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バースデイは突然に

「お前は今日から私の男だ」

 開いた口が塞がらないって言うのはきっと今みたいな事を言うのだろう。恐らくこれは告白の類だ。生まれてこのかた告白と言うものを受けたことが無いから正しいかどうかはわからない。でもこの言葉が俺を欲している? と言うのはわかる。この男というのが、奴隷としてなのか、家来としてなのか、はたまた子分としてなのかはわからない。

 まぁ何れにせよ俺が窮地に立たされていることは間違いない。俺は知っている。今、俺の目の前に立つ美の付く少女がどんな人間か・・・・・・

 これはあくまで俺の独断と偏見による思考なのだが、告白と言えば校舎裏だ。呼び出した方は相手がいつ来てくれるのかと、期待を胸に膨らませきっと心臓をどくどくと打ち鳴らしている事だろう。そして呼出された方は、淡い青春を期待に胸を膨らませ早足で校舎裏へと駆けていく。

 いいではないか。男女の青春というのは正にこうでないといけない。

 屋上に呼び出すというのも良い。絶好の告白スポットだ。それだけじゃない、空き教室・・・・・・誰もいない放課後の教室。思いの高まった二人はどちらもそっと口を開く。

 同時に口を開いたことでお互い少しだけ戸惑いを隠せず、照れ笑い。どちらが先にしゃべるかを譲り合い、結局二人同時に思いを告げる。

 うんうん結構結構。これも青春だ。

「黙るな何かしゃべれ」

 だがな? これはすべて負の方向に置き換えることができる。

 例えば校舎裏。

 人けの少ないそこは不良がたまり、気弱な少年がそこを通れば狩られる。これも良くあるパターンだ。そして、屋上。

 やはり人気の無い屋上には不良がたまり、たまたまうん悪く屋上に行ってしまった気弱な少年が狩られる。最後に空き教室。

 つまりは、人気の無い空き教室に不良がたむろし、忘れ物を取りに来た気弱な少年が狩られる・・・・・・うんつまり、告白三大スポットってのは、狩りの三大スポットでもあるわけだ。

 で、俺は今どこにいるかと言うと・・・・・・校舎裏であり、

「ぇと、それはどう言った意味でしょう、か?」

「なんだと?」

 ・・・・・・お相手はまことに遺憾のようです。恐らく俺が彼女の言った意味をまともに理解出来なかったからだろう。

 俺が今、対峙している彼女すなわち、柊 唯とはこの学校で知らない人なんて居ないのではないだろうかと言われているほどの有名人である。そして彼女の有名人である所以こそが、俺にとっての死活問題であり、戸惑いと恐れ、恐怖、その他もろもろによって精神を圧迫しているのだ。

 一言で言います! ここ校舎裏は彼女つきましては柊 唯のテリトリーであり殺戮現場でもあるわけだ。全然一言ではなかったが話しを続けよう。

 柊 唯がこの校舎裏をテリトリーとしていると言うのは、噂などではなく事実である。以前すべての間接をはずされた男子生徒が、朝方通勤していた教師に見つけられ救急

車で搬送されたという事件があった。これは記憶にも新しく、クラスでも持ちきりとな

った最新の柊事件である。

 これが噂のうちに収まらなかったのには分けがある。まぁ目撃者がいたのだ。それは、

間接をはずされた男の仲間である幾人かの男子生徒である、そもそも彼らは柊に復習を

企てていたのだ。

 大本は男子生徒が悪いのだ。美人な柊に手を出そうとして返り討ち、復讐しようとし

てさらに返り討ち。

 まぁ事件はこれだけじゃない、時を遡れば彼女に鎮められた男どもは数え切れないほ

どだ。そして事件が起こる場所はいつだって校舎裏。

 故にもう一度だけ言う・・・・・・俺は今、校舎裏にいる!

「もう一度だけ言う。お前は今日から私の男だ」

 柊は腕を組みふてぶてしく俺をその鋭い視線で貫いた。

 彼女は美人だ。美少女だ。美しい黒髪は風になびきサラサラと・・・・・・日の光を浴びればキラキラと・・・・・・そして何より高身長から出でる、スラリと長い手足。そしてしっかりと凹凸のある女性らしさ。言ってしまえば彼女は女性として本当にすばらしい人間なんだと俺は再確認した。

 ただ俺は思う。彼女はここまで美しいため、暴力性と言う余分な要素が付加してしまったのではないだろうかと。

「それは奴隷として、ですか?」

 ゆえに俺は低姿勢。

「は? 何を言っているお前は」

 柊は掃き溜めでも見てるような目で俺を見下げた。

実は俺の方が背が低いのだ。俺も別に低いわけではない。身長は百七十二ほどある。だが彼女はそれより三センチ大きい百七十五だ。だが三センチと言う差は小さくない。見下げられればそれだけ高圧的にもなる。

「お前はバカか? 私は告白したんだ」

 それはなんとなくわかっていた。だが告白にいろいろ種類があるだろう。告白ってのは思いを告げることなんだ。例えば俺を奴隷、または子分、はたまた家来にしたい。これも告白のうちだ。

 だから、確認した。俺をそういった悲しい身分にしたいのかなと。だがそれが違うとなると、こういう言い回しで俺の知っている告白といえば、

「もしかして彼氏的な?」

「いや」

 あれ違うのっ!

「お前もう私のものだろ」

「断定ッ?」

「お前もう私のものだろう」

「恐らく的な意味ッ?」

 落ち着け俺! 相手のペースに持っていかれちゃダメだ。こう言う時こそ落ち着いて冷静に客観的に自分を見つめなきゃいけないんだ。

 そうだ、まずこれは第一に聞かなきゃならない。

「柊さんは俺のことが好き・・・・・・なんですか?」

「黙れ! お前に口は無い」

「はい! 僕に口はありません」

「うん」

 理不尽だ。初めは黙るなと言っていたくせに・・・・・・とは口には出さない。結局、柊のあまりの迫力に俺は口無しとなってしまったそんな俺に満足そうにうなずいた柊は、俺の側までテクテクと寄ってくるとガシッと俺の手首をホールドした。

「行くぞ」

「どこ――」

 え? 途中まで声を出したが今の俺には口が無い。俺は黙って柊の後ろを付いてゆくしかなかった。

 ただいまの時刻はもちろん放課後だ。校庭ではいくつかの部活動が血気盛んに部の運動に取り組んでいた。そんな校庭を俺と柊は堂々と闊歩する。因みに俺は引きずられているだけなのだが、それゆえに注目度が高かった。

 柊と言うだけで皆は注目するが今回は、俺と言うオマケ付だ。皆が手を合わせ合掌しているのは気のせいだろうか。俺は羞恥と、そしてこれから自分の身に何が起ころうとしているか、恐怖で悲鳴を上げたい気分だった。

 だが俺の代わりに悲鳴をあげていたものがいた。

 それは強靭な握力によって握り締められメシメシと嫌な音を立てる俺の手首であり、いかに口の無い俺と言えど、

「痛いです。手首」

 と、思わず口に出してしまうほどだった。口を出せば握られた手首がもはや感覚すらなくなっていたことに俺は軽く戦慄する。

 校門にたどり着くと黒塗りのリムジンが陣取っていた。俺はその珍しさから庶民丸出しで、リムジンを眺めていたのだが、扉が突然開き、中から人が出てくると、俺は自分の行動を少し恥じる。

「お嬢様どうぞ」

「あぁ」

 リムジンから出てきたのは若い男だ。高級そうなスーツに身を包み、うやうやしく柊に頭を下げる。俺はその間あっけに取られ、男が柊を車へとエスコートする様をぼうっと見ていることしかできなかった。

 とまぁ柊がエスコートされたと言う事は、当然俺も車内に入らなければいけないわけで・・・・・・つまるところ、手首に嵌められた手枷すなわち握りつぶすほどの握力で柊にずっと握られていれば俺も同伴せざる終えなかった。

 ドアが閉められるとリムジンが発進する。内装は広く、ふかふかなソファが俺の目に飛び込んできた。これがノーブル人の乗り物なのかと驚きを隠せぬまま柊を見る。

「私は金持ちだ」

 ・・・・・・柊ってよりはその親だろとは言えなかった。

「口無しって言われたけどしゃべってもいいですか?」

「許可する」

 相変わらずデカイ態度だ。

「あの、何で俺、連れ去られてるんですかね?」

「? 連れ去っていない。お前に同意を得た」

「いつだよッ?・・・・・・・・・・・・ですよねぇ」

 理不尽な権力者に強い視線を浴びせられれば、物申せない俺は弱虫なのだろうか。

「ぇえっと、じゃあ俺が柊さんの男とは?」

「むむ」

 少し眉をひそめる柊。沈黙が続く中リムジンは揺れることなく快適な走りをしていた。

 これは聞いてはいけない質問なのだろうか。いくらか間が空くとおもむろに口を開く。

「実は今日、私の誕生日だ」

「・・・・・・ぁ、そうですか、へぇ~。それはおめでとうございます」

「うん。もう私は大人の女だ十七歳だ」

「・・・・・・すごいですねぇ」

「うん」

「父は言っていた。私の誕生日プレゼントは一つだけなら何でもいいそうだ」

「そうですか・・・・・・うらやましいです」

「うん」

 意味がわからなかった。あの間はなんだったのだろうか。それとたぶんだが、十七歳は割りと子供な気がするのは俺だけだろうか。タバコはもちろんお酒も、そしてエッチな本もまだ買って良い歳ではない。

 俺は割りと暖かな眼で柊を見ることを決意した。

 先ほどの問い以降俺は口を開くことは無かった。彼女に俺の意図が伝わらないと思ったからだ。柊も口を開くことは無く、ただただ俺の手首をひたすらにホールドしている。

 俺の手首はすでに感覚を無くし、眼を向ければ紫色に変色している。力を込めて拳を作ろうとしてもうまく作れず、いい加減、解放して欲しいところだが進言すれば放してくれるのだろうか? 危ういところだ。

 リムジンからの景色はなんとなく気分が高揚する。隣を走る車の運転者と眼が合えば、俺はどこと無く勝ち誇った気分になった。これがノーブル人にしか許されない人を見下すと言う行為なのだろうか・・・・・・ただまぁこの車が自分の所有物でなく、他人の物だと思い出せば、どこと無くむなしい気分にさせた。

「ついた」

 リムジンが、音も無く停車すると、柊は俺の手首を強くにぎり締めた。もともと有り得ないほどの握力で握られて居たのにそれ以上に強く握り締められれば無くなっていた感覚を取り戻すほど痛かった。

「ここは?」

 柊に引っ張り出され、車外へと出ると目の前には、何階まであるのか目測では判らないほどに高い高層ビルがどっしりと構えていた。

「付いて来い」

 柊はそれだけ言うと、無言で俺を引きずり始めた。俺は思う、結局引きずられるのなら、わざわざ付いて来いとか言わなくてもいいんじゃないかと・・・・・・

 ビル内はすごく綺麗なつくりをしていた。ビルの窓ガラスはすべてマジックミラー式の様で、外からは鏡として機能していたが、中からは普通の窓と変わらず外の景色を映し出していた。

 他にも、大きな鉢植えに植えられた観葉植物や、高価そうな絵画などがいくつも並べられており、まるでビル型の高級ホテルのようだった。

 受付嬢らしき人も物腰柔らかく、絶えず笑顔を浮かべていた。

 柊は何を気にすることも無く堂々と闊歩する。受付嬢の前を素通りすれば、彼女達は柊に頭を下げる。一体柊は何者なのだろうか・・・・・・お金持ちなのだろう。

 俺はいつの間にかエレベーターに乗り込んでいた。ぱっと見ボタンの数は三十ほどだ。

なるほど三十階建てなのか道理で高いはずだ・・・・・・と思わせるのはフェイントのようで、柊がボタンの場所に鍵を差込み回すとさらに二十ほどのボタンがどこからとも無く現れた。一体どういった仕組みなのか俺にはさっぱりわからずあんぐりと口を開け、アホ面をさらけ出すだけに終わった。

「私にはこれ以上は無理だ」

 聞いていもいないの何かを語る柊。もしやそれはもっと高い層のボタンがあるってことなのだろうか。

 チンっとまるで電子レンジの音が鳴ると同時に動いていたエレベーターが停止する。ドアが開けば、そこの階すべてが一つの部屋として成っている。

 そしてその部屋の真ん中に一人のオジサン(超渋くて格好いい)が、これまた高級そうなソファに腰をかけていた。

「よく来たね唯。誕生日おめでとう」

「うん」

 俺のことは置いてけぼりで、二人は口を交わす。

「ところで、誕生日プレゼントは何がほしいか決まったかい?」

「うん、父よ。決まったからここに来た」

「所で今、唯が連れている男の子は何だい?」

 俺は少し身構えるが、オジサンもとい柊父は優しい表情を寄こした。

「これだ」

「・・・・・・あぁそういうことか。なるほどね、唯も大人になったね」

「あぁ、私はもう十七歳。一端の大人だ」

 俺には話しのつながりがまったく見えなかったが、柊父にはわかったようだ。流石、親子と言った所だろうか。ただ会話の流れがまったく掴めないがゆえに、俺はこの会話の行方が不安すぎてしょうがない。

「でもまさか、唯が人間の男の子を誕生日プレゼントとして要求してくるとは思わなかったよ。それだけ唯が大人になったって証拠だね」

「・・・・・・は?」

「そうだ、私は大人だ。だからこいつをプレゼントとして要求する」

「わかった。じゃあその男の子を唯にプレゼントするよ。包装はするかい? 大きめの包装用紙が必要になるから少し時間がかかるけど」

「いや、このままでいい」

「そっかわかった。じゃあ君、そういうことだから」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」

 この日、俺は人生で初めて、プレゼントとなった。


読んで頂ありがとうございます。

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