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D.R.E.S.S.  作者: J.Doe
Smash To [Brutal] Desperado
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Point Of [NO] Return 6

 月明りに照らされた荒野を、シルバーのBMWが法定速度ギリギリの速度で進んで行く。


 力なくぶら下がる右腕と助手席に放っているUZIを無視しながら、レイの頭は与えられた情報から推測を始めていた。


 ファイアウォーカーは何らかの方法でディファメイション戦を逃れて生き残り、デスペラードという組織に身を寄せていたのだろう。

 リベリオンを作ってしまった事であらゆる組織にとって、見過ごせない存在となってしまったイヴァンジェリン。

 デスペラードはそのイヴァンジェリンを排除、もしくは誘拐する目的で動いている。

 500万ドルに踊らされて送り込まれたコールド・グリッターという部隊は、ファイアウォーカーなりの宣戦布告なのだろう。

 派手な舞台で派手な殺し合いを何よりも望む。シェイクスピアを愛するファイアウォーカーは、そう言った演出家で陶酔家なのだから。


 ――自分で調べるしかねえな


 やがて見えてきたリュミエール邸と、決して得意とは言えない情報収集にレイは深いため息をつく。

 おそらくノウマンはこれ以上の情報を与えてくれる事はなく、イヴァンジェリンにいたっては未だミレーヌのクラック、エスプワールのデータすらレイに開示していない。


 しかしファイアウォーカーに目を付けられてしまった以上、レイはデスペラードとは決着を付けなければならない。


 そしてレイはハンドルに付けられた端末を操作してセキュリティの限定解除とガレージのシャッターを開けさせて、車をリュミエール邸の敷地内のガレージへと滑り込ませた。


 ――問題はここからだよな


 車を停止させたレイは身を乗り出してUZIを手に取りながら、小さく舌打ちをする。

 UZIを手に取った左手首のバングルはレイが路地裏で一方的な殺し合いをしていた時から、通信を告げるシグナルが点灯しているたのだ。

 実際にそれどころではなかったのだが、私用で出掛けてその結果襲撃されてしまったと言う事実をイヴァンジェリンが許すとはレイには思えなかった。


 イヴァンジェリンとレイの関係はあくまで雇用主とその傭兵。

 傭兵が自発的な情報収集の結果で起きてしまった戦闘は、あくまで私闘でしかないのだから。


 レイは車を降りて、壁に付けられたボタンを押してシャッターを下ろさせる。

 どんな技術なのかは分からないが、音もなく降りてくれるシャッターは夜遊びには最適だった。

 もっとも要塞と化しているリュミエール邸で、イヴァンジェリンの目を誤魔化す事など出来る訳がないが。


 特殊シリンダ、網膜、静脈。


 音も立てずに辿り着いた玄関の3つの鍵を開けて扉を開けると、屋敷は既に全ての照明が落とされて真っ暗になっていた。

 個室にシャワーとトイレを完備しているリュミエール邸で、夜中に部屋から出る理由など本来はないのだからそれも当然だろう。

 レイは足音を立てないようにロビーを進み、弧を描くように作られた階段を上っていく。


 しかし2階でレイを出迎えたのは自室の扉ではなく、窓から差し込む月光を背負う白銀の麗人だった。


「こんな夜中にどこに出掛けていたんだい、レイ?」


 1週間ぶりに顔を合わせたイヴァンジェリンは真っ赤なナイトドレスに身を包み、白雪のような白髪を月光に輝かせ、ピジョンブラッドの瞳でレイを見つめながら問い掛ける。


 その幻想的なほどに美しい様にレイは言葉を失ってしまう。


 イヴァンジェリンが佇む月光に照らされた世界が、自身が居る世界とは血と硝煙に溢れた世界とは違うのだと理解させられてしまったのだ。


「ちょっとドライブにな、そういう夜もあるだろ?」

「そうかい、なら教えて欲しいね。与えた覚えのないその銃と、その頬の傷の事をさ」


 そう言ってイヴァンジェリンはレイへと歩み寄り、その華奢な腕を腰に回すようにして正面からレイを抱きしめる。

 いつかと同じ状況だと言うのに、レイの胸中には慣れ親しんだ冷たい不快感が広がっていく。


 その体を強く抱きしめたいと願うも、イヴァンジェリンの体は触れるだけで壊れてしまいそうなほどに華奢で、触れるにはレイの手は穢れすぎていた。


 そして目を伏してしまいそうになったレイの頬を、暖かい何かが触れて頬の傷に鋭い痛みが走る。


「んぅ……、はぁ……」


 水音を立てながらレイの乾いた血を舐め取っていくのは、イヴァンジェリンの鮮やかな赤い舌だった。

 イヴァンジェリンはレイに体を押し付けながら、火照りだした顔に隠し切れない恍惚の笑みを浮かべていた。

 塞がっていない傷口は次々と血を溢れ出させ、イヴァンジェリンはその血を赤い舌に絡めていく。


 白銀の月光を湛えるイヴァンジェリンを自身の血が穢していくその様は、レイに途方もない倒錯感を感じさせる。


 それはまるで俗世の穢れを知らぬ聖女を、自身の色に染め上げていくような。


「……なんで教えてくれなかった」

「っ……ぁん……、何の話だい?」


 荒い息を交えながら答えるイヴァンジェリンの舌は、なおもレイを求めるように水音を立てて蠢いていた。

 その蠱惑的な感覚に抗いながら、レイは窓の外の藍色の夜空に浮かぶ三日月を見つめながら口を開いた。


「"デスペラード"、エスプワールの残骸から同じ名前が出て来てるはずだ」


 そのレイの言葉に、イヴァンジェリンは名残惜しそうにレイから体を離す。

 ノウマンが考えていたように、エイリアス・クルセイドはイヴァンジェリンからの情報によって行動を決める組織であり、レイの言葉は傭兵の独断専行を意味していた。


「最近はいろいろ忙しくてね、悪いとは思ってるけど解析はレイが思っているほど進んでいないよ」

「……そうかよ」


 嘘だ。淡々と紡がれたイヴァンジェリンの言葉に、レイは辿り着いた判断にシニカルな笑みを浮かべる。

 フィオナのような才能も、エリザベータのような頭脳も、晶のような場数を踏んだ経験もないがそれくらいはレイにも理解出来る。

 それでもイヴァンジェリンはレイに情報を与える必要はないと考え、レイは入手した情報から戦いを避けられない事を理解していた。


 新しい傭兵。

 イヴァンジェリンがラボに篭もっている理由。

 開示される事は最後までなかった情報。


 それらがレイの戦いに迫り来る終わりを教え、レイは静かに決心をした。


 返しきれなかった恩は、何もかもを道連れにしていく事で返すと。


 そして自室へ帰ろうと踵を返したレイを、イヴァンジェリンのハスキーな声が呼び止める。


「ところでレイ、"右腕の調子はどうだい?"」


 その言葉にレイが"思い浮かべた"のはリベリオンに新しく搭載された、パワーアシストの機構を内包した外部装甲だった。

 2日と掛からずに仕上げられたそれは、リベリオンの動きを阻害するどころか可能な限り効率的に動作のサポートしていた。


「……おかげさまで良好だ、手間を掛けさせて悪かったな」


 そう言ってレイは背後のイヴァンジェリンへ、左手で手を振りながら自室へと歩き出した。

 バンダナ柄のシャツで隠された右腕は、未だ力を失ったように揺れていた。


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