私が雇ったのは殺し屋。
嫌な思い出を忘れるために、色々注文していたら、店側から注文を飲み物系だけにして欲しいと頼まれた。まだ、腹一分目なのに…まぁ、フロートを頼めばいいか。
「じゃ、アイスコーヒー、コーラ、メロンソーダのフロートを各四つ」
「え…え、はい」
店員の目は明らかに困った顔をしていたが、美波は気付かずに、鼻歌を歌い出した。
真はアイスコーヒーの追加を頼んだ。
「そろそろだな」
「ん?」
「…依頼主が来るのが」
「あー、そういえば仕事に来たんだ…」
美波は食事の合間に仕事に来たのを忘れ、ただ食事に来たのだと軽い現実逃避をしていた。
それも無理はないだろう…社長になって初めての依頼と自分を殺そうと考えている殺し屋と一緒に仕事をするのだから。
しかも、今回の仕事はかなり危ないような気がする。
とにもかくにも、まずは仕事だ。
と考えていると、フロート各種とアイスコーヒーをトレーに載せて一人の店員がやってきた。
店員はテンポよく、チョコチップのバニラアイスのフロートとアイスコーヒーを並べる。
「ご注文は以上でよろしいでしょうか?」
「はい!」
美波は目を輝かせながら、元気良く答えた。今日は美波はスーツを着ている、これが私服なら間違いなく小学生とかに間違われているだろう。
店員はにこやかに微笑みながら、キッチンに戻っていった。美波はその笑みを見たとき、少し違和感を感じたが、そんなことよりも目の前のフロートが大事だと思い、皿の上に置いてあったスプーンを手に取り、食べようとした瞬間、手を止められた。
「…なんですか?」
「睨むなよ…それ食わん方がいいぞ」
「…あげませんよ」
「いらん、つーか、話聞け」
美波は真に掴まれた手に握っていたスプーンを渋々嫌々ながら、皿の上に戻す。
真は溜息を尽きながら、アイスコーヒーを少し飲む。
「どーして、食べちゃダメなんですか?」
「ここの店のフロートはバニラだ」
「え?」
美波はメニューを見ると確かに、フロートの写真はバニラであり、チョコチップではない。
「…じゃ、これなに?」
「発信器と暗殺用機械」
「…ぴぃぃぃ」
情けない声を出しながら、涙目になる美波。それに呆れながら、フロートについているチョコチップアイスのチョコチップを二つほど取り、ティッシュを敷き、その上でスプーンを使い、丁重にチョコのみを砕く。
しばらくすると、チョコチップの中から、機械が出てくる。もう一つも同様だ。
真はその二つを美波の前に置く。美波はそれを見て、余計に情けない声で泣く。
「ぴぃぃぃゆぅぅぅぅ…」
「情けない声で泣くな」
真はそういいながら、ハンカチをポケットから出して、美波の涙を拭く。
真に優しくされ、少しは落ち着きを取り戻した美波は、ジッと二つの機械を睨む。
「にゃんでぇ、こんにゃものがぁぁぁ…」
落ち着いても情けない声で喋る。
「今回の依頼のせいだろ」
「やっぱりぃぃぃ…」
美波はこの依頼を見たときに、とてつもなく嫌な予感がしていた。
やはり、受けるんではなかったと後悔した。
美波は、泣ながらも、メニュー表を取り、店員を呼び、フロートの交換してほしいと頼む。
店員はフロートのアイスが何故かチョコチップになっていることに疑問に思いながら、フロートの変わりに注文されたコーラを運んできた。
店員がいなくなるのを確認し、真に大丈夫かと確認をとる。
「あー、大丈夫、大丈夫」
「よかった」
美波はアイスがないコーラを寂しく飲んでいた。
「大方、今回の依頼に関係している俺達が邪魔なんだろう」
「怖い…」
美波は泣きながら、ストローをコーラに入れ、チビチビ飲む。
しばらくすると、お昼時になり、人が増えてきた。
真は入ってくる客、出て行く客を注意深く見ていた。すると、アタッシュケースを持った初老の男性が入ってきて、辺りを見渡し、こちらに向かってきた。
初老の男性は美波達が座っている席に近づき、聞いた。
「よろず屋堂島家の人ですね?」
「えと、貴方は?」
「そういう、お嬢さんは?」
「社長です。目の前の彼は社員です」
「君みたいな小さい子が⁉」
確かに美波を見て、社長と思うのはないだろう。
現に美波の母は、美波と同じような身長のために父と買い物などに行くと、父はよく警察に職務質問をされていた。
「こう見て、二十歳なんですよ⁉」
「⁈、す、すまない…」
いつものことだが、やはり傷つくものがあると美波は思った。
気を取り直し、仕事の話に移った。