Phase 3-06:愛に単位はあるのか
※この作品は生成AIを使用して作成されたものです
夜明け前。
ムゲン・システムズの管制室は、
ようやく騒音を失い始めていた。
鳴り止まない電話は一段落し、
ニュース速報も「続報」に格下げされた。
GPS障害。
オーロラ。
物流の混乱。
――そして、
「想定外だったが致命的被害なし」という、
人類が一番よく使う言い訳で締めくくられた。
私は、椅子に深く沈み込んだ。
「……終わりましたね」
「終わってない」
ザルグは即答した。
「何も終わっていない」
彼はホワイトボードの前に立ち、
いつの間にか、意味不明な式を書いていた。
∇Φ
∂B/∂t
Σ(???)
「……それ、何ですか」
「愛のモデル化だ」
私は、息を止めた。
「……はい?」
「さっき言っていただろう」
ザルグは振り返らずに言った。
「人類は、危機より感情を優先する、と」
「ええ、まあ……」
「ならば」
ザルグは、ペンを走らせる。
「感情――特に“愛”は、
文明にどれほどの影響を与えている?」
「それは……」
私は言葉を探した。
「経済、戦争、芸術、宗教……」
「ほぼ全部ですね」
「そうだ」
ザルグは満足そうに頷いた。
「ならば無視できない」
「無視できないものは、測る」
「測れるものは、制御できる」
嫌な予感がした。
「……ザルグさん」
「なんだ」
「まさかとは思いますけど」
「愛を数式に落とす気ですか」
ザルグは、当然のように言った。
「他に何をする?」
「愛は、引力の一種だろう」
「人を引き寄せ、判断を歪め、
時に命すら投げ出させる」
「ならばこれは――」
彼はホワイトボードを叩いた。
「未知の力だ」
「物理屋として、放置できるか?」
私は、頭を抱えた。
「放置してください……」
「無理だ」
ザルグは即答した。
「俺は、分からないものが嫌いだ」
「重力は分かる」
「電磁気力も分かる」
「強い力、弱い力もな」
「だが――」
ザルグは、窓の外を見た。
夜明けの空に、
まだ消えきらないオーロラの残光。
「あれを見て笑う理由が、分からん」
沈黙が落ちた。
私は、ゆっくり言葉を選んだ。
「……ザルグさん」
「人はですね」
「分からないから、笑うこともあるんです」
「怖いから、きれいだと思うこともある」
「意味がないから、意味を見出す」
ザルグは、こちらを見た。
「それは、非効率だ」
「ええ」
私は笑った。
「でも、その非効率で、
人類はここまで来ました」
「GPSがなくても」
「計算できなくても」
「愛に単位がなくても」
ザルグは、少し考え込んだ。
「……単位がない力を、
どうやって扱う?」
私は肩をすくめた。
「扱えません」
「付き合うだけです」
ザルグは、初めて困った顔をした。
「……工学的ではない」
「ですよね」
私は苦笑した。
その時、管制室のモニターが切り替わった。
〈救助完了〉
北海道のスキー場。
遭難しかけていたカップルは、
地元のレスキューに無事保護された。
毛布に包まれながら、
二人は、まだ空を見上げている。
「……あのオーロラ、忘れられないね」
「うん。迷ったけど……来てよかった」
私は、そっと息を吐いた。
「……生きてますね」
「ああ」
ザルグは、腕を組んだ。
「非効率だが……生きている」
彼は、ホワイトボードを消した。
愛の式も、定数も、
すべて、跡形もなく。
「結論だ」
ザルグは言った。
「愛に単位はない」
私は頷いた。
「はい」
「だが」
ザルグは、少しだけ悔しそうに言った。
「無視もできない」
「それが一番厄介だ」
私は笑った。
「ようこそ、人類へ」
ザルグは、深いため息をついた。
「……次だ」
「次?」
「次は、水だ」
「水?」
「H₂O」
彼は真顔で言った。
「重力を利用した、最大のバッテリーだ」
(……また何か始まる)
私は、胃のあたりを押さえた。
「……それ、
ダムとか、海とか、
壊しませんよね?」
ザルグは、少し考えた。
「壊さない」
「持ち上げるだけだ」
「最悪です……」
窓の外で、
東京の街が、朝を迎え始めていた。
GPSは復旧し、
オーロラは消え、
人々は日常に戻っていく。
だが確かに――
この星は、
少しだけ別の物理に触れてしまった。
愛に単位はない。
だが、
文明を動かすには十分すぎる力だった。
次回予告
第4話『犯人はH₂O』




