Phase 8-01:帰還を諦める理由は“髪”
※この作品は生成AIを使用して作成されたものです
――120Gと3000℃、そして人間の尊厳――
水星基地・プレハブ居住区。
朝。
ミナトは、鏡の前に立っていた。
正確には――
鏡の代わりに、ヘルメットの内側に映る自分の顔を、無言で見つめていた。
「……」
沈黙。
髪の毛が、チリチリだった。
毛先という概念はすでになく、
「焦げた痕跡」が頭部に点在しているだけ。
(第7話の太陽フレアEMPの爪痕である)
ミナトは、ゆっくりとため息をついた。
「……これ、美容院行ってもどうにもならないやつだよな……」
背後で、ドアが自動開閉音を立てる。
ザルグが入ってきた。
「おはよう。いい朝だな」
「どこがですか」
即答だった。
「髪、見てくださいよ。
これ、“焼き鳥の串から外したあとの肉”みたいになってるんですけど」
ザルグはミナトの頭部を一瞥し、
端末を操作しながら淡々と言った。
「誤差の範囲だ」
「人間の尊厳を誤差で処理しないでください」
―――――――――――
『マスドライバー完成のお知らせ』
ザルグは、まるで天気予報でも読むような口調で言った。
「朗報だ。
マスドライバーが完成した」
「……え?」
ミナトの目が、久しぶりに輝く。
「え、もう!?
じゃあ、帰れるんですか!? 地球に!?」
「帰れる」
ザルグはうなずいた。
「水星赤道に敷設した全長500kmのレール。
最大加速時、120G。
射出速度、秒速11km。
大気圏再突入時の表面温度、約3000℃」
「……」
ミナトの表情が、静かに凍りついた。
「……ちょっと待ってください」
「何だ?」
「今、さらっと言いましたけど」
ミナトは指を折りながら確認する。
「120Gって、
私の体重が120倍になるってことですよね?」
「そうだ」
「50kgなら……」
「約6トンだな」
「……6トンが私を押し潰す」
「正確には、全身に均等にかかる」
「違いません!!」
―――――――――――
『3000℃と、髪の未来』
「それと、3000℃って……」
ミナトは恐る恐る聞いた。
「中、どうなるんですか?」
「遮熱カプセルがある。
内部温度は50℃前後に抑えられる」
「50℃……サウナ……」
「ただし」
ザルグは、さらっと続ける。
「カプセルの密閉に微小な誤差があれば、
高温ガスが侵入する可能性がある」
「侵入すると?」
「お前の髪は――」
ザルグは、少し考えてから言った。
「今より、もっと焦げる」
沈黙。
ミナトは、自分の髪にそっと触れた。
チリッ。
(音がした気がした)
「……」
「……」
「……やめます」
「は?」
―――――――――――
『人間は、合理性だけでは生きられない』
「帰還、やめます」
ミナトは、きっぱりと言った。
「これ以上焦げたら、
もう“髪型”じゃなくて“現象”になるじゃないですか」
「合理的には問題ない」
「人間の尊厳が問題なんです!」
ザルグは首をかしげた。
「髪など、生命維持に不要だろう」
「不要ですけど!
不要だけど!
必要なんですよ!!」
ミナトは工具箱を引きずり出した。
中から取り出したのは、レーザーカッター。
「何をする気だ」
「もういいです。
自分で切ります」
「それは岩石切断用――」
バシュッ
赤い光。
一瞬の焦げ臭い匂い。
数秒後。
鏡代わりのヘルメットに映ったミナトは、
見事なショートカットになっていた。
(左右非対称)
「……」
「……」
ザルグは、しばらく黙ってから言った。
「サムト星に生えている
“ミチヤの木”に似ているな」
「どんな木ですか」
「寿命が短い。
すぐ枯れる。
見た目も良くない」
「全部悪口じゃないですか!!」
―――――――――――
『水星生活、通常運転』
数分後。
ミナトは椅子に座り、コーヒー代わりの栄養ジェルをすすっていた。
「……もういいです。
水星、住みます」
「賢明な判断だ」
「全然賢明じゃないですけど」
窓の外では、
灼熱の地平線と、永久影の境界がくっきりと分かれている。
ミナトはそれを見ながら、ぼそっと言った。
「120Gも3000℃も、
理屈は全部合ってるんですよね……」
「ああ。完璧だ」
「でも、人間は……」
ミナトは自分の髪を触りながら言った。
「合理性だけじゃ、生きられないんですよ」
ザルグは一瞬だけ、言葉に詰まった。
「……面倒な生物だな」
「今さらですよ」
水星の朝は、今日も平常運転だった。
帰還できる手段はある。
だが、帰らない理由も、ちゃんとある。
――それが“髪”である限り。




