Point Of [NO] Return 5
体感では1分ほど、実際には数秒ほど。
UZIを抱えて飛び出してきた男を確認するなり、レイは左手に握ったワルサーPPKのグリップで男の顎を強く殴りつける。
予想だにしない一撃をもらい崩れ落ちそうになる男の頭を、レイは右肩で受け止めるようにして意識を失った男を抱きとめる。
自身よりも大きな体を持つ男の顔が近いという気色悪さと、今にも地面に叩きつけてしまいそうな男の体を支える右腕が訴える激痛にレイは顔には脂汗が浮き始める。
「おい、どうし――」
尾行対象を見つけた男の仲間はレイへ銃口を向けるも、取り押さえられている仲間に気付いて引き金を引けないで居た。
「なるほど、全員戦闘に関しては素人って訳だ」
都合が良いと激痛を無視したレイは、躊躇いもせずにワルサーPPKの引き金を引く。
渇いた銃声と共に吐き出された弾丸は男の頭を捉え、固形の有機質を混じらせた水分をぶちまけて男に死を叩きつける。
レイは逃げ込んだのはT字型の細い路地で、平面的に捉えられるそこは"精密射撃が苦手"なレイには絶好のハンティングポイントだった。
そして70kgほどの有機質が地面に叩きつけられた音に、敵対者達はそこへと集結して次々と無様な背中をさらしていく。
――全員が戦闘に関しては素人、工作部隊か通信部隊ってところか
ワルサーPPKのグリップを口で咥えたレイは、気絶させたスリングで肩に掛けられているUZIを奪ってストックを左肩に付ける。
準備は出来たとばかりにレイは分速600発の殺意を、ろくに狙いも付けずに解き放った。
暴れ出す銃身はレイの右腕を激しく刺激し、連続して吐き出された弾丸達は男達を食い破り、小音声など考えられてもいない連続する銃声は騒がしいロサンゼルスの夜に濃厚な死を香り立たせていく。
――楽な仕事だとでも思ったか、クソヤロウ
口では言えないため胸中でそう呟いたレイの頬を弾丸が掠り、熱い痛みと溢れ出す液体の温もりを感じながらレイは淡々と殺していく。
レイへと飛来する弾は抱きかかえている男が全て引き受けてくれ、UZIは未だ弾が尽きそうにない。
そしてレイは最後に残しておいた比較的体の小さな男の肩を撃ち抜き、抱えていた男の死体を離す事で路地に並ぶ死体達の1つにする。
――残り時間は少ないか
未だ意識が残っているのか、肩を撃たれた際に落としたベレッタへと手を伸ばす比較的小さな男の手。
レイはその手をコンバットブーツの分厚いソールで踏み抜く。
「俺の質問以外に声を出すな。出せば殺す、質問に答えなくても殺す」
レイは咥えていたワルサーPPKを、痛みに震える右手でホルスターに戻しながら言う。
突然与えられた更なる苦痛に声を出す事も、のた打ち回る事すらも許されない男は地面に伏し、血と脂汗を流しながら力強く頷く。
そしてここに留まるのは危険だが、この男を連れて逃げる余力も時間もないレイはここで答え合せを始める事にした。
「所属はどこだ?」
「……じょ、情報工作部隊、コールドグリッターだ」
痛みに目を白黒させながら地面に付している男は何とか言葉を紡ぐ。
しかしこのままでは時間が掛かると踏んだレイは、男の手を踏みつけている右足に力を加えた。
「民間軍事企業の名前は?」
「いてえ! いてえよ! で、デスペラードだよ! 痛いから力抜いてくれよ!」
――早速出会えるなんて、ツいてるんだろうな
自身らに張り付いているのがノウマンだけではないのだと改めて理解させられたレイは、フリーになっている左足で男の顔を蹴る事で黙らせる。
ロサンゼルスは犯罪が多いが、その分国防軍の対応もスピーディーなのだ。
遠くから聞こえ始めたサイレンにレイは最後の質問をする事にした。
「これが最後だ、アンタらに指示を出したのは何て奴だ?」
男はその質問に顔を痛みとは違う物に歪める。
恐怖、不安といったマイナスの感情に歪んだ男の顔を、もう一度蹴り飛ばそうとレイが右足を上げたその時、男は踏みつけられていない左手を振って慌てて答えた。
「ファイアウォーカーって男だよ! お前なら知ってるんだろ!?」
その聞き覚えのある男のファミリーネームに、今度はレイが顔を歪めていた。
ジャスティン・ファイアウォーカー。民間軍事企業H.E.A.T.最強の陶酔家な傭兵であり、レイがH.E.A.T.に所属していた頃に勝てなかった2人の内の1人。
そしてレイは血走り始めた目で見上げてくる男の額に、UZIの銃口を押し付ける。
「……ああ、よく知ってる。手間を掛けさせたな」
レイはそう言ってUZIの引き金を引いていとも簡単に男を殺し、その結末も見届けずにそこから逃げ出した。




