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私を殺すラスボスは兄の親友  作者: 秋月 忍
高等部編

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検問

 不意を打たれると不利になる。それは当たり前のことだけれど。

 今回は完全に油断していた。

 行動に迷った一瞬をつかれ、腹をけられた。

「ぐっ」

 激痛に思わず膝をつく。

 せっかく手にしていた斧をとりおとしてしまった。

 その隙を逃さず、斧はダリン司祭に蹴られて、私の手から遠い場所へと滑っていく。

「沈黙」

 ダリン司祭の指が、私の頭に突き立てられる。

「……」

 何をされたのかすぐにはわからなかったけれど、うめき声が音にならない。

 何をしたのと問おうとして、自分が話せないことに気づいた。

 どうやら声を封じられたらしい。接触でないとかけられない魔術で、それほど長時間効果があるものではないけれど、魔術を封じられてしまう。つまり私としては何もできなくなってしまった。

「まったく、あの状況から逃げ出すとはお転婆なご令嬢だ。さすがに殿下に愛想をつかされるのではありませんか?」

 ダリン司祭はにやにや笑いながら私を後ろ手に拘束し、猿轡をかませる。

 抵抗したいところだが、魔術を封じられている以上、逃げられる確率は非常に低い。ここはおとなしく捕まって、チャンスを待つべきだ。

「随分と生意気な目をしていらっしゃる。ただ、残念なことに救援が来ることはまずないでしょう」

 ダリン司祭は自信満々だ。

 ここはおそらくダルケン・シーマ司祭の屋敷だろう。シーマ子爵家がどうなったのか詳細を聞いていなかったけれど。つまり、光輪派の神殿や、ダリン司祭の身辺を探ってもなかなかここにたどり着かないと彼は考えている。

 日記をざっと見ただけなので確信はないけれど、たぶんシーマ司祭は結婚していない。だから普通に考えたら、親族が相続するはず。法律上は当主が二年以上不在だと領地などは国に返還されてしまうことになっている。失踪の場合は病死などとは違うから、扱いが少し違うかもしれないけれど。

 ダリン司祭はシーマ司祭の支援を受けて神殿内で出世した、いわばシーマ司祭の愛弟子だった。だが、だからといって、屋敷を我が物顔で使用しているのは、どういうことだろう。

「しかし、この移動の陣、どこと繋がっていましたか? あ、今お話は出来ないのでしたね」

 くすくすとダリン司祭は笑う。

「お気づきになられたかと思いますが、移動の陣というのは、たいてい一方通行なのですよ。もちろん過去には双方向のものもあったようですが」

 なるほど。だからもう一度入っても移動できなかったのか。

「どこと繋がっていたか多少興味がありますが、時間がありませんのでまた今度にいたしましょう」

 ダリン司祭は隣の部屋に戻って、鈴を鳴らした。

「リーグを呼べ。さがしものは見つかった。すぐに出発する」

 そうして私はまたフードを被った怪しいものに荷物のように担がれ、大きな木箱の中に放り込まれた。



 こうして運ばれるのは初めてではないのかもしれないが、意識がある状態だと、やはりあまり楽しいものではない。

 中に人が入っているのはわかっているだろうに、どこかに載せられるとき、かなりの衝撃が来た。積荷を放り投げるのはやめて。割れ物注意くらいのつもりで扱って欲しい。

 木箱は狭い。寝返りもうてないほどで、たぶん蓋は鍵をかけられている。何を入れるための箱なのだろう。棺桶ではないといいのだけれど。

 馬の鳴き声がするので、どうやら馬車でどこかに移動するようだ。

「ええぇ! ナルン? 嫌だぁ。私はここに残るぅ」

「バカなことを言ってないで、早く馬車に乗りなさい。元はといえば、ラナス、あなたが始めたことなのですから」

「私は……マイアだもん」

 どうやらマイアがごねているようだ。

 これから向かう先はかなり田舎で、マイアとしては行きたくないらしい。

 それにしても、ダリン司祭とマイアはどんな関係なのだろう。そしてラナスというのは誰のことなのか。

「リーグはこのまま南に行け」

「はい。旦那様」

 どうやら、私をのせた馬車と、司祭たちの乗る馬車はルートも違うらしい。考えればあれだけ宮殿で派手にやらかしたのだ。捜査は当然おこなわれているはずで、用心はしているのだろう。

 しばらくして馬車が動き出した。覚悟はしていたけれど、ものすごく跳ねる。あちこち痛い。軍の幌馬車も揺れたが、あれはきちんと座った上でのことだ。

 いけない。逃げ出すとか以前に、こんなことで消耗してしまいそうだ。

 もう一度縄を切れないかやってみるべきなのに。

 たぶんだけれど、この馬車は農家が使うタイプだ。草のにおいがするから、木箱の上に干し草をのせてカモフラージュしているのだろう。

「止まれ!」

 人の声がした。

「積み荷は何だ?」

「牛のエサですよ、旦那」

 おそらく検問だ。気づいてもらわないといけない。私は必死で体を動かして物音を立てようとする。

 がさがさと草を動かす音が少しだけした。

「うーん。大丈夫のようだな」

 嫌。ダメだって!

「た……」

 沈黙の魔術をかけられた上に猿轡を噛まされているので、うまく声が出ない。

「よし、行っていいぞ」

「ありがとうございます」

 兵士が離れていくのが分かった。

 ダメ。今を逃したら逃げられない。

 魔術も使えない。声も届かない。胸に絶望が広がる。

 プロティアのバカ! 司祭がこんな悪行をしているのに、どうして神の力を与えているの?

 龍も龍だ。勝手に要らない力をくれたせいで、こんなひどい目にあう。

 そもそも私を殺すのは、リオンさまではなかったのか。

 あんなに優しくて真面目なリオンさまに対して、恐怖心を植え付けるだけ植え付けてくれたくせに、本当の危機を教えてくれないなんて。

「なんとかして!」

 

 その時、突然雷鳴とともにガクンと衝撃があり、天地が逆転した。

アルキオーネ、龍にキレる

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