兄の答え
私の隣のテーブルに昼食のトレイを置き、兄は座る。
「今日はリオンさまと一緒ではないのですか?」
「リオンさまは、塔の会議で今日は休みだからな」
リオンさまは既に魔術師の塔の所属の役職付きだ。卒業したら、塔のトップに立つことになっている。リオンさまは優秀だからすぐにでも卒業可能ではあるのだけれど、一応は来年まで在籍するらしい。陛下曰く、魔術師以外の人脈を作るため、だそうだ。
「それで、俺に相談って何?」
兄はちらりとエミリアさまの方を見る。
相談の内容がエミリアさまに関することだということだということは、なんとなく察しているようだ。
「エミリアさまにたくさん縁談が来ているそうなのです」
「アルキオーネさん!」
エミリアさまは私に対して抗議めいた視線を向ける。
確かにあまり人に話すことではない。でも、エミリアさまの好きな人が本当に兄なら、婉曲で貴族的な探り合いなんてしていてはダメだ。兄はいつだって直球な人だから。
「……それは、そうだろう」
兄は意外には思わなかったらしく、素直に頷く。
「メルダナ公爵家のご令嬢ともなれば、ダース単位であってもおかしくない」
今までは皇族の縁談が決まるまで、なんとなく皆が避けていただけで、上級貴族の子息子女の縁談が十代で決まるのはよくある話だ。
「それで? 縁談相手について俺に調べて欲しいってことでしょうか?」
兄は少し不満げにちらりとエミリアさまの方を見る。
「私は……別に……」
エミリアさまは困ったように視線を泳がした。
「違うわ。そんなの、メルダナ公爵さまに聞けばいいのだから」
私は首を振る。
「エミリアさまは縁談のお相手以前に、気になる方がいらっしゃって迷われているそうなの」
「……気になる方?」
兄は戸惑いの表情を浮かべる。
「公爵さまに話せば、公爵家から打診してもおかしくないお家柄だそうなの。ただ、エミリアさまは、相手に思いを押し付けるみたいだから、そうしたくはないのですって」
「おい、アルキオーネ。お前いったい何が言いたい?」
兄は私を睨みつけた。
「俺にメルダナ嬢の背中を押せと言いたいのか? それとも公爵が選んだ相手にしておいた方がいいと言わせたいのか?」
兄は少しイラついているようだ。
「いいえ。ただ、お兄さまなら、どう思われるかなと思っただけです」
「どうって……俺はアルキオーネ、お前とリオンさまの縁談に賛成し、推し進めた人間だ。いわばメルダナ嬢の初恋を妨害したといっていい。だからこそ、メルダナ嬢には幸せになってもらいたいとは思う」
兄はふうっと息を吐いた。
「正直、縁談から逃げたいというのであれば、いくらでも手を貸す。俺でも一時的な縁談除けくらいにはなれる。でも、縁を取り持つことを期待するなら、それはメルダナ公爵に頼むべきで……」
「お兄さま。縁談除けの『婚約者候補』には、なる気はあるってことですか?」
私は兄の顔を覗き込む。
「だから、それを望んでいるわけではないだろう? 避けたいという話ではなくて、父親の選んだ相手か自分が望む相手かという話じゃないか。そもそも望む相手に別の相手がいるのでなければ、何の遠慮もいらないことだろうし……」
イラついたように兄は肩をすくめる。
これ以上話をしたくないという表情だ。その顔を見て私は確信する。兄は、エミリアさまのことがきっと好きだ。
「ダビー先輩。私の為に、縁談除けの婚約者候補になってくれるのですか?」
「え?」
エミリアさまの言葉に兄は驚いたように口をぽかんと開ける。兄は話が理解できていないけれど。エミリアさまは欲しかった答えを得られたようだった。
「……アルキオーネさんって、自分のことは鈍いくせに他人のこととなると鋭いのね」
エミリアさまはクスッと、私の方を見て笑った。




