時を越えたメッセージ
カタカタッカタカタ…………
ボクは暗い部屋に一人、歌や花と異なる研究をしていた。
とても重要な研究を。
コンピュータの画面の明かりで、家具のシルエットが見える。
カタカタ……とキーボードを打つ音が、この静かな部屋に響く。
「…………ん?」
ふとキーボードを打つ手を止めると、あまりの静かさが不自然に感じる。
「なんかお化けが出そうな気が…………頼むから、出てこないでほしいな…………。」
気を紛らわせるために独り言を呟く。
そもそも原因といえば、昼にリオが倉庫で映像データを見つけたからだ。
そのデータを見てみると、ホラー映画というもので凄く怖かった。
昔の人は、これのどこが良いと思っていたのか分からない。
リオは何ともなかったけどね。
────ガチャ────
突然、部屋のドアが開いた。
リオは今休んでいるはずだ。
「……まさか……」
ドアの前に黒い人の形をしたシルエットが見えた。
「うわっ!何かいる!?」ボクは椅子から飛び上がってズザザザッと後ずさりするが、すぐに壁にぶつかった。
一歩、また一歩と近づいてくる。
「うわわわわっ!誰、誰なの!!」
謎のシルエットを見つめたまま、手探りで部屋の明かりをつけた。
すると、そこにいたのは──
『博士、ワタシデス。リオデス。』
──リオがだった。
「なんだ、リオか。」
ボクは安堵の息を漏らした。
「ところで、休んでるはずじゃなかったの?」
『メッセージを受信シタので、来マシタ。』
そうか、メッセージを受信したのか。
えっ?
ボク以外にリオにメッセージを送ることはできないはず!
「誰から!?」
『発信源は……リオ。未来のリオデス。』
ボクはハッと息を呑んだ。
そんなバカな!
時を越えるなんてありえない!!
『では、メッセージを読みマス。』
「────分かった。」
あまりの緊張に息を吸うのを忘れそうだ。
『このココロから、今言える……本当の言葉。
捧げる、あなたに……。
アリガトウ……アリガトウ……。
この世にワタシを生んでクレテ。
アリガトウ……アリガトウ……。
一緒に過ごセタ日々を。
アリガトウ……アリガトウ……。
アナタがワタシにくれた全て。
アリガトウ……アリガトウ……。
永遠に歌う────』
ボクはメッセージを聞いているとき、奇跡だと確信した。
一瞬だったけれど、
涙を流しながら笑顔でボクに、メッセージを伝えようとするリオの姿が、
目の前にいるリオに重なって見えたから。
『────以上でメッセージは終わりデス。』
リオは、このメッセージを理解していないようだった。
でも、いつか理解する日がリオに来ることをボクは信じる。
メッセージを送ったリオのように。
「ボクの方こそ、ありがとう。
君が生まれてきてくれて、
君が僕と一緒にいてくれて、
ありがとう。」
リオは首を傾げていたが、ボクは言葉ゆっくり一つ一つ大切に伝え、彼女の頭をそっと撫でた。