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高橋君!

さて、自分が中学二年生の時、高橋と言う男がいた。その男はそれはそれはイケメンで、校内一頭もよく、運動神経抜群な彼はよくモテタものだ。当時から才色兼備美少女として名を馳せていた彼方と並んで歩けば理想のカップルだとも言われていた。実はそんな高橋と俺は親友同士でとても仲がよく、俺達はよく二人でつるんでいた。

 今と同様彼方は、俺ともよく行動を共にする。ゆえに当然のごとく、高橋、彼方、そして俺は三人で行動することが多かった。しかしそうなると、高橋、彼方を理想のカップルとはやし立てているもの達からすれば、俺はどうやら邪魔もののようだった。

 実際自分でもときどき思うことがあった。俺を介してだったが、彼方と高橋は仲がよく、お互い気のあっていたようにも感じた。確かに実際二人が付き合えば、さぞ見栄えもすることだろう。で、ある日俺は高橋に言ったのだ。

「高橋・・・・・・お前と彼方は付き合わないのか?」

 高橋はすごく寂しそうに笑った。今、思えばなんと直球かつ愚かな質問だったのだろうか。彼は何も言わずに俺の頬を殴りつけた。

 頬を殴られ唖然とする俺は反撃と言う行動に移ることはなかった。怒りがこみ上げ、拳を握り締めたとき高橋はすでに遠く駆けていたからだ

 次の日、彼方から高橋は実は俺のことが好きと言う衝撃の事実を教えられた。彼方と高橋が仲良く見えたのは、彼方が面白がって高橋を応援していたからだと言うことがわかったとき、俺は自分のシリのピンチにようやく気が付いた。彼方からして見れば、俺が高橋に傾くことは絶対にないと踏んでいた様だが、実際本気で迫られていたら果たして俺は断ることができたのだろうか。その場の勢いでなし崩し的に付き合う・・・・・・なんてことになっていたのではないだろうか。いやはや考えるだけで恐ろしい。

 案外自分は押しに弱く相手の本気が伝わればきっと受けてしまったに違いなかった。

 しかし、そう考えると昨日殴られたのは運がよかったと言えるだろう。それによって彼方から事情を聞かされれば、それ相応の対応も可能だ。受験勉強と同じく傾向と対策さえわかっていれば怖いものなどない――

「長谷川!」

「った、高橋ッくん」

 はずだった。だがイケメン度のものすごく高い高橋に声をかけられ、あまつさえ相手の心の内を知った今では、対策など頭のうちからすっぽりと抜け落ち、緊張とともに、普段呼び捨ての高橋を君づけで呼んでしまうのもいたし方がなかった。

 一瞬、訝しかむようなな顔をした高橋は俺の手をぐわしっと掴むと話があると言い、空き教室があるB練へ足を向けた。

 空き教室は静かだった。何故か、ほんのわずかに空いている窓からは、さわやかな風がカーテンを巻き上げ、蒸し暑かった教室の空気を一掃してくれた。明かりのついていない教室は少し不気味でもあり俺の不安を煽る。だが、高橋が俺の機微を察したのか、握っていた手に力を込め大丈夫だよと一言ささやけば、何が大丈夫かわからない俺だったが、漠然とした不安は拭い去ることができた。

「大事な話がある」

 高橋の表情は真剣で、不安と期待が入り混じったような顔をしていた。ちゃかせる雰囲気はまったくなく、両手を握られ壁際へと押さえつけられれば自分のシリの穴がわずかに窄まった。きっとピンチを悟ったのだろう。

 俺は、目の前にある高橋の顔を直視することはできなかったが「何?」と言う返事だけは、かろうじでつぶやくことができた。すると高橋は俺の耳元で優しく言った。

「君が・・・・・・好きだ」

 その瞬間、背筋がぞくりとまるで電流が走ったかのように震えた。頭の中では高橋の好きだと言う甘いささやきが何度もリフレインする。その一言は俺の脳をとかす麻薬のようで、高橋以外のことを考えることなど、もはやできはしなかった。

「しっ・・・・・・てた」

 高橋の顔はわずかばかり驚きに染まるがふっと優しい笑顔を向け、

「西島さんから聞いたのかな」

 と、囁く。

 俺がうんとうなずくと、高橋は俺の顎を親指と人差し指ではさみくいっと上に持ち上げた。

「キス・・・・・・していい?」

 心臓が爆音を鳴らす。ドキドキとビートを刻み自分が自分でなくなるような気がした。俺は高橋の気持ちに応えるようゆっくりと目を閉じ、

「閉じるんじゃないわよっ!」

 突然、彼方の大声がしたと思ったら高橋は側頭部を蹴られ一瞬にして意識を落とし床へと転がった。

「っは・・・・・・俺はいったい何を!」

「あ、あなたは危うく高橋とキスをするところだったのよっ! 廊下で少し様子がおかしいものだから見に来てみれば、まったく」

「そ、そうか助かった」

 俺はほっと胸を撫で下ろした。高橋の魅力に惑わされ危うく禁断の道に走ってしまうところだった。俺は彼方に連れられ高橋をその場に捨て置いて次の授業へと向かったのだ。

 そんな大それたことがあったにも関らず、俺と高橋の仲は良好だった。例えば高橋が忙しくて購買のパンを買いに行けない時。俺は高橋から預かった金を使って自分の分と高橋の分のパンを購入し、高橋の前でその両方を俺がおいしく頂いた。

 もちろん高橋の昼食は無い。金だって返さない。そんな俺と高橋の関係はすこぶる良好だった。俺の中でこれはちょっとした仕返しと言うか、なんと言うか、俺を惑わした罰ということにしていた。

 もちろん好き好んでこんな極悪非道な事をしていたわけじゃない。高橋が少しでも(別に悪いことをしたわけじゃないが俺を惑わしたこと)反省するようにと酌量したわけだ。決して、昼飯代が浮くとかそんなことを考えていたわけじゃないぞ。

 高校生になった今でも高橋とはたまにメールのやり取りをすることもあった。今となっては高橋も俺に手を出したことに疑問を持っていた。おそらく中学生ということもあってか、溢れるリビドーを押さえきることができなかったのだろう。

 しかし、今となって思うと、俺は高橋に酷な事をしていたということが痛いほどにわかった。頼まれた購買のパンを俺が高橋の目の前で食したとき、あいつの絶望の顔が愉快でしょうがなかった俺は何たる鬼畜か! ただの外道であり、くそ虫だ。俺は今になって反省した。だから柊よ、

「俺の目の前で俺の分のパンにかぶりつかないでくれぇ」

「? なんのことだ」


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