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私を殺すラスボスは兄の親友  作者: 秋月 忍
高等部編

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メルダナ公爵家2

 由緒ある公爵家であるメルダナ家の屋敷は、とにかく広い。宮殿ほどではないけれど、うちの屋敷の倍はある。何なら調度品も非常にいいものだ。

 玄関ホールの天井は高くてふきぬけになっていて、正面の階段脇に飾られた花は今の季節より少し先の花が生けられている。メルダナ家には大きな温室があることも有名だ。真に風流な貴族は季節を先んじて屋敷を飾る。それが、富の証でもあるから。

「旦那さまがお会いになるそうです」

 突然の訪問にもかかわらず、嫌な顔一つせずに家令のハンスさんが私たちを出迎えてくれた。

「ねえ、私って本当に必要ですか?」

 思わずエミリアさまに訊ねる。

 必要なのは、兄だけであって、妹である私は立ち会う必要はない。

「おい、アルキオーネ。お前の時は俺がずっと一緒だっただろう?」

「それは……そうかもですが」

 兄は私とリオンさまの婚約話の時、立ち会ってくれた。

「あの時と状況は似ているだろう? 万が一にでも親父なんて呼んだ日には、『候補』なんてまどろっこしい立場にはならない。是か否かになっちまう」

 兄は肩をすくめた。

 父が立ち会えば、それは正式な結婚の申し込みの形になってしまう。

「もっとも、否と言われる可能性はかなりあると思うけれど」

 兄は肩をすくめる。

「ダビー先輩は、父が反対すると思っていらっしゃるの?」

 エミリアさまは兄の顔を覗き込んだ。

「少なくとも他の縁談相手に比べて良縁とはいえないのではないかな。アルマク家は家格的に可も不可もないとは思うけれど。俺はアルキオーネほど賢いわけでもないからなあ」

 兄は魔力はそれなりに高い方で、剣の腕もある方だけれど。学院の成績はそこそこ良いってレベルだ。ただ、リオンさまやレジナルド殿下という天才と同じ学年だからというのもあって目立ちようがないという説もある。

 兄の特筆すべき才能は、コミュニケーション能力であって、それは目に見えた形で評価されることは学院においてあまりない。

「お兄さまはガデリ司祭とも親しくて、リオンさまの親友ですもの。人脈面としてはかなりいけていると私は思いますけれど」

「有名人の知り合いがいるからって、俺がえらいわけではないぞ?」

「それはそうですけれど」

 もちろん著名人と仲がよくても、その人の才能が自分のものになるわけではない。ただ、人脈があるというのは、いざという時に『つぶし』が効くこともある。この世は人と人とのつながりが最後には物をいうのだ。

「ダビー先輩のそういうところ、父は気に入ると思います」

「おっ、おぅ」

 エミリアさまににこりと微笑まれて、兄はうろたえたようだった。よく見ると耳まで真っ赤だ。

 兄がよくリオンさまと私を見て、『勘弁してほしい』みたいなことを言っていたけれど、そうか。こういう気持ちなのかな。

 身内の恋愛って、なんだか見てはいけないものを見ているような気がする。

 兄ってば、エミリアさまのことが完全に好きだよね。

 確かにエミリアさまは女性の私が見ても美人だ。しかも友達想いで優しい。

 最初はリオンさまの側近として、値踏みするように見ていたかもだけれど、私とエミリアさまが友達になってからは、兄も素のエミリアさまにきちんと目を向けるようになって、だんだん惹かれていったのだろうな。

「お父さま、アルマク家のご兄妹をお連れしましたわ」

「やあ、よく来てくれたね」

 案内されたのは応接室だった。てっきりラウンジかと思ったのに、本格的なもてなしで、私も兄も正直驚く。

 もちろん一応は『求婚』のご挨拶にうかがったのだから、この対応も不思議ではないのだけれど、学院帰りに約束もなくふらりとやってきたのに申し訳ない気分だ。

「やあ、座りたまえ」

 私たちは公爵さまにすすめられるままに、エミリアさまとメルダナ公爵の対面のソファに座る。品の良さそうな女性の使用人さんが、優雅にお茶を並べて出て行った。

「エミリアから聞いたけれど、エミリアに求婚したいそうだね?」

 メルダナ公爵は前置きをせずに、口を開いた。忙しい中、無理やり時間を作ってくれたのかもしれない。

「はい。まだ両親の許可も得られておりませんので、求婚状については用意しておりませんが……」

 兄は深々と頭を下げた。

「お父さま。私、誰かと結婚しなければいけないのであれば、ダビー先輩がいいの」

 エミリアさまは積極的に口を添える。

 兄はまた顔を朱に染めた。兄自身はエミリアさまは演技しているとでも思っているのだろうけれど、それでも照れるのだろう。

「なるほど。エミリアがなかなか首を縦に振らなかったのは、君のせいだったのか」

 メルダナ公爵は合点がいったというように兄の方を見た。

「ふむ。殿下を夢中で追いかけているのをやめたと思ったら、そういうわけだったのか。意外と人を見る目があるのだな」

「お父さま?」

「いや、アルキオーネ嬢、リオンさまがダメと言っているわけではないのだ。そこは誤解なきように」

 メルダナ公爵は私の顔を見て、慌てて首を振る。

 なるほど。リオンさまを諦めて兄をとなって、「人を見る目」との言動はとららえようによっては不敬罪にあたる。

「それならば急がねばなるまい。フィーナ皇女の相手としてダビー君は候補に挙がっているのだから」

「はぁ?!」

 はじめて聞く話に、エミリアさまと私と兄、三人は異口同音に思わず叫んだ。


 

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