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D.R.E.S.S.  作者: J.Doe
Smash To [Brutal] Desperado
129/460

Don't Make Me [Your] God 2

「やっと見つけたであります、師叔(スース)!」


 そう叫んだ小玲は顔を胸に押し付けるようにして、今まで気絶していたとは思えない勢いでレイに抱きついた。

 その際に胸からぶら下げている銀の十字架に頭を強く打ったのも気にならない小玲の様子に、レイは驚愕から顔を強張らせる。

 その表情は普段から表情変化が乏しいレイには珍しいものだったが、女が抱きついている現状と知っている少女象と合わない小玲の様子に4人の女達はそれどころではないとばかりに目を見開く。


「……ドクター・スースならこの屋敷には置いてねえぞ」

「それは流石に厳しいわよ、レイ君」


 困惑しつつもようやく吐き出せたレイの言葉に、自身も心中穏やかではない晶が端的に否定する。

 しかし稀代の天才(イヴァンジェリン)の盾であるレイに現実逃避は許されず、目下1番意味不明である言葉を問いかける事にした。


「大体"スース"ってなんだよ?」

「師叔は師叔であります!」

「ダメだこいつ、話通じねえや」


 決心から数秒で挫折したレイは面倒だとばかりに舌打ちをし、胸にこすり付けてくる小玲の小さい頭を掴んで引き剥がそうとする。

 しかし小玲の両腕はレイの腰に、両足はレイの左足にしがみつかれ、小玲が離れる様子は一切ない。


 イヴァンジェリンが罰を与えるという目的を持ってレイに小玲を殴らせた以上、命令以外で小玲を殴るわけにもいかないレイは深いため息をついた。


「師叔は中国語で師匠みたいな意味だったと思うよ、私の記憶が間違っていなければね」


 そうどこか楽しそうに告げるイヴァンジェリンの言葉に、レイは心底嫌そうに顔をゆがめる。

 どう足掻いたところで教師役など柄ではないのだと、レイは自身を理解しているのだから。


「そんな事はどうでもいいですわ、レイさんから離れなさい」


 そう言ってエリザベータは勢い良く華奢な指を小玲に向ける。

 当人達にはそんなつもりはなくても、エリザベータからすればその光景は"想い人に抱きつく知らない女"というものでしかないのだ。

 それを知ってか知らずか小玲は、レイに頭を捕まれたまま浮かべた得意げな笑みをエリザベータに向ける。


「い、や、でありますー」


 妙な優越感にでも浸っているのか、小玲はアクセントを付けた言葉を返した。

 急に懐かれた理由に検討もつかないレイは頭を抱え、その透き通るような垂れ目気味の碧眼を飾る顔から表情を消したエリザベータはユラリと立ち上がる。


「……いい度胸でしてよ小娘――ならばレイさんにへばりつくその指の爪を、1枚1枚丁寧に剥がして差し上げますわ」


 美しい顔は能面のように取り繕った笑みを浮かべ、華奢なはずの手は獲物を求めているように震えている。

 レイはその見た事のないエリザベータの様子に静かに戸惑ってしまう。

 

「ヒイィッ!? もっと離れたくなくなったであります!? た、助けて欲しいであります、師叔!?」

「師匠になった覚えはねえよ」


 予想外の事態に怯えているのか、信じられない力でしがみついてい来る小玲にレイは端的に吐き捨てる。

 小玲を預かるかどうかは模擬戦の結果でイヴァンジェリンが決める事になっており、レイは朝になれば小玲は出て行かされると確信していた。


 しかし次の瞬間告げられたイヴァンジェリンの言葉は、レイにとっては信じがたい物だった。


「それのことだが、彼女を少しの間預かる事にしたよ――ジェーブシュカも悪いが抑えてくれたまえ」

「本当でありますか!?」

「マジで言ってるのか?」


 同義異音の言葉。違うのは願いが叶ったという喜色を滲ませる小玲の様子と、あからさまに訝しむレイの様子だけ。

 しかしイヴァンジェリンは当然のように言葉を続ける。


「マジだ。小姐シャオジェには見習傭兵としてレイと晶の指示の元で訓練と雑務をこなしてもらう事になる――どうせ所属している会社は瓦礫の下だ。問題もないだろう」

「……アンタがそれでいいって言うなら、俺は何も言わねえよ」


 予感が確信に変わったのを確かに理解しながら、レイはようやくを力を抜いた小玲を引き剥がす。


 小玲という少女は、生半可ではないリスクを負ってでも手に入れる必要がある存在なのだ。


 雇用主(イヴァンジェリン)がそう考えているのであれば、レイが言える事はもう何もない。

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