深夜のお茶会 1
てっきり反対されると思っていたらしい兄の予想に反し、メルダナ公爵はかなり好意的で、求婚状を公爵の方からアルマク家に出すという話にまでなった。
約束もなく訪れたのに、公爵夫人と次期メルダナ公爵になるエミリアさまのお兄さまを交えての食事会まであり、私としてもびっくりの展開である。
泊まっていってもいいという公爵のお誘いは丁寧に固辞して、私と兄はメルダナ公爵家を後にした。
「頭が追い付かない」
馬車に乗り込んでも、兄は何が起こっているのか把握できないようだった。
最初の話では、縁談除けの『候補』になるという話だったのに、どう考えてもガチの婚約者コースになってしまったのだ。メルダナ公爵が想像以上に乗り気で、私もびっくりだ。
思っていた以上に世間の兄への評価は高いのかもしれない。
このまま屋敷に戻っても、気持ちの整理できないというので、兄も私と一緒にリオンさまに報告するため椿宮へとやってきた。
両親は公爵家から求婚状がくれば、一も二もなく受け入れるだろうから、このままいけば、簡単に縁談はまとまるはず。
リオンさまに面談を申し込んだ兄は、私にも同席するように言ってきた。そこは男同士のほうがいいのではないかと思うのだが、兄はどうしてこうなったのか、いまいち理解できていないらしい。
時間が遅いので、アルマク家には兄は今日、椿宮に泊まると連絡をおくってから、私たちはかなり遅い時間のお茶会を開くことになった。
はじめて椿宮を訪れた時にみんなで勉強会を開いた雪華の部屋だ。部屋全体に雪の結晶の装飾がほどこされている。ただ、夜が遅いこともあって、カーテンは閉められているから庭園は見えない。
「すまない。待たせたかい? 話があるって聞いたけれど?」
リオンさまは魔術師のローブを羽織ったまま部屋に入ってきた。塔から帰ってきたばかりらしい。
「こちらこそお忙しいところすみません」
私は思わず頭を下げる。疲れているところ、非常に個人的な話で申し訳ない。もちろん兄にとっては一生を左右する話だし、兄とリオンさまは親友なのだから、報告しないのも不義理だとは思うのだけれど。
使用人が静かにお茶のカップをテーブルに並べていく。
時間が遅いので、温かい花茶のハーブティだ。体を温め、心を穏やかにする作用があると言われている。
「兄の縁談のことでお話がありまして」
「縁談?」
リオンさまはカップに手を伸ばしながら、驚いたように首を傾げた。
「緊急ということは、その縁談を解消したいのかな? それとも、あまりにも意外な相手ということで、気持ちが落ち着かないとか?」
「どちらかというと、後者です」
リオンさまの問いに兄は答える。
「先方があまりにも乗り気で、兄としては驚いてしまったのでしょう」
私は口をはさむ。
「へぇ。相手は誰? メルダナ嬢かな?」
「え?」
リオンさまの言葉に兄は目を瞬かせた。
「な、なぜそれを?」
「だって、ダビーがそれだけ動揺するということは、ダビーにとっては意外な相手だったのだろう? ただ、それは嫌だというわけではない」
リオンさまは当然、というように決めつける。
「メルダナ嬢は随分前から、ダビーのことが好きだっただろう? ダビーの方もまんざらでもなさそうだったし」
「そうなのですか?」
それは私も意外で、思わず口をはさむ。
「アルキオーネ嬢は気づかなかったの?」
「えっと。実はエミリアさまのお気持ちに気づいたのは今日でして……」
私は思わず頭を掻く。
「ああ……やっぱりね」
リオンさまは私と兄の方を見比べるようにして、何かを悟ったように頷いた。なんだろう。少し悲しい。
「いや、待て。アルキオーネ。そんな話は聞いてないぞ」
兄は私の方を見て睨む。
「お兄さま。エミリアさまのお気持ちを知っていたら、お受けしなかったとおっしゃるの?」
「それは──」
兄は困惑の表情を浮かべた。




