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私を殺すラスボスは兄の親友  作者: 秋月 忍
高等部編

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81/119

 シーマ司祭を殺害して得た龍石を持ち、ラナスという女性とダリン司祭は、マイアを誘拐して、移動の陣を描き変え始めた。たくさんの人たちが、自由を拘束された状態で陣の周りに並べられる。

 壁に描かれた文字は『素』。

 ああ。ということは、陣の周りに並べられた人々は、遺跡でみた遺体なのだ。つまり彼らは贄である。なんてことだろう。

『時間だ』

 龍の言葉が頭に鳴り響き、目の前の風景がぐにゃりと歪む。

「待って、まだ──」

 何があったのかわからないからもう少し見たいと言いたかったけれど。

 次の瞬間、馬が単騎で森の中を走っているのが見えた。

 いや、単騎ではない。ずっと後方にたくさんの騎兵が追っている。

 遠目でもわかる赤い髪。リオンさまだ。

 小さな村の神殿にたどり着くと、リオンさまは大急ぎで中に入っていく。

「アルキオーネ嬢は!」

「こちらです──」

 出迎えた兵がリオンさまを奥へと案内する。

 神官と思われる人物が、寝台に横たわる人物の足に包帯を巻いていた。

「容態は」

「体中傷だらけでしたが、そちらに関しては神力による治療で事なきを得ました。問題なのは、魔力の枯渇の方ですね」

 神官の表情が険しい。

「ただの魔力の枯渇であれば、数日眠れば大丈夫でしょうけれど、生命力まで衰弱してしまっており、何とも言えない状況です」

「魔力の枯渇……」

 リオンさまの眉間に皺が寄る。

「おそらくですが、無詠唱で雷を呼ばれたのではないかと」

 傍らに立っていた兵の一人が口を開く。

「馬車が検問をすり抜けそうになったのでご無理をなさったのだと思われます。我らが手落ちです。申し訳ございません」

 兵が頭を下げた。

 寝台の上にリオンさまが手を伸ばす。そこに青白い顔で横たわる私がいた。

 リオンさまが私の額に陣を描き始める。

「殿下、何を?」

「魔力を補充する。多少はマシになるはずだ」

 他人に魔力を譲渡する術は存在するけれど、かなり高度なものだし、負担の大きい術だ。

 そんな術が必要な状態だというのにも驚くけれど、リオンさまにそんな真似をさせるわけにはいかない。

「どうやったら、体に戻れるの?」

 私は龍に訊ねる。

『戻りたいと願い、生命力が回復すれば』

「戻りたいです!」

 自分の体に戻ろうと体を重ねようとしても上手くいかない。

『今、戻れば、かなりしんどい思いをするぞ?』

 今の私は肉体の苦痛から切り離されている。ある程度魔力が体に満ちてから戻る方が、楽だと龍は言いたいのだろう。

「でも!」

 リオンさまが額に手を当てて私の体に力を流し始め、私の体が僅かに発光する。自分のものではない魔力が私の体を巡っているからだろう。

『今回は手を貸してやろう。ヌシは龍に連なる者ゆえ』

「龍に連なる?」

『ここでない場所。ここでない時。ヌシと我は兄妹であった』

 龍の声音が少しだけ柔らかくなる。

『もはやその記憶は無きに等しいが、我がここに呼ばれし時、ヌシが今度こそ幸せになることを祈ったようだ』

 私と龍が兄妹?

「お兄……ちゃん?」

『我を呼びたければ、手順を守れ。このような呼び方は二度としないように』

 前世、私には兄がいた。

 もう顔も名前も覚えてはいない。それでも私を嗜める言葉に、兄のぬくもりを感じた。

 信じられないことではあるけれど、それが本当のことだとわかる。

「待って、お兄ちゃん!」

『今度はつまらぬ死に方をするな』

 龍は苦笑をし、私は、龍から発せられるやわらかな『力』に包まれた。

 力はゆっくりと私を肉体へと戻していく。

 体がしっかり重なると、リオンさまの力が体を巡っているのを感じた。

「リオンさま」

 私は口を開き、額に載せているリオンさまの手に触れた。

「ありがとうございます。もう……大丈夫ですから」

「アルキオーネ嬢!」

 リオンさまは目を見開き、そして私の体を抱きしめた。

「リオンさま?」

「君が消えて三日間。生きた心地がしなかった。私は君を守ると言ったのに……守れなくて」

 リオンさまにギュッと抱きしめられて少し痛いくらいなのだけれど、かえって生きていると実感できた。

「ローバー・ダリンの行方をずっと追っていたが、なかなか見つからなかった。今回ほど、自分が情けないと思ったことはない」

「でも……見つけてくださいました」

「君が無茶をしたからね」

 リオンさまは私の体を離して、苦笑する。少し泣き笑いに見えた。

「無詠唱で雷を落とすなんて。規格外にもほどがあるよ」

「雷を落とそうと思ったわけではないのですけれど」

 実際には神と龍に文句をつけたら、龍を呼んでしまったのだけれども。

 それを言ったら、もっと呆れられそうな気がした。





 

 

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