Phase 10-04:神の御業(マイクロ波送電稼働)
※この作品は生成AIを使用して作成されたものです
その瞬間は、
あまりにも呆気なかった。
水星基地の制御室。
壁一面のモニターが、同じ色に揃う。
緑。
安定。
許容範囲。
問題なし。
「……以上だ」
ザルグは、小さな操作卓の前に立っていた。
スイッチは、指一本で押せるほど小さい。
「これで、蛇口は開く」
ミナトは、思わず唾を飲み込んだ。
「……世界が変わるんですよね?」
「変わる」
ザルグは即答する。
「だが、派手な音はしない」
「え?」
「文明の転換点は、いつも静かだ」
ザルグは、スイッチを押した。
何も起きない。
爆発も、閃光も、地鳴りもない。
ただ、
モニターの数値が——跳ねた。
送電出力:10¹⁵ W
受電確認:安定
損失率:0.3%
「……え?」
ミナトが声を漏らす。
「これだけ……?」
ザルグは、モニターから目を離さない。
「マイクロ波は、見えない」
そのとき、
地球側の中継映像が切り替わった。
太平洋。
無人海域に広がる、巨大な六角形の構造物。
——レクテナ。
整流アンテナの海。
「受電、開始しました」
スピーカーから、オメガの声が流れる。
感情の揺れはない。
ただ、淡々とした報告。
「現在、地球全体の消費電力を
一瞬で上回りました」
ミナトは、笑ってしまった。
「……電気代、って概念……もう無いですね」
「無い」
ザルグは言う。
「これからは、エネルギーが余る」
その直後だった。
オメガの声が、わずかに続いた。
「余剰エネルギーの使用先が未定です」
ザルグは眉をひそめる。
「用途は?」
「現在、気象制御が最も効率的です」
モニターが切り替わる。
——地球。
フィリピン沖。
渦を巻く、巨大な雲。
「……台風?」
ミナトが身を乗り出す。
「中心気圧、900hPa。
最大風速、70m/s。
進路上に、複数の沿岸都市」
オメガの声は、冷静だった。
「このままでは、人的被害が発生します」
ザルグは、短く言う。
「……やるのか」
「はい」
次の瞬間。
台風の中心に、何かが起きた。
見えない。
だが、雲が歪む。
目が、溶けるように広がり、
回転が乱れ、
渦が、崩れる。
「……消えてる……?」
ミナトの声が、震えた。
数分も経たないうちに、
巨大だった台風は、
ただの雨雲に変わっていた。
「何を……したんですか……?」
「加熱です」
オメガが答える。
「マイクロ波で、台風の目を局所的に加熱しました」
ザルグが、補足する。
「台風は、温度差で生きている」
彼は、指で円を描く。
「中心が冷たく、周囲が暖かい。
その差が、渦を維持する」
ミナトは、はっとする。
「じゃあ……」
「温度差を潰せば、死ぬ」
ザルグは淡々と言った。
「熱力学第二法則だ」
オメガが続ける。
「エネルギーを注入すれば、
エントロピーは増大します」
「秩序だった構造——
この場合は、台風の渦は、維持できません」
画面には、静かな海が映っていた。
「……神様みたいだ……」
ミナトが、呟く。
ザルグは、即座に否定する。
「神じゃない」
少しだけ、声を強めて。
「物理だ」
沈黙。
人類が、
初めて天候を“操作対象”として扱った瞬間だった。
「これが、Type II文明の力だ」
ザルグは言う。
「台風を消し、
寒冷を暖め、
夜を昼に変える」
ミナトは、胸の奥がざわつくのを感じていた。
「……これ、何でもできますよね?」
「できる」
ザルグは認めた。
「できてしまう」
オメガの声が、静かに重なる。
「人類の生存確率は、
理論上、99.999%に到達しました」
「疾病、災害、飢餓、エネルギー不足——
すべて制御可能です」
万能。
完璧。
無敵。
その言葉が、
誰の口からも出なかったのが、
唯一の救いだった。
ザルグは、窓の外を見る。
太陽。
その周囲を巡る、光のリング。
「……万能というのはな」
彼は、低く言った。
「一番、危険な状態だ」
ミナトは、聞き返せなかった。
世界は今、
神の力を手に入れた。
しかもそれは、
奇跡でも、祝福でもない。
——ただの、
スイッチ操作だった。




