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D.R.E.S.S.  作者: J.Doe
Smash To [Brutal] Desperado
139/460

Dressed In [Hurtful] Tragedy 5

 リュミエール邸はD.R.E.S.S.の演習用施設を除けば、横に長い長方形の2階建ての屋敷だ。


 玄関を中央に右側の1階にはキッチンやランドリールームなど、2階には応接間と特定の人物が使うだけの客室が用意されていた。

 玄関を中央に左側の1階にはイヴァンジェリンのラボがその全てを占め、2階はイヴァンジェリンと晶のプライベートルームが、そして有事の際の事を考えていくつかの空室を隔てて客室側の部屋にレイのプライベートルームが用意されていた。

 記録や防犯のための備えをしている応接間でしかイヴァンジェリンは外部の人間と会うことがなく、その結果として社長室などを用意する必要がなく多量の空室が生まれていたのだ。

 そしてレイが有事の際にいち早く対応出来るようにというその部屋の配置も、基本的にリュミエール邸に逗留する人間がフィオナとエリザベータだけだったため形骸化していたが、小玲という新しい傭兵見習いが来た事によって意味を持ち始めていた。


 小玲は客室の1番端の客室を与えられ、フィオナはレイの部屋の向かいの部屋を、エリザベータはレイの隣の部屋を与えられていた。


「そろそろ医師免許を取る勉強でも始めようかしら。レイ君はナノマシンに頼りっぱなしだし、社長は機械以外のこと分からないって言うし」


 打ち込まれた弾丸によって筋を痛めつけられたレイの腕の処置を終えた晶は、そう言って医療器具が詰められた合金の箱を閉める。

 リベリオンのフレームは頑強に出来ていたおかげでほぼ損壊は無いが、衝撃だけは殺す事が出来なかったのだ。


 レイは冗談染みた口調で言われた晶の言葉に肩を竦めながら、治療のために脱いだミリタリーシャツを羽織ろうとする。

 しかし右腕を袖に通そうとした瞬間、走った激痛にレイは顔を歪めてしまった。


「まったく、着るなら言いなさい」

「……これくらい大した事ねえよ」


 脂汗を浮かばせながらレイはそう言って強がるが、晶がそんなレイの強がりを看破できないはずがなく、晶はレイに左袖だけを通させて、右肩に掛けるようにしてミリタリーシャツを羽織らせる。

 あまりいい格好ではないが、外に出るわけでもない上に右腕を動かすのも避けたいのだからこれがベストなのだ。


「なんか重傷の奴みたいじゃねえか」

「間違っても軽傷ではないわよ、スナイパーライフルの弾を近くで喰らったんでしょ?」


 嫌そうに顔をしかめるレイに、晶はいつものように人差し指を立てて諭すように言う。

 データでしか知らないが、D.R.E.S.S.のスナイパーライフルの弾が生半可な威力でない事くらいは晶も知っているのだ。


「まあ、あの子達に心配掛けたくないのは分かるけど我慢しなさい」


 その見透かしているとばかりの晶の言葉に、レイは不機嫌そうに眉間に皺を寄せて防弾ガラスを嵌められた窓の外を眺める。

 部屋にはレイと晶のブラックレザーのソファに腰を掛けた2人だけしか居らず、室内の音が一切消える。

 屋敷の部屋の防音性はとても高く、階下で鳴り響いているはずの機械音も2人の耳にはほとんど届いていなかった。


「それで、何があったの?」

「……別に」

「"アンタには関係ねえよ"って言わなくなったのは成長だと思うけど、それじゃ結局のところ何も変わらないわ」


 なんでもないように呟かれたレイの言葉に、晶は苦笑を浮かべて苦言を呈す。


 鴻上製薬で部下を演じていた時からそうだったが、レイはどうにも人の頼り方を知らないようだと晶は感じていた。


 自身の判断ではどうにも出来ない問題だけは晶に聞いてきたが、レイは麗子レイコ花里ハナザトのお茶すらデスクにペットボトルを置く事で拒み続けるほどに。

 第1総務部の存在意義を正確に理解して何らかの妨害工作を案じた結果かもしれないが、レイが抱えている人間不信の影響も大きいだろう。


 そんな事を考えていた晶は、黒い革紐に通されたメダイの表面を指先で撫でながら立ち上がって口を開いた。


「ここに来てからもう1年と半年くらいかしら、ずっとレイ君を見てきたわ――エスプレッソはイタリアンスタイルで飲むのが好きで、紅茶には何のこだわりもなくて、映画には詳しいけど取り分け好きなのは007のゴールデンアイで、好きなブランドはクロムハーツだけど何でもかんでも好きなわけじゃない。現にこの間買ったキャップも全く被ってないわね」

「俺の事はなんでもお見通しだってか?」


 次々と並べられる自身の事に、その意図が理解出来ないレイはそれがどうしたとばかりに顔をしかめる。


 コーヒーと紅茶は晶が淹れるのしか飲まなくなったため、晶がそれを知っているのは当然だ。

 映画も繰り返し観ているのは007のシリーズであり、たまに一緒に観たりしているはずの晶が知っていてもおかしくはない。

 好きなに関しては、レイのクロムハーツを事あるごとに買ってしまう浪費癖を直させた晶が知らないはずがない。


 だからなんだ。そういわんばかりにどこか白けたような表情を浮かべるレイの顔を、晶はしゃがみ込み、視線を合わせて覗き込んだ。


「いいえ、だから知りたいの。レイ君の力になりたいの」


 逸らしようもないレイの視線と、本人の意志の強さを表わすような混じりけのない黒の瞳の視線がぶつかる。


「わたしでは力不足かしら? 確かにわたしは銃の安全装置の外し方も知らないし、データ上でしかD.R.E.S.S.の事は理解出来ない。それでもあなたの力になりたい、そう思うのは過ぎた願いなのかしら?」


 藍色の瞳を覗きこむ、咎める様子も問い質す様子も見せないその視線に、レイは負けたとばかりに痛まない左肩だけを竦めた。

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