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第二章 朝の一騒動

ちょっと今回グダグダに…。


 もう、ずっと昔の淡くも儚い記憶…。

 


---魔力も持たない下等種族なんて、見るだけで虫酸が走りますわ。



 養父が言っていた言葉の意味をよく理解したあの記憶…。



---いつか私の手で全ての亜人をこの世界から駆逐してみせます…!!



 この言葉の数々を聞くまで、自分はこの世界を信じていた…。



---それが私達マルディウスの貴族の務めなのですから…!!



 自分の居場所はここなんだと、心から信じていた…。



---え?…もしも亜人が無害な存在だったらどうなのかですって?



 だがそれも、現実を知ったその瞬間にガラガラと音を立てながら崩壊していった…。



---何を仰っておりますの?亜人は存在そのものが有害、邪悪、不浄ですわ。



 そうか、これが僕が信じていた人間なのか…。



---文字通りこの世界に存在するだけで罪なのです…。



 君はいつも、そんな風に思っていたかのか…。



---…何でそんなに悲しい顔をなさるのですか?



 何故って?一番聞きたくなかった言葉を、よりによって君の口から聞いたからだよ…。













「…イ、オイ!!アスト!!」



「んぁ?…どうしたんだい、ヴァン?」



「それはこっちのセリフだ。いきなり眠りながら泣きやがって…。」




 クローマ侯爵の屋敷(要塞)の敷地に存在する『武官専用宿舎』。そこの『一等武官専用区』に存在するアストの自室。一等武官専用に設置された基本設備に加え、部屋の主が個人的に購入した私物が並んでおり、並みのホテルよりよっぽど豪華である。


 昨夜の鬼ごっこの後、アストはヴィリアントを自分の部屋に連れて行き、買いだめしてきたワインで夜通し飲み明かしていた…。序盤は最近の出来事を互いに語り合って結構盛り上がっていたのだが、後半は飲みっぱなしだったため、いつの間にか眠ってしまったようである…。部屋の窓から外を覗いてみれば、とっくに朝日は昇っていた。




「…ちょっと嫌なことを思い出してね。」



「また例の夢か?昔からよく見るみたいだが…。」



「まぁ、ね…。」



「フィノーラの奴も心配してたぜ?」




 二年前、ヴィリアントの飛行船が墜落し、それに巻き込まれる形で遭難する羽目になったアストとフィノーラ。本来ならば3人とも敵同士であり、殺しあう仲である筈がいつの間にか奇妙な友情が出来上がっていた。


 アストとフィノーラに至っては半年前にとうとう恋愛関係にまで発展し、現在も文字通り命を賭けた交際をしている…。




「ったく…。今日、出航するってのに縁起でも無えな…。」



「気にしないでくれよ。二年前の遭難生活にだって何度か見たけど、結局悪いことは起きなかったろう?」



「盗賊に襲われたり、化け物に囲まれたり、フィノーラに殴られたりしたけどな…。」



「最後のは自業自得だろ。僕は殴られてないし…。」




 たいていヴィリアントがフィノーラを挑発し、ボコボコにされるのが常であった。そう指摘され、ヴィリアントは目を逸らし、アストは苦笑いを浮かべる。

 

 少々散らかしてしまった部屋を片付けようと2人が立ち上がったその時、部屋の外から何やら言い争う声が聞こえてきた…。




「ちょっと、お待ちなさい!!なんで亜人風情がここにいるんですの!?」



「五月蝿いねぇ…。何人目だい、このやり取りは?ほら、許可証。」



「な、本物!?」



「うちの船長とそのダチを迎えに来ただけさ。ほら、どきなっての!!」




 会話の内容からして片方は王国軍兵士、しかも女性。もう片方も女性であり、どうやらヴィリアントの『蒼風一味』の一人。だが、彼の仲間と何度か会ったことのある筈のアストにとっては、聞いたことの無い声だった。


 どういうわけか、ヴィリアントは冷や汗をダラダラ流し始めているのだが…。


 


「……この声は…。」



「あぁ、この前言ってた新しい仲間?」



 先ほど外の方で騒いでいた2人の気配は真っ直ぐにこちらへと近づいてきた。やがて、気配はアストの扉の前までやって来て…。




「オルァ!!」




---ドカアン!!




「嘘ぉっ!?」



 女性とは思えない掛け声と同時に響いた轟音。気がついたら自分の部屋の扉が吹き飛んでいた。一見するとこの宿舎はただの建物にしか見えないが、あらゆる場所が魔法で強化されている。扉にいたってはバズーカでも傷一つ付かない頑丈さを誇っている。


 筈なのだが…扉があった場所に拳を突き出した格好で立っている様子を見る限り、おそらく殴り開けたのだろう。彼女の背後に立っている金髪の女兵士も唖然としている…。



「おや、あんたがアストかい?」



「あ、あぁそうだよ。」



「アタシは『紅葉くれは』。先月辺りに入った新入りだよ、よろしくね。」



「こちらこそ。」



 言われて差し出された手を握り返すアスト。彼女…紅葉は青い目にクリーム色の髪をしており、水色で浴衣似の和風な着物を着ていた。そして、額にはどっかで見たような黄色い波模様が入った赤いバンダナを着けている…。




(…あれ、お揃い?)




 昨夜、ただの御洒落と言って同じものを着けていたヴィリアント。気になったのでちょっと確かめようと思って周囲を見渡すが、見当たらない。そう云えばさっきから静かである…。




---バタン!!



「何してんだ紅葉ああぁ!?」




 紅葉に吹き飛ばされ、壁際によりかかるように止まっていたアストの部屋の扉。それが勢いよく倒れ、裏から荒ぶるヴィリアントが現れた。どうやら吹き飛ばされた扉にそのまま押しつぶされていたようである。しかし、彼のその様子を紅葉は鼻で嗤った…。




「私は扉をノックしただけさ。常識的マナーだろ?」



「扉を正拳突きでノックする常識なんざ捨てちまえ!!」



「大丈夫、あんたが居るときにしかやらないから。」



「やっぱ確信犯かテメェ!!」




 同じような色の服装に同じバンダナを着けた2人の男女が口論を始める。ヴィリアントはともかく、紅葉は完全に楽しんでるようにしか見えないが…。




「…仲良いな2人とも。」



「んんっ!!フランデレン一等武官…?」



「ん?…あ、ごめん忘れてた。」




 少々ワザとらしい咳に気づかされ、意識をそっちに向ける。事態について行けず、困惑した状態で立ち尽くしていた若い兵士を放置したままだったからだ。このむしろ少女と言える兵士の髪は金髪、瞳は黒。白い制服姿から察するに世間的に一般兵士と言われる『王国軍魔導隊』のようだ…。




「この2人は僕に任せていいよ。君は早く自分の部隊に帰りなさい。」



---多分、僕と君の相性は最悪だから…。




 先ほどの紅葉とこの少女のやり取りと、今の態度を踏まえてアストは心の中でそう呟いた。貴族が溢れるほど存在するマルディウス王国。その幾つかは戦果を挙げることにより名声を手に入れようとして軍に入る者も多い。


 だがその結果、軍人の家系でも無い限り貴族の温室育ちが抜けない少年兵や御嬢様が増えてしまった。それの尻拭いをさせられることが多いゆえ、アストはこういう輩が嫌いである…。


 だが、彼の思いとは裏腹に目の前の御嬢様は口を開く…。




「あ、いえ違います。私目はあなたを御迎えにあがったのですが…。」



「え、もしかして…?」



「そう云う事です、フランデレン卿。私達二人が俗に言う御目付け役です。」




 新たに聞こえてきた別の声。視線を向けると、同じように魔導隊の制服を身に着けた深緑色の髪の女性兵士が姿勢を正してピンッと立っていた。


 そして右腕の肘を側面に、拳を左胸に添える形の敬礼を取る。そして…。




「六王家が一つ、インダルディア直轄親衛隊所属、アイカ・クラリーネ二等武官であります!!」



「同じく、エリゼネア・カリーヌ二等武官でございます。以後お見知りおきを…。」




 片や軍隊らしいハキハキした声で、片や戦場に似つかわしくないやんわりとした口調でそう名乗った…。やっぱり自分の勘…エリゼネアに感じた第一印象は当たってるかもしれないとアストは薄っすらと感じた。


 さらに最悪なのはエリゼネアの名字…。




「『カリーヌ』…?」



「えぇ、そうです。あなたが身の程知らずにも縁談を蹴った『アリシャ・インダルディア・カリーヌ』の縁者でございますわ。」




 今度こそアストは盛大な溜め息を吐いた。これは何かの嫌がらせなのだろうか?…まぁ、この子の言うとおり王族からの見合い話を断ったのが悪いかもしれないのだが…。




「まったく、王国軍の英雄とはよく言ったものですね。」



「…。」



「所詮、下等な亜人に呪われた下等グえぇ!?」




 言いたい放題のエリゼネアが急に潰されたカエルのような呻き声を上げながらアストの視界から消えた。気がつくと、彼女が立ってた筈の場所にアイカが蹴りの体制のまま立っていた…。


 同時に、吹き飛んだ扉のせいで割れた窓の外からドスン!!という音と『ギャフッ!!』とういう声が聞こえてきた。この出来事には流石のヴィリアントと紅葉も口論を止めざるを得なかった…。


 2人とも感心したかのように口笛を同時に吹いてたが…。




「同僚が失礼しました、フランデレン卿。」




 姿勢を正し、何食わぬ顔でエリゼネアの非礼を詫びるアイカ。察するに、彼女はエリゼネアを外に蹴り飛ばしたようである…。


 本音を言えば少しスッキリしたのだが、貴族の…王族の親戚を蹴り飛ばしたことを誉めるのはどうかと思うが取り敢えず…。




「…良いキックだ。」 

 


「恐縮です。」




 大貴族の身内がついて来るのは少し面倒くさいと感じていたが、案外悪くないかもしれない…。




「いやぁ、やるじゃないか譲ちゃん!!王国軍辞めてうちに来ないか?」



「謹んでお断りします。申し訳ありません…。」



「……ごめん、そんなに真面目に答えてくれるとは思わなかった。ありがとう…。」




 ヴィリアントが冗談混じりでアイカを勧誘しようとしたが、至極丁寧に断られて逆に恐縮する羽目になった。こりゃ本当におもしろい旅になりそうだ…。


 その時、彼のその様子を笑いながら見てた紅葉だったが何かを思い出したかのように外を見た。 




「そういえば、随分と時間くっちゃったね。そろそろ来るかな?」



「何が…?」



『ぎゃああああああああああ!!何なんですのおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?』




 再び聴こえたエリゼネアの声…。それだけでは無く、風が荒れ狂う音と激しい爆音が聴こえてきた。何より外からは巨大な圧迫感を感じる…。




「…あ~、直接来てくれたのか?」



「あんたが遅いから、ね…。副船長はカンカンだよ?」



「うげっ、リゲルが…。」




 この雰囲気の中で悠長な会話をする2人を見てアストは確信した。どうやら、朝のうちに全員顔をそろえる事ができそうだ…。


 アストの足は自然と窓のほうへと向かっていった。そして空を見上げ、目撃した…。




「…どうだ、アスト。これが俺達の新しい船、『リリアンヌ・レイスター号』だ。」




---空に浮かぶ鉄の城を見つめ、アストの心は興奮に震えた…。


次回、『蒼風一味』との邂逅の後、出航。

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