Phase 12-06:図書カード
※この作品は生成AIを使用して作成されたものです
――持ち出された単位
出航まで、あと二分。
ワープ艦の周囲で空間がゆっくり歪み始める。
ミナトは、胸ポケットから一枚のカードを取り出した。
図書カード 500円分。
少し角が丸い。
だが、未使用。
「……ザルグさん」
「何だ」
「これ、返します」
ザルグは視線だけを向ける。
「なぜだ」
「第1話の設計図の対価。
ちゃんと、受け取ってもらってなかったから」
ザルグは、無言でカードを見つめる。
500円。
ダイソン・スウォームの建設費と比べれば、
誤差どころか、存在しない数字。
ブラックホール再開発プロジェクトの予算と比べれば、
単位の違い以前の話だ。
だが――
「使っていないのか」
「はい。なんか……」
「使ったら、終わる気がして」
ワープフィールドが微かに唸る。
ザルグは、カードを受け取らないまま言う。
「文明が巨大化すると、単位が狂う」
「エクサ、ゼタ、ヨタ……」
「太陽の1%、ブラックホールの回転エネルギー」
「だがな」
「500円は、狂わない」
ミナトは小さく笑う。
「また物理の話ですか」
「物理だ」
ザルグは、ゆっくりと手を伸ばす。
カードを、受け取る。
その動きは、思いのほか慎重だった。
「500円は、人間一人の数時間の労働だ」
「つまり、時間だ」
「お前は俺に、時間を払った」
「だから俺は、働いた」
ミナトは息をのむ。
「じゃあ……これで本当に契約成立ですね」
「とっくに成立している」
ザルグはカードを裏返す。
白い無地の面。
銀河連盟のクレジット端末には当然対応しない。
「銀河では使えん」
「でしょうね」
「だが」
ザルグは、胸ポケットにカードを差し込む。
「これは“単位”として持っていく」
「単位?」
「俺が次の文明を立ち上げるとき」
「ブラックホールを掘り、Type IIIの入口に立つとき」
「必ず思い出す」
「文明が巨大になっても、
最後に守るべきサイズがあることを」
ミナトの喉が震える。
「……使わないんですか?」
「使わん」
即答。
「これは消費しない」
「なら何に使うんです?」
「保留だ」
ザルグはわずかに口角を上げる。
「未使用の契約は、
未来に効く」
ワープフィールドが完成する。
空間が、静かに折りたたまれる。
「ザルグさん」
「何だ」
「次の現場、納期守ってくださいね」
「当然だ」
「銀河の納期は待ってくれない」
一拍。
「……ミナト」
「はい」
「単位を忘れるな」
「ワットもジュールも、カルダシェフもどうでもいい」
「500円の感覚を失うな」
「それがあれば、文明は壊れん」
ミナトは、笑う。
少し泣きそうな顔で。
「はい」
ワープ光が走る。
宇宙船は、音もなく消えた。
残ったのは、
軌道エレベーターと、
太陽を覆うリングと、
そして――
空になったミナトの手。
図書カードは、もうない。
人類サイズの単位は、
銀河へ持ち出された。
そしてどこかで、
ブラックホールの縁に立つ男の胸ポケットで、
まだ使われずに、
静かに待っている。
未使用のまま。
次の物語のために。




