雷
短め。遅刻。すみません。
魔力の巡りがはじけたような感覚。
地下の部屋いっぱいに龍の気が満ちると、すうっと酔いはひいて呼吸が楽になった。
「龍だ……」
呟いたのはおそらく兄。
「おおっ、ついに、この時が!」
ローバー・ダリン司祭が歓喜の声を上げる。
黒々と光る鱗を持つ、巨大な龍の姿に、皆が圧倒される。
地下の部屋の空間に現れたのは、巨大な黒龍だった。
ただ、この前の時より若干小さい気がする。ひょっとしたら場所によってサイズも変えられるのかもしれない。
すると部屋にめぐらされた柱が鈍い光を放ち、龍の体を捕らえるかのように絡まっていく。龍は拘束から逃れようと咆哮をあげ、のたうった。
「何をする気?!」
単純に龍を呼んでお話をしたいとかではないのは予想していたけれど。
ダリン司祭は召喚陣の中央へと移動し、両手を広げる。
龍に絡まった光の帯から、『力』が脈打ちながら流れ、ダリン司祭の体へと流れていく。
「おおっ、力がみなぎる。素晴らしい!」
「やめて。龍を解放して!」
私は思わず叫ぶ。
龍は神にも等しい存在だから、こんな風に拘束されたところで、どうにかなるわけはないと信じたいけれど、それでも苦しそうだ。
ダリン司祭の体が淡く発光を始める。体内を大量の魔力が巡っているのだ。
「ふふふ、すばらしい」
ダリン司祭はパチンと指を鳴らす。
すると炎の玉がいくつも現れて、あちこちではじける。一つ一つは小さいけれど数が多い。直撃を受ければ、怪我をする。
「水の膜!」
私はとっさに魔術を唱え、炎の玉を防いだ。
「これだけの力があれば、すべてを手に入れることができる。ラナスを復活させ、この国を手に入れる」
龍がのたうつたび、大地が揺れる。
空気がびりびりと振動し、肌はひりひりと痛んだ。
ダリン司祭は黒いローブをきたダリン司祭の部下たちを守る気はないらしい。彼らは魔術で自分の身を守る手段がないらしく、火に巻かれてしまった。
いったい何を考えているのか。
「なんとか、龍の力を止めないと」
リオンさまは龍を陣を打ち破ろうと試みているけれど、どんな陣で術を展開しているのかはっきりわからないとリオンさまの実力をもってしても難しい。何しろもともとの陣は、ダリン司祭が描いたものではなく、魔術王国時代から残っているものだ。
「いきますよ、ダビーさん」
「はい!」
兄とロイスナートさんがダリン司祭めがけて走り出した。
が、その刃は届かず、陣に入ろうとした瞬間、弾かれるように後ろに飛ばされた。
『我のことは心配には及ばぬ。捨て置け』
龍の声が頭の中に響く。
「何?」
思わず答えると、「アルキオーネ嬢?」リオンさまが怪訝そうな顔をする。
どうやら、私にしか聞こえないようだ。
『とわに我を捕らえることなど、人にはできぬ』
「それはそうかもしれませんけれど!」
永続的なことは不可能でも、現状、ダリン司祭が私たちよりも強大な力を手にしつつあるのは事実だ。龍にとっては一時的なことと割り切れるのかもしれないけれど。
『どうしてもというのであれば、雷を我に向かって撃て。そこにいる全員でやれば陣の魔力を越える可能性が高いだろう』
「わかりました」
私は頷く。
「皆さん、合図をしたら龍に向かって雷を撃って下さい!」
「アルキオーネ嬢?」
リオンさまたちは問いたげな瞳を私に向けたけれど。
今は時間が惜しい。
「いきます。雷よ!」
私の呪文に合わせ、全員の呪文が重なり、特大の雷が龍に突き刺さった。




