時間戦士は永遠の夢を見るのか・番外編「彼の世界」
これは「時間戦士は永遠の夢を見るのか」本編の第19話「エピローグ」の直前で、番外編「ミカの悪夢」の後の出来事になります。
※タイトルを「歴史改変阻止者」から「彼の世界」に変更しました。
<遥か未来>
アミカナは、彼女以外に何もない、巨大で薄暗い部屋の中央に立っていた。四方の壁には細かいグリッドが切ってあるはずだったが、暗さも手伝って、彼女の位置からはのっぺりした壁にしか見えなかった。
「時空座標調整中」
女性オペレータの声が響く。
「よろしい。暫く待機してくれ」
「分かりました」
チーフ・オペレータに言われて、アミカナは息をついた。意味もなく、つま先で床をつつく。
<アミカナ、聞こえる?>
不意に、スピーカーから自分の声が聞こえて、彼女は一瞬戸惑った。
「ミカ?」
<そう、私>
どうしたの?――と聞こうとして、アミカナは全てを悟った。ミカの思考は、彼女と同一だったからだ。そう、アミカナは、ミカの脳内のニューロン・ネットワークから、体の各種サイズ、容姿まで完全に模倣した、精巧なアンドロイドだった。アミカナ自身、自分が機械であるという実感はない。感覚は、コピー元であるミカだった時と全く同じだった。
「……悪夢の件ね……」
アミカナは目を伏せた。
<そう……断片的だけど、あれはきっと、4が実際に経験した記憶だわ……>
「恐らくそうね……」
<だから……>
ミカの声を遮って、アミカナは顔を上げた。
「大丈夫! 惑わされたりはしないわ。夢は夢。任務は任務よ」
<でも……また同じ場所なのよ。偶然とは思えない>
アミカナは苦笑した。
「ミカ。あなた心配性ね」
<アミカナ……>
「……悪夢の件で、私はむしろ安心してる……」
そう言うと、彼女は人差し指で鼻先を擦った。
<安心?>
「そう。私がどう生きたかを、少なくともあなたには覚えておいてもらえるって分かったから……」
<……アミカナ……>
長い沈黙があった。
<……ごめんなさい……>
ミカの声は、心なしか震えていた。ミカの複製であるアミカナを創る目的、それは、生物を生きたまま時間転送できないという理由だけではない。アミカナは、この世界に戻って来れないだけでなく、行った先の世界で消滅することが確定している。彼女は、任務と共に死ぬために創り出されているのだ。
アミカナは微笑んだ。
「どうしてあなたが謝るの? これはあなたが……いいえ、私達が望んだことじゃない……」
「座標調整完了」
女性オペレータが告げた。
<あ、アミカナ頑張って! しっかりね!>
「ありがと! ミカ!」
息をつくと、アミカナは一度目を閉じた。
……そう、私は歴史改変阻止者……だから、4、安心して……
目を開くと、青く輝く瞳で、彼女は正面に広がる闇を見据えた。
……彼の世界は、私が守る……
「よし! では、ミス・デフォルマ、ダイブだ」
チーフ・オペレータが力強く宣言した。
「はい。アミカナ=デフォルマ=5、行きます!」
お読み頂きましてありがとうございます。番外編も今回で12編目。本編の話数に迫る数となりました。なお、仕事の都合で、ここで少しお休みを頂きたいと思います。新作のアテはないので、戻ってきたらまた番外編に手を付けるかも知れません。アミカナの物語にまだ興味があるようでしたら、また覗いて頂けると幸いです。ここまでお付き合い頂きまして、本当にありがとうございました。




