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私を殺すラスボスは兄の親友  作者: 秋月 忍
高等部編

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シーマ司祭

 結局、捜索隊の指揮はレジナルド殿下がとることになり、騎兵でナルンへ先行することになった。

 私はリオンさま、ガデリ司祭に兄とともに、人生二度目の軍の幌馬車でナルンに向かうことになった。リオンさまの護衛のロイスナートさんも当然一緒だ。

 父はなかなか納得できないようだったけれど、ザナン伯爵が私の魔術師としての実力を保証してくれたこともあり、結局は許してくれた。

 私達が到着する前にレジナルド殿下が司祭たちを確保できるのであれば、それで終わり。私はあくまで、彼らが遺跡に逃げ込み、どうしようもなくなった時のためということになった。

 そもそも、こちらは予定通りの日程ではないので、勘づかれて雲隠れされる可能性まである。そこで諦めて国外にでも逃げ、二度と戻ってこないのであれば、それはそれでいいのだけれども。

 相変わらず乗り心地の悪い幌馬車の椅子に座る。

「今回はそれほどスピードは出しませんので」

 ロイスナートさんの言った通り、揺れはそこまでひどくない。レジナルド殿下が先行しているからということらしい。たぶんだけれど、できれば私を間に合わせたくはないのだろう。

 不満がないわけではないけれど、少なくとも同行を許してもらったのだから贅沢は言えないし、この前のスピードで走られると到着時には体力がゴリゴリに削られてしまっている自信がある。

「あの、ガデリ司祭、シーマ司祭はどんな方だったのですか?」

 几帳面な綺麗な字を書かれていたから、きっと教養のある人だろうなあとは思うのだけれど、実際のところどんな性格だったのかは何も知らない。

「シーマ司祭は、次期大祭司の呼び声も高い、非常に研究熱心な方でしたよ」

 私の対面の椅子に座っているガデリ司祭が懐かしそうに答える。

「光輪派の基礎はシーマ司祭が作られたのです。いまのように魔獣などを汚らわしい物と決めつけるようなものではありませんでした。それによって得られる恩恵をできるだけ享受しつつ、だからといって、魔獣を乱獲するようなことはあってはならないという、博愛の心から新たなプロティア教を目指しておられた」

 ガデリ司祭は少しだけ苦笑する。

「ただ、真面目過ぎて私から見れば少々窮屈な方でしたけれど。立派な方だったとは思います」

 ガデリ司祭はシーマ司祭より年下にあたり、兄弟子だった。尊敬はしていても、気安い感じの人ではなかったらしい。

「ローバー・ダリン司祭の才を高く買い、可愛がっておられた。ダリン司祭はシーマ司祭の遠縁にあたり、両親を亡くし異国から親族を頼って帝国にやってきたという話でした」

「遠縁……ですか」

 祖先が同じナスランであったというのは間違いなさそうなので、本当に遠い血縁なのかもしれない。

「ラナスという女性はご存知ですか?」

 ガデリ司祭の隣に座っていたリオンさまが口をはさむ。

「名前まではわかりませんが、少し年配の女性と一緒に帝国に来たと聞いたことがあります」

 ダリン司祭はシーマ司祭の薦めで、帝国に来てすぐ神殿に入って神官になったが、女性は神殿勤めはしなかったらしい。

「十年前、司祭が失踪なさった時、捜査はされたのですか?」

「神殿から捜査依頼は出されていたのはまちがいない」

 リオンさまが頷く。

「ただ──どこかでうやむやになってしまったようだ」

「どういうことです?」

「痕跡が全くなかったのと……自分から身を隠したのではないかという『噂』があったようだ」

「身を隠した?」

 何か逃げなくてはいけないようなことがあったということだろうか。

「シーマ司祭は、ある女性に片恋しているという噂がありまして、その方が嫁がれてすぐの失踪でしたので」

 本当のところはわからないけれど、その女性は熱心なプロティア教の信者でシーマ司祭と親しかったが、親の意向で嫁いでいったらしい。

「ただ、私が知る限りどちらかといえば、思いを寄せていたのはその女性の方でした。それにプロティア教では神官の婚姻を禁止してはおりませんでしたから、失恋して失踪はしっくりきませんでした」

「おっちゃんとしては、駆け落ちだったほうが納得した?」

 兄が茶々を入れるように口をはさむ。

「そうですねぇ。ただ、シーマ司祭は神に全てを捧げているような人でしたから、駆け落ちだとしても驚いたでしょうね」

 なんにしても、そんな噂があったせいで、捜査は真剣に行われなかったようだ。

 もしきちんと行われていたら、シーマ司祭はラナスという女性に殺されてしまっていたことに気づいたかもしれない。そう考えるとその噂もひょっとしたら意図的に流された可能性まである。

「ところでシーマ司祭にご家族は?」

「子爵家の爵位と領地は彼の叔父がシーマ司祭が司祭の地位になった時に引き継いだと聞いています」

「貴族の地位をお捨てになられたのですか?」

 司祭になっても、別に貴族であり続けることはできる。むしろ貴族であり続ける方が、大祭司などになった時、箔があってよいともいえる。

「真面目な方でしたからね。司祭になれば領地経営などはどうしても手が届きにくくなる。役目が果たせないのはよくないとお考えになられたのでしょう」

「……そうですか」

 聞けば聞くほど、シーマ司祭は堅苦しいほど真面目な人物だったのだろう。

「亡くなられたとアルキオーネ嬢からお聞きして、得心いたしました。彼こそ、何があってもすべてを投げ出して逃亡するようなことができる人ではないとずっと感じていましたから」

 ガデリ司祭は目を伏せ、そっと女神に祈りの言葉をつぶやいた。

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