地上に居る者達の纏う空気が変わり始める。


 稼ぎが良いから。テロや戦争が身近になった世の中で、それだけの理由で入隊した人間はそう多くはないだろう。


 無力な人々が意味もなく殺されていく。

 家族や恋人が殺された。

 ただ合法的な殺しを求めて。


 その数多に存在する理由達を触発したイヴァンジェリンは、当然のように宣誓した。


『ならば私は神になろう。義憤、復讐、欲望、その全てをこの私が背負おうじゃないか』


 呑まれていた者、反発していた者、何も理解出来ていなかった者。

 それらの全てがその言葉に息を呑む。


 この戦争は正当性すら度外視した、復讐のための戦争だというその言葉に。


 そんな彼らを置き去りにしたまま、イヴァンジェリンはただ言葉を続ける。


『相手はあくまでも使徒(ラスール)? 私の生み出した力を自身の力と履き違えた暴徒(モブ)の間違いだ。連中にも家族が居る? 彼らが殺した人々にも家族は居た。人を殺せば地獄に落ちる? ならば地獄の全てを焼き尽くそう』


 予想通りに自身の言葉に呑まれ始めた人々に、イヴァンジェリンは愉快だとばかりに口角を歪める。

 イヴァンジェリンの任務は即物的な欲求でこの戦場に訪れた彼らを触発し、この戦争に意思を持って参加させる事だった。

 エイリアス・クルセイドが所有している戦力はリベリオン、アナイアレイション、ブラッディ・ハニー、ピグマリオン。その全てを合わせてもたった53機程度でしかなく、イヴァンジェリンには意思を持った"自身らの盾"が必要だったのだ。


 自身らが搭乗しているヘリに危機が迫れば、レイはヘリの護衛のために無理な戦闘をしてしまうだろう。


 そしてそれがレイの命を危険に晒す事であると理解しているイヴァンジェリンが、そんな事を許せるわけがなかった。


『誇れ、何ものにも代えられないその崇高な意思を。振るえ、弱き人々を守る為の剣を。挙げろ、地上に跋扈ばっこする有象無象を駆逐する勝ち(どき)を――私達は偽名(エイリアス)の十字軍(クルセイド)。名を偽り、罪人を裁く粛清の執行人。そして今日が私達が突きつける怒りの日だ』


 そう言いながらイヴァンジェリンは、ヘリ後部のフロアに居るレイをピジョンブラッドの瞳で見つめる。

 言葉に出さずともその意味を理解したレイは立ち上がり、傍らに腰を掛けていたエリザベータは何も言わずレイに黒いレザーで作られたフィールドジャケットを着せていく。


 それは1年前にテキサスの拠点で晶に贈られた物だった。


『さあ、始めようか。讃えられる事も、謳われる事も、その全てが叶わない、履き違えた有象無象共が起こした聖戦を駆逐する再征服(レコンキスタ)を。起こそうじゃないか、醜悪な面で金勘定に勤しむ愚か者達を排除する革命を。そして下そう、その全てに終止符を打つ最後の審判を』


 レイはそのイヴァンジェリンの言葉を聞きながらエリザベータへと頷き、心配そうに様子を窺ってくるフィオナの髪を心配するなとばかりに乱暴に撫でる。

 この戦いは死に場所を求める物ではなく、自身の生きる場所を守る為の戦いなのだから。


 レイは人のためには戦えない、最後まで自分のためだけに戦うのだ。


 やがて2人を耐圧扉で守られたコックピットへ退避したのを確認し、レイは左手を上げてキャップを深く被った小玲を立ち上がらせる。


 そして最後部のハッチが開き、砂を混じらせた乾いた風がレイ達に押し寄せてくる。

 レイはおそらく小窓から様子を窺っているであろう女達に、薬指に4つの指輪を付けた左手で親指を立ててみせる。


 それを見たイヴァンジェリンは、ヴァインの模様を立体的に掘り出された指輪を飾る左手を伸ばして最後の審判を告げる。


『神の名において命ず、け――汝ら(Ye)罪無し(Not Guilty)


 その言葉を皮切りに地上にD.R.E.S.S.を展開を意味する発光に飲み込まれ、レイと小玲は左手首のバングルを叩きながらヘリから飛び出した。

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