表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/39

Phase 7-01:辞令交付「水星支社長(強制)」

※この作品は生成AIを使用して作成されたものです

私の名前はミナト。

地球人で、ムゲン・システムズのクレーム処理係――のはずだった。


最近はもう、肩書きが追いつかない。

「物理的に正しいが、社会的にヤバい」案件の後始末をする係。

あるいは、宇宙人ザルグの暴走を“現場で止める係”。


(……いや、止められてないけど)


第6話の“監査官襲来”から数日。

東京はいつも通り、夜景が戻っていた。

タワマンの灯りが、今夜も誇らしげに点滅している。


――尊厳が何ワットかは知らないが、とりあえず光っている。


ムゲン・システムズのオフィス。

いつものように私は出社し、いつものように「新しい地獄」を探すように自席へ向かった。


そして。


デスクの中央に、白い紙が一枚、きっちり置かれていた。


(……いやな予感)


紙は、あまりにも“会社の紙”だった。

フォントが硬い。

行間が冷たい。

そして、必要な言葉だけが淡々と並んでいる。


私は恐る恐る、上から読んだ。


―――――――――――


辞令

発令:太陽系第1惑星(水星)開発事業部・支社長への出向を命ず

期間:ダイソン・スウォーム第一期工事完了まで(未定)

帰任:未定


―――――――――――


「……え?」


声が出たのは、私が一番驚いた。


(支社長……?)

(栄転……?)

(いや待って、会社に水星支社って何……?)


私は紙を二度見し、三度見し、四度見した。

見直しても、文字は消えない。

むしろ“未定”が増殖しているように見える。


「……支社長!? 栄転ですか!?」


私は、思わず笑ってしまった。

人は極限まで追い詰められると、現実逃避で明るい解釈を始めるらしい。


その瞬間。


背後から、あの低く乾いた声が聞こえた。


「おめでとう」


(いた……!)


振り向くと、ザルグが立っていた。

いつもの青白い顔が、今日はなぜか妙に“普通”だ。

昨日までの「監査官ショック」から、回復したのか。

あるいは、心が壊れたまま平然としているのか。


「ザルグさん! これ……水星支社長って……!」


「ああ、栄転だ」


(やっぱり栄転!?)

(うそでしょ!?)

私は一瞬だけ、人生が好転した可能性に賭けた。


「部下は何人いるんですか? 支社長ってことは、チームで――」


「部下は十万いる」


「……十万?」


「自動増殖型採掘ロボットが十万体だ」


「……ロボット」


「大所帯だ。お前は今から管理職だぞ」


(管理職の定義が、地球と違いすぎる……)


私は辞令を握りしめ、最後の希望に縋った。


「じゃ、じゃあ……人間の部下は……?」


ザルグは、まるで気温を読み上げるような平坦さで言った。


「お前一人だ」


「……一人!?」


声が裏返った。


「支社長って、普通は……普通は……! 現地に人がいて、引き継ぎがあって、歓迎会があって、せめて……せめて“前任者”とかが――」


「前任者はいない。支社が存在しなかったからな」


「ゼロから支社を作るんですか!? 私が!? 一人で!?」


「正確には“ゼロ”ではない」


ザルグは指を立てた。


「現地には住居がある。プレハブだ」


「プレハブ」


「酸素もある」


「酸素」


「食料もある」


「食料」


(必要最低限の“生存要件”しか言ってない……!)

(会社の辞令って、“生きられます”が基準だっけ!?)


「……いつ出発なんですか?」


私が聞いた瞬間、ザルグは当たり前のように言った。


「今からだ」


「今から!?」


オフィスの時計を見る。

午前九時。

通常なら、ここからメール地獄が始まる時間だ。

しかし今日の私は違う。メール地獄どころか、水星地獄である。


「荷物……荷物とか……!」


「必要ない」


「え?」


「向こうにある。すべて現地調達だ」


「現地調達って……水星ですよ!? コンビニないですよ!?」


「氷はある」


「氷が何の役に立つんですか!!」


ザルグは、私の机の端を指でトントン叩いた。

辞令の紙が、嫌になるほど静かに揺れた。


「いいか、ミナト。これは“出向”ではない」


「……え?」


「生存の最適化だ。地球は騒音が多い。クレームも多い。監査官にも見つかりやすい」


「だからって水星に飛ばす理由にはならないでしょう!」


「見つからない場所で、成果だけ出せばいい」


(それ、現代で言うと……どこかの島に左遷されて“結果だけ出せ”って言われるやつ……)


私は辞令の“未定”を見つめた。

期間:未定。

帰任:未定。

この二文字が、じわじわと視界を侵食してくる。


「……これ、片道切符じゃないですよね?」


「片道切符だ」


即答だった。


「えっ」


「帰りの燃料は積んでいない」


「えっ」


「帰還は、現地でインフラを作ってからだ」


「えっ、えっ、えっ……」


言葉が追いつかない。

脳が“拒否”している。


そんな私をよそに、ザルグは淡々と続けた。


「大丈夫だ。人類は順応する。お前も順応する」


「いや、順応の前に――」


「ほら」


ザルグが、私の肩を軽く叩いた。


「支社長。挨拶は?」


「……は?」


「水星支社長としての最初の仕事だ。宣言しろ」


私は、辞令を握りしめたまま立ち尽くした。

喉が乾く。

頭の中は、真っ白だ。


それでも――

社会人の体は、反射で動いてしまう。


「……水星支社長のミナトです……よろしくお願いいたします……」


声が震えた。


ザルグは満足げに頷いた。


「よし。では行くぞ」


「ちょ、ちょっと待ってください! 引き継ぎが! 会社のPCが! 私の観葉植物が!」


「観葉植物は不要だ。水星に葉緑体はない」


「そういう問題じゃない!!」


私は机の引き出しを開け、意味もなくペンを掴んだ。

持っていってどうするのかも分からない。

ただ、“地球の物”を握っていないと、心が崩れそうだった。


ザルグは歩きながら、振り返らずに言った。


「なお、出向先では日焼け止めが必要だ」


「日焼け止め?」


「推奨SPFは――」


私は、息を呑んだ。


「……いくつですか」


ザルグは、いつもの調子で答えた。


「SPF五千万だ」


「バカなんですか!!」


叫んだ声が、オフィスに虚しく響いた。

しかし誰も驚かない。

この会社では、宇宙絡みの怒号は日常だ。


ザルグは、振り返って微笑んだ。


「安心しろ。計算済みだ」


(その“計算済み”が、一番信用できないんだよ……!)


私は辞令を胸に抱えたまま、オフィスを後にした。


ドアの向こうに待っているのは、宇宙。

そして、水星。

そして、片道切符。


(……社畜の出張、ついに“惑星間”になったか……)


私は心の中で深いため息をつきながら、ザルグの背中を追った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ