[Rebellion]/[Annihilation] In The Name Of [Alias] God 3
「……度し難えな、マジで」
「……同感であります」
荒野には不似合いなカラフルなパラソルの下で安っぽい椅子に腰を掛けるレイと小玲は、タブレットに表示されている新武装のデータに顔をしかめていた。
50機ほど用意されたAIを組み込まれて無人化されたピグマリオン、遠隔操作を受け付けられるように改修されたブラッディ・ハニー、そして新しく用意されたヴェンジェンシア・アグレッシャー。
リベリオンとアナイアレイションに敵拠点の中枢に急襲させるために、イヴァンジェリンが作り出した追加装備。
複数の大型ブースターとコンテナ、短冊が並んだような展開式連装ミサイルポッドによって構成されたその新武装、イヴァンジェリンの相変わらずのネーミングセンスにレイと小玲は深いため息をつく。
重量機であるアナイアレイションと違いリベリオンにはミサイル等の装備を搭載出来なかったため、ネイムレスを纏っていた頃に使い慣らしたミサイル兵器を使えるのはレイにとってありがたい話だった。
しかし問題はその速度にあった。
リベリオンの最高速度は時速約250km、中量機でありながら軽量機のネイムレス以上という類を見ない速度を誇っている。
そしてヴェンジェンシア・アグレッシャーは、重量機であるアナイアレイションを時速約300kmで飛行させる事が出来るというデータをタブレットが表示していたのだ。
もちろんレイもそんな速度を体感した事もなければ、小玲の殲滅にそんな速度が出せるはずもなかった。
「試験出来る物じゃないのは分かるでありますが、ぶっつけでこんなのを使うなんて信じられないであります」
「これが信頼ってやつなら信頼ってやつは簡単に人を殺せるな。まあ雇用主が必要だって言うなら従うだけだ」
かつてない装備に落ち着かないのか、小玲はサイドに結った髪によって斜めになっているキャップを何度も被り直していた。
レイはそれを鬱陶しいと思うも気持ちは分からないでもないため、嘆息する事でそれに耐えるしかなかった。
「それが傭兵という事でありますか?」
「そういう事だ。でも思考停止だけは何があってもするんじゃねえぞ、それは"緩やかな自殺"に過ぎねえそうだ」
かつて聞かされた言葉をレイは口角を上げて言う。
その言葉はかつてのレイを変え、ここまで生かしてくれた言葉だった。
死んでもらっては困る、その認識は今でも変わらないのだから。
「そういえば連携訓練とかしなかったでありますが、どうするでありますか?」
「ただ盾にされてたアンタと、単独戦闘専門の俺が連携なんて出来る訳ねえだろ。フォローとアタックだけ知ってりゃいい」
リベリオンとアナイアレイションが協働を想定されたD.R.E.S.S.であっても、それを纏う自身らがそれを出来ない以上考えるべきではない。
そんなレイの意向を汲んだ上で、小玲は何かを企んでいるかのような笑みを浮かべる。
「ならシャオが師叔を助けるであります! いつでもフォローって叫んでいいでありますよ!」
「バカ弟子に助けられるほど落ちぶれちゃいねえよ」
そう言いながらレイはいつも通りのシニカルな笑みを浮かべる。
試験的に行ったリベリオン対アナイアレイションの模擬戦はリベリオンの圧勝で終わっており、レイが小玲に助けなければならないアクシデントしか想定するはずがなかったのだ。
そんなレイの態度を理解してか、小玲は不満げに口を尖らせる。
「バカじゃないでありますー、バカって言った方がバカなんでありますー」
「アンタまた3回言ったぞ?」
「むきいいいいいいいいいいいいいっ!」
またも同じ過ちを繰り返してしまった小玲は、悔しさと苛立ちから茶色の長髪の頭をガシガシを掻きむしる。
しかし敵対しつつも態度を変えないでくれているレイの優しさが、小玲にはどこか嬉しくも感じていた。
現に叩き落してしまったキャップはレイの手に収まっており、小玲は確かにあの時、フィオナを殺害するつもりだったのだから。
「それで、あの後何があったでありますか?」
「アンタには関係ねえよ」
「師叔はそればっかりであります」
「事実だろ」
レイは1部に向けられている小玲の視線を無視する。
小玲が視線を向けているそれは確かに小玲には関係のない物ではあるが、それは無視をするにはあまりにも存在感がありすぎた。
「シャオは可愛いシャオが、いつ女誑しの師叔の毒牙に掛かってしまうかが心配なのであります」
そう言って小玲はわざとらしく科を作ってみせる。
しかしそれをする小玲は色気とは程遠い存在で、レイの前にはその光景が滑稽に見えていた。
「安心しろよ、ガキに興味はねえ」
「ふーんだ! 今に社長みたいなナイスバディになって、「あの時優しくしておけば」って後悔させて見せるであります!」
「アンタ何回生まれ変わる気だよ?」
「むきいいいいいいいいいいいいっ!」
鼻で笑うどころか嘆息すら混じらせたレイの言葉に、科を作っていた小玲は両手を上げて怒っている事をアピールする。
しかしレイは手に取った小玲のキャップを眺めているばかりで、そのアピールすら無駄なのだと思い知らされた小玲はやがて肩を上下させながら息を整える。




