Burn [Baby] Burn 5
レイは迫り来るGと地面から逃れるように、左手首のバングルの叩いてシアンブルーの粒子の光を解き放つ。
その粒子の光は大空を落下していくレイの体へ集束し、レイを復讐の纏甲者へと変えていく。
夜闇を切り裂く青白い粒子の光を回避するピグマリオン達を眼下に見下ろしながら、レイはその身に纏った新しいD.R.E.S.S.の反応に舌を巻いた。
晶がプレゼントしてくれた一目で1級品と分かるフィールドジャケットよりも、遥かにそれはレイの体に馴染んで見せたのだ。
それと同時にレイは安堵し、掛けられた期待に気持ちが昂揚していく。
実戦データが必要だったとはいえ、ジョナサンはろくに慣れる事も出来ないままにオブセッションを纏ってネイムレスと対峙した。
望まれるまま作っただけの憑執の鎧と、愛する者の力になるためだけに作り出した復讐の剣。
その2つには埋めようもないほどの差が生まれていた。
今まで纏っていたネイムレスよりも2回りほど大きい、引力によって生まれた運動エネルギーをリベリオンはブースターによって相殺し始める。
そして眼下の戦いがディファメイションによる一方的な殺人に変わったのを確認したのを確認したレイは、リベリオンの右腕に装備されたガトリングキャノンの巨大な砲口をディファメイションへと向ける。
両手に装備した粒子ライフルで早撃ちのガンマンのように次々とピグマリオンを撃ち落していくディファメイションは、静かに降下してくるリベリオンに気付く様子もない。
『死ね』
白銀の装甲の中で口角を歪めてそう呟いたレイは、ガトリングキャノンの引き金を引く。
無視するには殺傷性が高く、回避するには数が多すぎる弾丸達が轟音を立ててディファメイションへと殺到していく。
実弾とは比べ物にならない粒子兵器を擁しているとはいえ、ピグマリオン達に翻弄されていたディファメイションはそれに気付いた時には放たれた弾丸達に流線型の装甲を、左腕に装備した粒子ライフルを抉られていた。
粒子兵器はそこにある存在する物質の全てを焼き尽くす事ができ、実弾兵器は粒子を集束させる時間を必要とせずに発射する事が出来る。
ディファメイションは全てのD.R.E.S.S.を侮蔑し、オブセッションはそのディファメイションへの憑執から悪意を撒布し、その2つを裁くためにリベリオンが生まれたのだ。
そしてディファメイションは残された右腕に装備した粒子ライフルで応戦しながら峡谷を駆け抜けていき、リベリオンは上空から牽制の手を止めずに追撃を続ける。
青白い粒子の閃光は白銀の装甲を掠め、合金製の弾丸は黒い侮辱者を追い立てていく。
――大したもんだよ、マジで
リベリオンの弾道をぶらす事もなく、高速で弾丸を吐き出し続ける大口径のガトリングを御している白銀の装甲を纏う腕に、レイはシアンブルーの光を灯すバイザーアイの下で薄く笑みを浮かべる。
それほどのパワーを擁しながらも、リベリオンは3m級の軽量機であるネイムレスと遜色のない動きをして見せた。
ディファメイションは振り向き様に、粒子発生機構を抉られた粒子ライフルをリベリオンへと投げつける。
リベリオンはそれを半身になることで回避するも、ディファメイションが背負っていた粒子キャノンを手にしたのを確認して背部ブースターをフルブーストさせて、一気に彼我の距離を詰める。
時速にして250km。
ネイムレスでは体感のした事のない速度に身を任せたリベリオンは、その速度を殺さないままに長身の銃身を右足で踏みつけて地面に叩きつけ、その右足を軸にした後ろ回し蹴りを放つ。
しかしディファメイションは上半身を逸らす事で間一髪それを回避し、粒子キャノンを振り上げてリベリオンを投げ飛ばす。
――クソ硬てえ!
粒子ライフルの銃撃を恐れた回避機動を取りながら、レイは白銀の装甲の中で舌打ちをする。ヴァンダリズム・バニッシャーと名付けられた粒子キャノンの完全な破壊は出来なかったとしても、銃身を曲げるくらいならという期待は見事に裏切られた。
そして改めて理解させられる、ディファメイションもイヴァンジェリンが全力を賭して作り上げたD.R.E.S.S.なのだと。
『会いたかったよ、グリーンアイド――ああ、もう緑色じゃないのか。あの緑の目は"どこかの誰か"にそっくりで、とても大好きだったのに』
『黙ってろよクソヤロウ。アンタを殺しにきた、大人しく殺されてくれ』
動きを止めたディファメイション――ヴィレン・ラスチャイルドのどこか皮肉ったような響きを持つ言葉に、レイはリベリオンの左手の中指を立てて応える。
かたやヴィレンが唯一勝てなかった人間の息子であり、最強の座からヴィレンを蹴り落とそうとする唯一の怨敵。
かたやレイ達を巻き込んだプロジェクト・ワールドオーダーを起こさせた元凶であり、レイとイヴァンジェリンの両親を殺したと仇敵。
そんな両者が抱いている感情に、敵意以外のものなどあるはずがなかった。
『親子揃ってって感じだな、頭の悪さの遺伝なのかい? あの人形偏愛症も何を考えているのやら』
『ほざくなよ、テメエが選ばれなかったからって僻んでんじゃねえ』
イヴァンジェリンを侮辱するヴィレンの言葉に、レイは中指を立てていた手を振り払うようにして伸ばし、より大きくなった棺桶型のユニットからチェーンソーの刃を展開する。
ただ生きているだけだった幼いレイでさえ、その黒いD.R.E.S.S.がヘンリーに与えられる物だという事を知っており、自身の力足らずを棚に上げてイヴァンジェリンを侮辱したことがレイには許せなかった。
『認めるよ、きっとそれは君のためだけに作られた最高のワンオフ機なんだろうさ。とても羨ましいけど、それには惹かれる感じがしないのも事実でね。それだってのに、君は代えの利かないライフルを壊してしまった――もう君を許す訳にはいかない』
苦笑するように、嘯くように、そして最後には感情を切り捨てたようにヴィレンは言う。
ヴィレンにとっては一方的な殺戮が全てであり、それを叶えてくれるディファメイションが全てなのだ。
『さて、君は挑戦者にして復讐者だ――Ready Aim Fire、3つ数えた後に生きてたら君に最大限の賞賛を贈らせてもらうよ』
そう言いながらヴィレンはディファメイションの右手を前に突き出し、手の平と薬指と小指でライフルを固定しながら残った3本の指をReady Aim Fireに合わせて畳んでいく。
それだけあればお前を殺せる、そう言わんばかりのヴィレンの言葉にレイは舌打ちをした。
『そんなものはいらねえよ、ただアンタの命だけは俺がもらっていく』
『……まったく、本当に口の悪い子だ』
そう呆れるように呟いたヴィレンは、話は終わりだとヴァンダリズム・バニッシャーの砲口をリベリオンへ向け、リベリオンはそれに応えるようにガトリングを装備する右腕を前に突き出すようにしてネイムレス・メサイアを装備した左腕を引く。
もはや両者を止める物など存在しない。
『くたばれ、クソッタレ』
『やってみろよ、クソヤロウ』
最後通牒のようなヴィレンの言葉に、レイは嘲笑混じりの言葉を返す。
そして両者が閃光と弾丸を解き放ちながら飛び出していった。
Illustrated By フルさん




