Phase 10-02:水星の最期
※この作品は生成AIを使用して作成されたものです
水星基地の観測窓は、いつもより静かだった。
警告音も、作業音もない。
ただ、低い振動だけが床を伝ってくる。
ミナトは、ゆっくりと窓の外を見た。
そこには、かつて「水星」と呼ばれていたものがあった。
——いや。
正確には、「水星だった痕跡」があった。
惑星の輪郭は、もう存在しない。
球体は崩れ、削られ、分解され、
無数の軌道上構造物へと変換されている。
太陽の赤道付近。
そこをぐるりと囲むように、光の粒が帯を成していた。
美しい。
あまりにも。
まるで、太陽が指輪をはめたかのようだ。
あるいは、巨大な王冠。
文明が恒星に捧げた、光の装飾。
「……終わったんですね」
ミナトの声は、妙に乾いていた。
隣でザルグが頷く。
「第一期工事、完了だ」
端末に淡々と数値が流れる。
水星質量分解率:40.2%
ソーラーサテライト稼働数:100億基
太陽出力回収率:0.98%
「まだ40%か……」
ミナトが呟く。
「“まだ”と言うな」
ザルグは、珍しく強い口調だった。
「惑星の40%だぞ。
人類史どころか、銀河史でも十分に“殺した”と言える量だ」
窓の外では、無数の建設ユニットが黙々と動いている。
岩石を砕き、
元素ごとに分解し、
精製し、
組み立て、
また次へ向かう。
一切のためらいはない。
「……綺麗ですね」
ミナトは、遮光グラス越しに言った。
「太陽に、光の輪ができてる」
ザルグは答えなかった。
代わりに、ゆっくりと視線を逸らす。
「水星はな」
しばらくして、低い声で言った。
「もう戻らない」
「……分かってます」
「分かっていない」
ザルグは、きっぱりと言った。
「人間は、“名前”が残っているうちは、
まだ元に戻せると思ってしまう」
ミナトは黙る。
「だが違う。
水星はもう“惑星”じゃない」
指で、光の帯をなぞる。
「あれは資源だ。
完全に、不可逆点を越えた」
不可逆点。
一度越えたら、元には戻らない境界。
氷が溶けるのとは違う。
割れたガラスとも違う。
定義そのものが変わる点。
「再生しようと思えば……」
ミナトが言いかけて、口を閉じた。
自分でも、無理だと分かっている。
「できるさ」
ザルグは静かに言う。
「理論上はな。
エネルギーを注ぎ、
物質を集め、
数億年かければ、
また球体はできる」
「……じゃあ」
「だが、それは“水星”じゃない」
ザルグは即答した。
「記憶も、歴史も、軌道も、
何もかも違う。
それは別の石ころだ」
再び、沈黙。
建設ユニットの光が、太陽光を反射して瞬く。
美しい。
恐ろしい。
そして、誰にも止められない。
ミナトは、胸の奥がひやりとするのを感じた。
「私たち……やりすぎましたか?」
その問いに、ザルグはすぐ答えなかった。
しばらくしてから、こう言った。
「文明というのはな」
「“できるかどうか”じゃなく、
“やってしまったかどうか”で
次の段階に進む」
ミナトは、もう一度窓の外を見る。
そこにあるのは、
恒星を覆う光の帯と、
失われた一つの惑星。
誰も悲鳴を上げない。
誰も止めない。
だからこそ、
取り返しがつかない。
文明は、
静かに、
確実に、
一線を越えていた。




