天の理
短めです。すみません
龍の鱗は薄くて、堅そうだった。
大きさはちょうど薄焼きせんべいくらいの大きさだ。えいっと力を入れると簡単に割れた。一握りくらいの粉になる。
「これを全量ですか?」
『多くても少なくても同じこと。魔力を吸収する効果があるが、完全に消せるわけでもない』
「魔力を吸収?」
魔力が暴走した時には特効薬に使えそうだ。
『彼奴の肉体は身に余る魔力が入ったことでどんどん壊れていく。それを止めるだけのこと。治療するわけではない』
龍の鱗は、龍の体内に流れる『力』を形作るもののひとつだから、あふれる余分な魔力を吸収する効果が多少なりともあるとのことらしい。
ただし、たくさん飲んだらたくさん吸収できるというものでもないのだそうだ。
「飲ませてみよう」
私の手のひらにある粉を一度器にのせ、兄がそれに水を含ませてから雑にダリン司祭の歯茎に塗りたくった。
「さすがに雑過ぎませんか?」
「これでも、俺は優しいと思うのだが」
相手は自分たちを殺そうとし、また何人も私欲の為に人の命を殺めてきた人間だ。それを救おうというのだから、ある意味では優しいのかもしれない。
「本当はこのままここに置いていきたいくらいだ」
「ダビー、気持ちはわかるが、司祭は他にも部下がいたはず。また、一緒に逃げたと思われるタランチェ嬢がみつかっていない。助かるか助からないかはわからないが、一度連れ帰ったほうがいいだろう。兄上にも説明する必要があるし」
「わかっているよ」
兄は不服気に大きくため息をつく。
この男を助けるのはひとえに事件の全貌を知るためと、このまま放置では目覚めが悪いからだ。
『そろそろ時間だ。いとし子よ。ここの陣はもう使い物にならぬ。我に会いたくば、また別の場所を使うがよい』
龍の気が少しずつ弱まり始めた。召喚の陣をぶち壊してしまったのだから、龍は龍の居場所に帰らなければいけないのだろう。
「待って。最後に教えてください。ここにいるのは、私たちだけですか? この司祭のツレはここにはいないのですか?」
今更ながら、私は龍に質問をする。
『彼奴のツレは魂が劣化しすぎて、ここの『気』に弾かれまだ谷にいる』
「魂って、劣化しちゃうの?」
老化とかならわかるけれど、劣化ってどういうことなのだろう。
『魂は様々な世界を流転する。肉体と離れた後は、同じ世界、同じ時代にとどまることはない。そなたや我のように』
龍の目にほんの少し、優しい光が宿る。
『魂を別の肉体に移し替えると、魂そのものが弱くなり消滅しやすくなる。繰り返せばなおのことだ』
つまり、転移の陣をつかった魂の移し替えは、永遠の命が得られるようにみえるが、実際には魂そのものの力が弱まっていくものらしい。
『彼奴も、彼奴のツレも既に何回も肉体を移っている。どちらも『次』はないだろう。それは、本人たちもわかっていたようだ』
龍の体がゆっくりと透けていく。
「肉体を何度も移っている……」
リオンさまは龍の言葉が信じられないというように首を振る。
『転移の陣による魂移しは、健全ではない。万物は様々な世界を流転し、さまようことが天の理。他人の肉体を奪い、魂をその世界にとどめることは、魂そのものを歪ませ、消滅させることだと心得よ。もっとも、それでも生きながらえようと魂移しの方法を捜す者は絶えぬであろう。ここで知ったことを隠すのもよし、危険とともに公開するもよし。ヌシらの好きにいたせ』
無責任に龍は言い放ち、そしてそのまま虚空に消えていった。




