ブリキのおもちゃ
彼方は彼女じゃありませんw
新庄 愛歩は、雪人の机に腰を掛けていた。スラリと長い足を惜しげもなく見せ付けるような短いスカートはもちろん膝上五センチだ。それでもパンツがまったく見えそうにならないのは愛歩の足がいかに長いかを物語っている。
身長も一六八センチと女子にしては高く、モデル顔負けの体系でもあった。クラスでも常に女子に囲まれていて人気者でもあり、少し気の強い彼女の性格も愛嬌があった。
そんな愛歩は恋をしている。普段から男子相手にも強気な発言をする愛歩は男子から人気はあるものの、敬遠されているふしもあった。
そのことを自分でも理解している愛歩は好きな相手に声を掛けることをもできず悶々とした日々を過ごしていた。ただ話しかけられない理由はそれだけじゃなかった。
その男子には彼女がいたのだ。
彼女は愛歩すら羨む様なスタイルを持ち、少なくとも男子は釘付けにされるほどの凹凸を持つ。愛歩もスタイルは良いもののそこは日本人。凹凸はそこまで大きくなかった。
ただこれだけなら愛歩も諦めたりはしなかった。その男子の彼女は文武両道眉目秀麗性格抜群の三拍子を持つ学園のアイドルだったのだ。
自分の容姿にそれなりに自信を持っている愛歩だが、学園のアイドル相手には気後れしてしまう。
愛歩は、はぁ~っと桃生つげなため息を吐いた。すでにホームルームも終わり一限までの短い休憩時間。まだ愛しの彼は来ていなかった。
「お~い新庄。俺の机から降りてくれないか? 誰と話すでもなく人の机に座ってため息を吐いている様は割と不思議だぞ」
「そう、確かにその通りだと思う。けど今は、こうしないといけない気がするの。だから我慢して」
「・・・・・・・・・・・・」
突然机の持ち主兼愛しの彼である雪人に話しかけられても動揺しない愛歩はかなり不思議ちゃんであった。雪人が愛歩を牽制しつつ席に着くと、愛歩は思い立ったように机から腰を離し。雪人の膝の上に腰を降ろす。
「ぃ! な、なに?」
テンパル雪人はやたらと周囲を気にしていた。恐らく彼方の姿を探しているのだろう。愛歩は胸に痛みを感じた。自分の彼女を気にする雪人に自分をもっと見て欲しかったのだろう。
「これが嫉妬っていうんだわ」
「ぇ?」
「でもいいの。私はこうやって我慢するんだから」
「よくわかんないけど、我慢はできてないんじゃないか? そしてできれば今すぐ早急に比較的速やかに、そして目立たぬよう、尚且つ大胆に離れて欲しい。クラスのみんなが見てる」
「そう・・・・・・確かにクラス中が私達に夢中よ。でも大丈夫、この空間は私達二人だけのもの」
愛歩はいつも言っていた。自分の友達に「私は好きな人がいるの、けれど話かけることができないわ。私は男子に大して強気な発言をするから敬遠されているの」と。
愛歩の友達はいつも思っていた。確かに特定の男子に対してある意味強気な発言をしている。お話も沢山しているけれど・・・・・・しかし同時に、言葉のキャッチボールがうまくいってないことからこれはきっと話し手いるうちに入らないのだと。
「意味がわからないっす」
「人が理解できることなんて少ないの」
「俺には新庄がわからない」
「ふふ、わからないってことは私のことを考えたってことね、今日はこれで満足よ」
そう言って愛歩は雪人の膝から早急に、比較的速やかに、そして目立たぬよう、尚且つ大胆に離れて行った。
「・・・・・・わ、わからねぇ」
「そうね、確かにあの子の考えはわからないわね」
雪人はブリキのおもちゃのように首をゆっくりと後ろに回す。そこには笑顔の彼方が立っていた。