俺を雇ったのは小さい新社長。
大量殺人鬼。
殺し屋。
この二つが今までの俺という存在だったが、今度からは…
よろず屋「堂島家」社員。
これも追加になるとは笑える…しかし、待てよ。以前はフリーターをやっていたから、元フリーターも追加すべきか?
ま、どうでもいい。
こんな俺を雇った物好きは、今現在喫茶店のメニュー表に釘付けだ。余程、腹が減っているか、先程まで四面楚歌をしていた人間には見えない。
俺を雇った物好きの名前は堂島 美波、二十歳で女性。見た目はただの小学生か中学年ぐらいの身長と顔立ちと残念な体系が特徴的な彼女は、メニューを見て悩んでいた。
まだ、食べるつもりらしい。
チラリと彼女が食べた食器を見る。1800gのステーキ、1500gのハンバーグに十五人前の炒飯、三十人前のパフェ…これら、全て堂島本人のみが食べている。
しかも、ここの喫茶店はこれらを食べ切れた人には今日の会計全てタダでいいと言う無茶苦茶な企画をしていた。
今回は相手が悪いと言うしか、言葉がなく、マスターらしきカウンター向こうにいる白髪の男性は絶望を見たような表情をしていた。
彼女はそんな喫茶店のマスターなど、気にせずに嬉しそうに次の注文を頼んでいた。
そんな彼女を見ながら、自分が彼女に雇われる経緯を思い出す。
「貴様、正気か?」
俺は彼女にナイフを当てながら、注意しながら聞く。
「正気です。貴方が監視すると言うなら、私は監視されるしかない…だが、何処かに監禁されるなんて、嫌だし、お互いにメリットがない…なら、私は有能な社員を手に入れ、貴方はそれに見合った給料を手に入れる」
首筋にナイフを当てられながら、よくもこう口が動く。
「…で」
「これなら、貴方は私を監視しながら、お金が手に入るし、貴方の働きによっては私も得をする」
「俺がサボるかもよ?」
「貴方はサボるような人間でもなく、手を抜くような人間でもない…私の第六感がそう感じました」
…面白い。
実に面白い女だ。
単純にそう思った。
だって、そうだ…自分の第六感、ようは直感で、大量殺人鬼であり殺し屋の俺を雇おうと考えるとは、実に面白い。
「面白い奴だ…わかった…話を呑もう」
「マジ⁉」
「は?」
「いやー、却下されると考えてましたから…なんか以外」
「くっくく…」
「え、なに?」
あぁ、本当に面白い女だ。
「よろしく頼むよ…社長」
「はい、こちらこそ」
上司を押し倒し、採用され、こうして挨拶をする俺達を他人がみたら、さぞ滑稽だろう。
「あの…」
「なんだ?」
「トイレ行きたい」
…本当に面白い女だ。