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私を殺すラスボスは兄の親友  作者: 秋月 忍
高等部編

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魔術王国の遺産

 御者の自白があった地点で、ローバー・ダリンの捜索のために兵はナルン方面に向かっているそうだ。だから私が今から向かっても既に確保済みという可能性もある。

 そうリオンさまに説明され、ナルンに行くならそれなりに準備をしてからだと説得された。

 言われてみれば、傷は治してもらったけれど、すぐに行動できる状態ではない。兵服を用意してもらってそれに着替えていると、兄と父、それからザナン伯爵、ガデリ司祭。レジナルド殿下とこんな森の小さな神殿には、随分とたくさんの人がやってきた。

「アルキオーネ、ナルンに行くって、本気なのかよ?」

 着替えている時にリオンさまから説明を受けたのだろう。私の顔を見るなり、兄が私に詰め寄る。

「アルキオーネ。殿下たちにお任せしなさい。お前が行くということは、お前を守るために人がいるということにもなる」

 父は私の手を握り締め、私を見つめる。頬が少しこけているのは、きっと私のせいだ。体が小刻みに震えているのが分かる。

「彼らの大望を果たすには私が必要みたいですから、私が行くことは手放しに褒められることではないことは理解しています」

 彼らが龍石を集めていたのは間違いないことだ。私をさらったのも、そのためである。

 魔術王国の遺産とやらを手に入れるには、龍石が必要なのだろう。

「ただ、場合によっては、彼らを取り逃がしてしまう可能性もあります」

 彼らは少なくとも一度は龍石を手にしている。永続的に使えるものではないだろうけれど、現在全く持っていないという保証はない。龍石がなければ入れないという仕組みは、赤い月だけでなく、シーマ司祭の先祖も作っていたことから、それなりにメジャーだった技術だと思われる。そんな場所に入られたら、中にいるのが分かっていても入れない。しかも出口が一つだという保証はないのだ。

「彼らが逃げれば、また私は狙われるかもしれません」

「それはそうかもしれないけれど、アルキオーネ。だからと言って、お前が矢面に立つ必要はないのだよ」

「私が立ちたいのです。お父さま」

 父の言っていることがわからないわけではない。私は多少魔術が使えるとはいえ、身を守るに十分とは言えない。もし、十分ならさらわれることはなかったはずだ。もっともあの時は、大技を使った後で魔力がほとんど使えなかったせいもあるのだけれども。

「迷惑をかけてしまうことも、危険なこともわかっています。ですが、私は彼らを絶対に許せないのです」

 安っぽい正義感と思われそうだけれど。

 孤児を集めて、龍の寵児を捜すために無理やりゴルを飲ませたりする行為もそうだし、ダリン司祭を信頼していたシーマ司祭を後ろから切り殺し、龍石を抉り出すなんて、あり得ない。思い出しただけで吐き気がする。

「おそらくですが、彼らは龍を呼ぼうとしているのだと思います」

 その横から、ザナン伯爵が口をはさんだ。

「龍を?」

「殿下が持ち帰られた赤い月の書物の中に、龍を呼ぶための施設があるとの記載がありました。魔術王国時代、龍を召喚し、その力で人工の『龍石』を作るという技術は確かにあったようです」

 それがどこなのかはわからないですけれど、と、ザナン伯爵はほんの少し肩をすくめて見せる。

「赤い月は、人工龍まで作っていたひとですものね」

 人が保有できる以上に強大な魔力を必要とする術を使用するために、人工の龍をつくったり、龍石をつくったりと、人類は諦めない生き物なのだろう。良くも悪くもだけれど。

「つまりナスランは当然、その場所を知っていたということか」

 ふうっとリオンさまが息をつく。

「この記述によれば、出入口等は、龍の寵児か龍石を持っていないと開かないとあります。また召喚の儀式そのものは、龍の巫女でないと不可能かもしれません。はっきりとした記述はないですけれど」

 赤い月は、龍の巫覡でもあったらしい。まあ、だから逆に魔力に不自由しないところがあって、さまざまなものを開発できたのだろう。

「ならば、彼らは龍を呼ぶまで私を絶対に殺すことはできませんね」

「おい、アルキオーネ」

 さらわれてからの待遇を考えると、生きてさえばいいというくらいで、全然大事にはされていなかった。だから命は保証されても安心ということではない。

「それに、そういうことなら、そこに逃げ込まれたら、私がいないと中に入れないではありませんか?」

「アルマク嬢は、本当に変わっている」

 黙って様子を見ていたレジナルド殿下がポツリと呟く。

「誰も君にそんなことを期待していないのに、なぜそこまでする?」

 暗に、どう考えても足手まといなのにという考えが透けて見える。

 うん。まあ、そうだよね。面倒なやつだと思っているのだろうな。

「私にもよくわかりません。殿下からみれば、迷惑な女でしょうね」

 私のようなほぼ戦力外の人間が捜索隊に加わればその守護に回す戦力が必要になる。たとえ遺跡に奴らが逃げ込んでも、私がいなければ儀式は出来ない可能性が高いのだから、わざわざそこへ飛び込まず、彼らがつかまるのを待てばいい。それはわかっている。

「ただ、私以外に巫女がいないという保証はありません。その場合は、遺跡に入られてしまったら、止めることは不可能です」

 光輪派は、孤児院を使って龍の寵児や巫女を捜していた。私の他に該当者がいないという確証はどこにもないのだ。

「兄上、それから侯爵、アルキオーネ嬢は私が連れて行く」

 リオンさまが私の手を取った。

「目に見えるところにいてくれた方がいい」

「まあ、そうだなあ、放置しておくと何するかわからんから」

 リオンさまに頷くように兄が苦笑する。

「無詠唱で雷を落としたと先程兵から聞きましたからね。彼女は守られるだけの令嬢とは違いますよ、殿下」

 ザナン伯爵の言葉はフォローというより、呆れられている気がした。

 

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