Burn [Baby] Burn 2
異常なほどの即応性と携行性の高さからコンペディションを勝ち抜き、有用性をいかんなくアピールしてみせたD.R.E.S.S.。
その新兵器のために陸海空全てから人員が派遣され、実験部隊が組まれる事になった。
ヴィレンはその若さと持ち前の優秀さから、D.R.E.S.S.の実験部隊への異動を告げられた。
エメラルド・ソード、ナイトライダー、アイアン・サン。
その部隊名から分かるほどにエゴの強いエリート達が組んでいる部隊の中で、ヴィレンが配属されたのはフルメタル・アサルトという部隊だった。
隊長は空軍でも優秀と名の高かったパイロットジョナサン・D・スミス、そしてその部下のヘンリー・ブルームス。
空軍のパイロットだけで編成された事が功を奏したのか、フルメタル・アサルトは実験部隊の中で1つ頭の抜けた存在となっていた。
模擬戦で期待以上の戦果を残し続けたヴィレンの事を2人はヴィリー・ザ・キッドと呼び、試用期間の間空白となっていたフルメタル・アサルトの指揮官の座にはヘンリー・ブルームスが就くこととなった頃、D.R.E.S.S.の実戦投入が決定された。
エメラルド・ソード、アイアン・サン、そしてフルメタル・アサルトに任務が下される事となったのだ。
それらのD.R.E.S.S.部隊に下された命令は、中東に潜伏している武装テロ組織の排除という物だった。
今思えばそれは後に続く経済戦争の始まりで、特定の組織以外を消し去るための任務だった。
しかしその願ってもない任務にヴィレンは舞い上がっていた。
その頃にはヴィレンは支給されたブラッディ・ハニーと名付けたルードを自分好みに改修し、ミサイルポッドを格納したコンテナに赤い悪魔のエンブレムを描き終えていた。
ヴィレンは自身の身を飾る事に興味はなかったが、文字通り自身の手足となるD.R.E.S.S.を戦闘機に施すノーズアートのように飾るのに抵抗はなかった。自身の欲求を満たすための道具であるソレを、手に馴染ませるには都合が良いように思えたのだ。
そして9機のD.R.E.S.S.による武装テロ組織掃討が始まった。
限界まで生身で近付いてからD.R.E.S.S.を展開して強襲を掛けるという、シンプルだがそれだけに防ぐのも難しい作戦。
その作戦の中でヴィレンは夢中になっていた。
戦闘機と違いその死に様を近くで感じられるD.R.E.S.S.が、悪辣なほどに一方的な殺戮が、合理的な考えを捨ててしまうほどに。
軍関係者からの横流し品であろう戦車をグレネードで吹き飛ばした。
ジープに乗って逃げようとしたテロリストを背後からアサルトライフルで撃ち抜いた。
そして命乞いをしてくるテロリスト達を、その人の身には巨大すぎる合金製の足でゆっくりと踏み潰した。
結果としてアメリカ国防軍は勝利を得たが、フルメタル・アサルトはヴィレン・ラスチャイルドという存在の危険性に気付かされた。
快楽殺人症の気があるとはいえヴィレンは兵士としてはとても優秀だった。
その証拠に警察機構が軍に吸収され、全員の所属がアメリカ国防軍に変わる切っ掛けとなった"スミソニアン博物館立て篭もり事件"。
その事件ににおいてもジョナサンの指示通りヘンリーのバックアップを行い、作戦を成功へと導いていた。
そしてヘンリーとジョナサンは自身らで、若く優秀な暴力を制御する事を決めた。
結果としてそれは間違いであった。しかしフルメタル・アサルトに関る全ての物に自信を持っていた2人は、それに気付く事も出来なかった。
実験部隊の面々が中東から帰ってきて数ヵ月後。
ヴィレンは核を使用しない最強の抑止力として新たなD.R.E.S.S.の製作が決定され、そのテスターにはアメリカ国防軍1の腕利きであるヘンリー・ブルームスが選ばれたという報を聞かされた。
ようやくブラッディ・ハニーが馴染み始めていたヴィレンは、その情報に興味を示す事もなかったが、フルメタル・アサルトは無関係ではいられなかった。
プロパガンダに使用されているヘンリーの顔と、新しく製作された戦場蹂躙型D.R.E.S.S.ディファメイション。
ヴィレンはその黒赤の纏甲の警護を命令された事で、自分にとって”最高”のD.R.E.S.S.ディファメイションと対面する事となった。
初めて見た時の事をヴィレンは今でも覚えている。
ブラッディ・ハニーでは得られなかった一致感、それをハンガーに納められた黒と赤の巨体に確かに感じたのだ。
それはきっとブラッディ・ハニー以上の快楽を自身に与えてくれる。
そう理解してしまったヴィレンは格納庫に居た人間全員をブラッディ・ハニーで殺害し、ディファメイションを纏って格納庫から飛び出した。
そして自身を撃墜せんとばかりに襲い掛かってくるヘンリーのワイルド・カードと、ジョナサンのインヴィジブル・エースを相手にしながら、ヴィレンは新しく手に入れたその力に酔いしれていた。
一切の連絡手段を通じる事が出来るほどに強力なジャミング装置、流れ弾1つで有象無象を消し去る事が出来た粒子ライフルはこの上ない幸福をヴィレンに与えた。
粒子を集束させるには時間が掛かるだろうという考えから使用出来ていない巨大な粒子砲が、ヴィレンの気持ちを昂ぶらせてしょうがないのだ。
しかし終わりは呆気なく訪れた。
腕を吹き飛ばした時点で戦闘不能だと思っていたワイルド・カードは、粒子変換機構を持つディファメイションの胸部をブレードユニットで切り裂いたのだ。
もはやバングルの状態に戻す事すら出来なくなってしまったディファメイションに途端に昂ぶっていた感情が一気に萎えたヴィレンは、仕方なくディファメイションを解除しブラッディ・ハニーを展開して逃亡した。
ヴィレンは恥じ、そして悔いた。
調子にさえ乗っていなければディファメイションを合理的に奪うことが出来た、あの最高に手に馴染むあの道具を自身の手中に収めることが出来た。
だからこそヴィレンは合理的に考えて行動を始めた。




