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D.R.E.S.S.  作者: J.Doe
Goodbye To [Nameless] Avenger
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Burn [Baby] Burn 6

起動(イグニッション)


 相も変わらず耳元で囁かれるマシンボイスの薄ら寒い文言を聞き流しながら、レイは高速で後退しながら銃撃を続けるディファメイションに追い縋る。

 異常なほどの精度で放たれた青白い閃光はエンブレムが描かれた白銀のシールドを吹き飛ばし、合金製の弾丸は漆黒の装甲を削る。時速約250kmの撤退と追撃に両者はその身を委ね、その間にもチェーンソーは甲高い金属音を立てて外歯を高速で回し続けていた。


『なるほど、単独(シングル)戦闘(コンバット)は父親以上か。なおさら君を殺さなければならないみたいだね』


 無造作に隆起する岩壁、放った弾丸で引き起こした落石。

 ディファメイションが巻き上げた土煙の中で回避機動とブレードユニットによる近接格闘を主体とした高速機動戦、僚機を必要とするヘンリーとは似て非なるその戦いにヴィレンは舌を巻く。

 ヘンリーの戦い方はジョナサンとヴィレンを最大限利用するもの。だからこそレイのように1人で勝利までの道程を作り上げるという戦いに、フルメタル・アサルトの隊員達全員が辿り着く事はなかったと理解できたのだ。


『知るかよ』


 斬りかかるチャンスを伺いながらガトリングにという牽制には過ぎた大質量の弾丸達を解き放ち、レイは怒鳴りもせずに淡々と返す。

 4人が自身を必要としてくれたことでレイの中でヘンリーという壁は消滅し、父を越えるという悲願ですら通過点の1つと化しており、レイの精神が揺らぐ事はない。


 そしてレイはシアンブルーの視界で、ディファメイションが持つ粒子キャノンを睨みつける。


 幸運にもギリギリの所でその閃光に飲み込まれずに済んだとはいえ、レイは胸から右肩に掛けて負った火傷とネイムレスを失った事でその威力を十分に理解している。

 だからこそレイはその砲口を上空のヘリに向けられないように自身に引き付け、それを掻い潜って必殺の一撃をディファメイションに見舞わなければならない。


 どこかで何かを間違えればレイは死に、4人は死ぬよりも辛い目に合わされるだろう。


 そんな極限といえる状況下であっても、レイははっきりと勝利を知覚していた。

 相手が自身と同じような救いがたい存在で、その兵器に絶対の自信を持っているからこそ相手はそれを生かすための攻勢に出てくるはずだ。レイはそう考え、そしてその考えを裏付けるようにディファメイションは粒子キャノンの砲口に青白い粒子の光を集束し始める。


 ネイムレス・メサイアの粒子を集束させる時間を考え、好機と踏んだレイはリベリオンを上空へ飛び上がらせる。


 そしてリベリオンが斬りかかるにも回避するにも最適な場所を手に入れたその瞬間、この世の悪意の全てを詰め込んだような笑い声をリベリオンが捉える。


『本当におめでたいやつだな、分からないのかい!? 1人ということは、こういう攻撃から君を守る仲間(ジョナサン)は居ないってことさ!』


 そう言うなりディファメイションは辺り構わず撒き散らしていたジャミングに指向性を持たせ、その全てをリベリオンへと解き放つ。

 クラックだけで編成した大隊規模の濃度を持つソレは、決戦の地とされた峡谷を飲み込むほどの規模で展開できる物。

 情報攻撃をキャンセルしてくれるクラックを僚機として連れていない、たった1機のD.R.E.S.S.に向けられてしまえばひとたまりもないだろう。


 ――そして機能停止したリベリオンを粒子キャノンで吹き飛ばす


 脳裏で思い描いた光景にヴィレンは黒い装甲の中で歪んだ笑みを浮かべる。

 あの粒子の奔流は「出来るだけスマートに楽しむ」という、ヴィレンのスタンスを変えてしまうほどにヴィレンを強く惹きつけていた。

 その青白い光の奔流だけが自身の異常さと、それを拒絶するであろう世界を融合点なのだから。


『終わりにしよう、もう少し遊んでいたいけど君の相手は危険すぎる』


 代えの利かない粒子ライフルの片割れを破壊されてしまった以上、ヴィレンはもはやレイを侮る事も出来ない。

 ディファメイションはゆっくりと左腕に装備した赤いラインが入ったヴァンダリズム・バニッシャーの砲口を、上空で動きを封じられたリベリオンへ向ける。


『さようなら、醜く不様な復讐者(アヴェンジャー)。来世があるなら口の利き方くらい覚えておい――』


 圧倒的優位に立っていたヴィレンは、目の前の信じられない光景から手向けの言葉を止めてしまう。

 動きを止めているはずの、動けるはずがないリベリオンのガトリングの銃口が何かに抗うようにゆっくりと動いているのだ。

 自身と決着をつけるためにジョナサンが送り込んできた民間軍事企業H.E.A.T.の腕利き達で、そのジャミングの強さは証明されているはずなのだ。

 しかし結果はディファメイションの赤いデュアルアイに、悪夢のような光景を見せ付けていた。


『俺の事はどうでもいい、親父の事はもっとどうでもいい。でも、アイツを侮辱した事を許すわけにはいかねえ。それが"俺達のルール"なんだよ』


 その言葉と同時に粒子の集束を続けていた粒子キャノンは、上空から殺到する弾丸達にその長身の銃身を地面に叩き付けられる。今にも引き金を引こうとしていたディファメイションの指は、粒子キャノンが動かされた事により無理矢理引き金を引かされてしまった。

 そして今ヴィレンが自身に起こっている事を理解するよりも早く、青白い粒子の光が峡谷を飲み込んだ。

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