私が雇ったのは大量殺人鬼。
さて、何故私がこんな美形とお茶をしているのかと言うと…仕事である。
新社長となり、初めての仕事で彼によれば、かなり危険な仕事になるらしく、雇ったばかりの彼と新社長になったばかりの二人で今回の仕事を受けた。
仕方ないのだ、今回の仕事に出れるのが自分と彼だけなのだから…他の社員は、他に仕事があったり、契約社員の中に今回の仕事ができる人がいなかったのだから。
今回受けた仕事は、ある物をある場所まで運ぶという、なんとも怪しい仕事内容で社長と腕に自信がある社員一人、計二人だけで今回の仕事を受けることが依頼主から出されたルールだ。
できれば、犯罪行為に加担しそうなこんな仕事を受けるのは嫌だが、成功すればかなりの金額が手に入り、会社が安定するようになる。
選択肢はない…やるしかないのだ。
では、私が彼を雇っている理由を話そう。
あの日は、私の新社長就任祝いで、飲み会に行った帰りである。その時、ショックだったのが行く先々で、私がお酒を頼むと断れたことである。その度に身分証明ができる物を出したが、怪訝そうな顔でこちらを何度も見る店員や警察に電話する店員、私達を追い出す店など散々な目に会いながらも、ベロベロに酔うまで飲んだ。
お酒が飲めない丸井さんにアパートの前まで送ってもらい、階段を上がり、お隣さんの神崎さんの部屋の前で力尽きた。
目が覚めると見知らぬ部屋だったが、私は特に気にせずにお酒臭い身体を洗おうと、浴室に向かった。
そして、私は神崎さんの背中のある物をみてしまった。
それが運の尽きだった。
飲み会の日の前日、親から渡された資料の中に、背中に「00」とタトゥーを彫られた大量殺人鬼の資料を見せてもらった。
現在、世界中の警察や軍隊、マフィヤ、ヤクザなどがこの大量殺人鬼を探しているらしいく、もし見かけたら、頑張れと言われた…頑張れとはなんだ。と思ったが、頑張った結果が、彼を雇うという形になってしまった。
話を戻そう…私は、見てしまったのだ…神崎さんの背中に書かれた「00」のタトゥーを。
私が唖然としている隙に、彼は私を押し倒し、首筋にナイフを当て、口は手で塞がれた。
「騒ぐな…騒いだら…喉を切り裂く…いいな?」
私の首筋に冷んやりと冷たいモノが当たる感触が伝わってくる。
それが、ナイフだと見らずにもわかってしまう。
私は、何度か頷き、わかったという意思を彼に向けた。それがわかったのだろう、彼は首筋にナイフを当てたまま、口から手を退かした。
「…さて、質問だ。背中のタトゥーのことは知っているか?」
「はい…」
「やけに正直に答えるな」
いやだって、正直に言わないと殺す気でしょ?
わかってる、わかってるから、笑わないで。
「やはり…知っているのか」
「…殺す気?」
「生憎、殺人はなるべくはしたくないんだ」
大量殺人鬼のくせに⁉
「…そうだ、選択肢をやろう」
「え?」
「ここで死ぬか?」
え、今さっき、殺されないっぽいこと、言いましたよね⁉
「それとも、あんたを監視しやすいようにできる状態を作るかのどちらかだ?」
…え、無理です。
私を監視しやすいようにって、私がうっかりとか後で喋ったら、殺す気満々じゃないですか⁉
なら!
「うちの会社で働かない?」
こうして、私は大量殺人鬼であり殺し屋の彼を雇ったのである。
なきたい。
主に美波視点で話が進みます。