好きだ!
「さて、腹痛にさいなまれた中、トイレと言う聖域に引きこもることで学校から無事家へと生還できたわけだが、疑問がある・・・・・・どうして彼方まで俺の家にいるんだ?」
「うるさいわね、私がどこに居ようが雪人には関係ないわ」
あるのだが・・・・・・
「いや、だってここ俺の家――」
「違う、私の家だ」
「ぁ・・・・・・そうでした・・・・・・ね」
俺はひそかに肩を落とすと、皆にお茶を注ぎ、ソファに腰を掛けた。彼方、柊もさも自分の家のようにくつろいでいた。
「さ~て、学校に行っていたことでうやむやになっていたけど、柊さん? 誰に許しを貰って雪人の事を恋人発言していたの?」
「あれは、失言だった。恋人ではなく私物と言うはずだった」
始まった。また俺をめぐっての言い争いだ。朝といい、今といい、まったくモテル男は辛いぜ。
しかしだ。正直そんな悠長なことは言ってられない。もし今朝同様この家で暴れられたら迷惑極まりない。ただでさえボロボロになってしまった家をこれ以上ボロにされては堪らないのだ。ここは穏便にすごしていただきたいわけだが、さてどうしたものか。
「私物? ふざけた事言わないで。雪人は私の物よ。奴隷なのよ。私の許可なく私物にしないで」
「なら・・・・・・くれ」
「却下よ」
俺は傍観していた。何かアクションを起こすつもりの筈だったのに、彼方や柊の発言が余りにも耳に痛かったため俺は茫然自失した。
もはや人のむちゃくちゃな発言には慣れているつもりだった。だがそれが二人同時にとなると俺の突っ込みも追いつくどころか入れる隙間もなかった。
「む、じゃあどうしろと?」
「この家から出て行けばいいのよ」
「それはいやだ!」
俺はこの時初めて感情をさらけ出す柊を見た。いったいどうしたと言うのだろうか、柊は少し半泣きになっていた。さすがの彼方も柊のこの様には同様を隠せずにいた。
「やっと捕まえたんだ。離さない」
「な、なんだよ柊。そんなに俺のことが好きなのか?」
「好きだ! 好きだ好きだ好きだ好きだ。大好きだ!」
「え・・・・・・」
俺はふざけ半分のつもりだった。しかし柊は真剣な表情で恥ずかしげもなく言い放った。頬は蒸気し、ほんのりと朱に染まり、それでも目は俺から逸らさなかった。
俺は二の句を告ぐことはできず、きっと間抜けた面をしていることだろう。昨日柊に私物扱いされた俺は絶望に浸っていた。ほんの少しは期待してたかもしれない。それでも相手は柊だ。ただの女とは一味違う頭の上がらない存在だ。まさか本当に惚れられれているとは思わなかった。
何も言えない俺を置いて柊は彼方に向き直る。
「だから、雪人を好きでもないお前が、雪人を縛ることはできない!」
「っな・・・・・・」
「反論もできないのか。ならお前はこの家からすぐに出て行け」
「っく」
彼方が苦い顔をした。唇をかみ締め、握りこぶしを作り顔を真っ赤にしていた。プライドを傷つけられた。
彼方はパーフェクトな存在として今まで生きていた。
生成優秀、品行方正、そして運動神経抜群な彼女は人に怒鳴られるようなことなんて一度もなかったんじゃないだろうか。常に周りから憧れの的となり慕われていた彼方にとってこれほどまでに屈辱なことはなかった。俺はそう思っていた。だからこそ彼方の目にうっすらと浮かぶ雫に俺は狼狽した。
「私は、私だって・・・・・・」