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その後のエピソード

ザルグは、その任務を好まなかった。


いや、正確に言えば——

最も必要で、最も嫌いな仕事だった。


アリクイ対応任務。

正式には「文明捕食事象への事前介入」。

だが現場の誰も、そんな名前では呼ばない。


育ちすぎた文明を、

食われる前に、鈍らせる仕事。


守るわけではない。

滅ぼすわけでもない。

ただ、「輝きすぎない」方向へ押し戻す。


ザルグは、かつて地球で聞いた言葉を思い出していた。


沈黙は金だ。


だが宇宙では、金はすぐに掘り尽くされる。

最後まで残るのは、光らないものだ。


彼は以前、ある比喩を口にしたことがある。

寿命が短く、見た目も悪いが、果実だけはやたらと美味い木。


——ミチヤの木。


あれは感傷ではない。

ましてや慰めでもない。


迷彩だ。


過酷な宇宙で生き残るための、

ザルグなりの生存戦略。


育ちすぎないこと。

整いすぎないこと。

効率を、あえて落とすこと。


文明は、完成した瞬間に匂いを放つ。

その匂いを、アリクイは決して逃さない。


ザルグは、ふと一つの記憶に触れた。


「五分で戻る」


そう言って去り、

二十年戻らなかった、あの出来事。


あれもまた、事故ではない。


ほんの少し、

遅らせる必要があった。


地球文明が、

一気に整いすぎないように。

いびつなまま、回り道を覚えるように。


それが、守るということだった。


最後に彼が返した、五百円分の図書カード。


あれは謝罪でも、義理でもない。


金でもない。

銀でもない。


いぶし銀だ。


派手に光らず、

だが、確かに価値があるもの。


本を読むこと。

無駄な知識を抱えること。

すぐには役に立たない思考を残すこと。


それらはすべて、

アリクイに見つからないための知恵だ。


ザルグは、ふと考える。


ミナトは、どうしているだろうか。


——いや、もういないのだろう。

あの生物の時間の流れからすれば。


だが、彼女の言葉だけは残っている。


「それ、効率はいいですけど……

ちょっと味気なくないですか?」


ザルグは、その声を振り払わない。


むしろ、

次の任務の指針として保存した。


通知が届く。


【新規任務】

区分:対アリクイ対応

対象:未成熟文明

優先度:高


ザルグは、静かに目を閉じた。


「……今度は、少し遊ばせてやるか」


誰に聞かせるでもない言葉。


だがその判断が、

また一つの文明を、

静かに、長く生かすことになる。


沈黙は金だ。


だが、

最後まで残るのは、いぶし銀である。


——完。

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