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D.R.E.S.S.  作者: J.Doe
Talk To [Alias] Messiah
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[Revolutionary] Witch Hunt 1

 薄暗いガレージの中。コンクリート打ちっぱなしの床には、大小様々なコンテナと千切られたリボン、そして乱暴に開けられた洒落た箱が転がっていた。

 推進剤、ミサイル、弾丸、大口径のリボルバー、タクティカルナイフ、ワルサーPPKに使用できるサプレッサー、フラッシュグレネード、アンカーシューター。

 D.R.E.S.S.規格の物から、人の身で使える物まで揃ったガレージ。

 その奥にあるハンガーには灰色と黒のツートンの装甲を纏うD.R.E.S.S.――ネイムレスが、無数のケーブルに繋がれて収まっていた。


『どうやら、私のプレゼントは気に入ってくれたようだね。レイ』

「まあ、正直寒かったから助かった。アンタのセンスも捨てたもんじゃねえな、エイリアス」


 レイはミサイルやマシンガンの補給物資などと同じようにエイリアスの指定したガレージに用意されていた、ファーからジッパーまで全てを黒で作られたレザー製のフライトジャケットを見下ろしながら言う。

 アテネでの戦いの後、休むも間もなくレイが向かわされたのは極寒の大地ロシアだった。

 凍える体を誤魔化すようにタクシーで移動し、辿り着いたガレージでレイネイムレスの弾薬等の補給をしていた。

 普段ならH.E.A.T.から買い入れる事が出来るそれも、任務とはいえ単独行動をしてしまっている今では手に入れる事が出来ない物だったのだ。


 ――牽制のつもりか?


 使っている武装の種類、使用した弾丸、挙句の果てにはレイのぴったりのサイズのフライトジャケット。

 全てを見透かし、こちらが寝返った際には打てる手を用意している。

 そうとも捉える事が出来るエイリアスの対応に、支払いが見込める以上エイリアスを裏切る気はないレイは思わず嘆息する。信用を失った傭兵の行く末など、テロリスト以外にはないと理解しているのだから。


「そろそろ任務を聞かせてもらおうか。こっちはアンタのオーダー通り最速でここまで来たんだ、おかげでロシア入りしてから不眠不休なんだよ」

『ああ、どうして君との楽しい会話は長続きしないのだろうか。まあ君が眠気に苦しむのは私の本意ではないからね、今回の任務を説明させてもらおう』


 面倒そうなレイの言葉に、ハンガーに収められたネイムレスを通して聞こえるエイリアスのくぐもったマシンヴォイスは、芝居がかった口調でそう答える。

 しかしその時間がいくら楽しいものであったとしても、状況は一刻を争う物だと理解しているエイリアスはようやく説明を始めた。


『D.R.E.S.S.による犯罪に心を痛め、全てのD.R.E.S.S.に網膜認証などのセキュリティシステムを載せて、強奪されたD.R.E.S.S.による犯罪を減らすというマニフェストを掲げて政治家としての道を歩み始めた若き才女――エリザベータ・アレクサンドロフ議員がテロリストに誘拐された。レイ、君の任務は彼女を救出して、モスクワまで無事送り届ける事だ』


 そのエイリアスの言葉に反応したようにガレージのコンクリートの壁に埋め込まれたディスプレイの画面が、予備の弾丸とボストンバッグを無理矢理詰め込んだネイムレスの左肩部のコンテナの中身の情報から1人の女の顔へと代わる。


 ――どんな皮肉だよ、クソッタレ


 背中まで伸ばされた金糸のような光を反射するハーフアップにまとめられた金髪、垂れ目気味の透き通るような青い双眸、それらを飾る白磁のような白い肌。

 それは紛れもなく、レイのこの先の人生を悩ませている人間の1人だった。

 ルードやクラック等を手にした瞬間にテロリスト側へ寝返る傭兵達、一般流通しているナーヴスの違法改造(イリーガル)行為。

 そして無限の数の勢力が生まれ、戦争は勢力対勢力という物から人類対人類という泥沼化したものと変わってしまった。

 もはや手の付けようがない現状を破棄し、自浄作用によるそれらの戦力の駆逐を視野に入れたそのマニフェスト。

 そして今後も続いていくだろう戦争の根絶し、戦火のない世界へと人々を導こうとする美しき先導者。


 ――そんなに上手くいくもんかねえ


 上手くいかれては困る、そんな思いからレイは思わず舌打ちをしてしまう。

 戦争の根絶、それを本気で考えている人間も、そんな絵空事に一々怯えてしまう自身にも苛立ったレイは、頭上にある光の点っていないネイムレスの単眼のマシンアイを睨みつけながら毒づく。


「また護衛かよ」

『そうだ、そして今回も派手な戦闘が想定される。様々な妨害に想定される為、移動にはレンタカー、場合によってはネイムレスを使用して欲しい。その為に今回も偽造IDを用意させてもらったんだ、上手く使っておくれ』

「了解。それで今回の俺は誰だ?」


 しかし商売敵の護衛という任務に苛立っているレイのぶっきらぼうな言葉にすら、喜色を滲ませるエイリアスはもったいぶるように咳払いをして告げた。


『新興民間軍事企業エイリアス・クルセイドの1番の腕利き、レイ・ブルームスだ。ID上の君の存在に虚偽が混じるが、この少ない設定を破綻させなければ好きにしてもらって構わない。何より大事なのは信頼を得る事だ』

「……偽名(エイリアス)の十字軍(クルセイド)、か。センスがどうのって前言、撤回させてもらうぜ。それで、戦場はどこだ?」


 満足げに告げられたその名前に、レイは深いため息をつく。

 ジョナサンが考案したH.E.A.T.も大概だと思っていたレイは、どうせ今回だけだと自分を納得させて質問を続けた。


『サラトフ郊外にある、かつてオイルシェール等の天然資源を採掘していた廃施設。そこにアレクサンドロフ議員は身柄を拘束されている。施設内の見取り図は、先ほど送信したファイルを確認してくれ』

「敵の戦力は?」

『ジャミングのせいで特定不能、よってクラックが配備されている事だけは把握出来る。モスクワの街中でD.R.E.S.S.で戦闘を始めるような連中だが、所詮は拝金主義の低レベルなテロリストだ。君の敵ではない』


 相変わらず簡単そうに言ってみせるエイリアスの不気味な低音のマシンボイスを聞きながら、レイは右手で顔を覆いながら深いため息をつく。

 それでも物資、情報、偽造IDデータという望む限り最高の支援をしているエイリアスに、レイは文句など言えるはずもない。


『さあ、さらわれた姫君を助けに行こうじゃないか――状況は一刻を争う。頼むぞ、レイ』

「いいぜ、仕事だからな」


 そう言いながらレイは左手でハンガーに収められたネイムレスの灰色の装甲を軽く殴り、左手首へとシアングリーンの光を集束させていく。

 やがて繋がれていたケーブルは重力に導かれて床に落ち、光は質量を伴ってバングルという形でレイの左腕へと鎮座する。

 そしてその左手を後ろでに電源が入ったままのディスプレイに振り、レイは薄暗いガレージを後にすると、唯一の光源だったディスプレイは1人でにその電源を落とした。

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