探索
光玉に目がくらんだ相手に向かって、体当たりをかます。
こういうのは、一にも二にも、相手の不意を衝くのが肝心だと兄が言っていた。
相手はまさか私が突進してくるとは思っていなかったのだろう。
勢いのままに壁まで吹っ飛んだ。
私にとって運の良いことに──彼にとっては不幸なことに、頭を壁にぶつけたらしく、そのまま気を失ってしまった。
よく考えたら体当たりが失敗する可能性もあったのだから、軽率な行動ではあったのだけれど。
一応、兄のおかげと思っておこう。
結果よければすべてよし。
光玉の光量を調節し、辺りを見回した。
私がいた牢の他にも同じようなものが二つあったが、中に人はいないようだ。通路の先に鉄格子の扉が見える。扉は開いていて、その先に階段があるようだ。
倒れた相手は神官服を着ているが、意外と若い。男性だけれど、痩せていて囚人をどうこうする獄吏のイメージとは違う。
もっともムキムキの獄吏とかだったら、私の体当たりであっけなく気を失うことはなかったはずだ。
偏見かもしれないけれど、この体格では私を連行するのは無理そう。ただ様子を見に来ただけかもしれない。
持ち物を確認すると、水筒と薬剤のようなものを持っていた。私に飲ませるつもりだったのだろうか。それとも自分用なのか、よくわからない。通路に明かりはなく、落とした衝撃で明かりが消えてしまったランタンが転がっている。ドアには、鍵が刺さっていた。他の場所の鍵もいくつかついていて、束になっている。
「喉は乾いているけれど、さすがにこれは飲む気にはなれないかな」
水筒の中身がただの水とは限らない。
とりあえず鍵をもらって、逃げることにした。
本当はもっと持っているものとか調べたいけれど、目が覚めたら厄介だ。鉄格子の開いていた扉を閉めて、鍵をかける。これでひとまず先程の神官が目覚めても、すぐにどうこうすることはできない。
あたりを見回すと、非常用なのだろう。小型の斧が壁にぶら下げられていた。よく見ると、刃が錆びているけれど、ないよりはまし。そもそもこれで戦えるとかは思っていない。
とりあえず既にぼろぼろになっているドレスの裾を切って短くした。斬られた足の傷は、まだ血が滲んでいるので、布で縛る。靴はないけれど、タイツははいているので良しとしよう。足音が響かないと思えば、今はかえって靴がない方がいい。
光玉の光量を落とし、ゆっくりと階段をのぼる。踊り場の先に、扉があった。
扉にピタリと耳をつけて耳を澄ます。
大きな物音はしない。そろりとノブに手をかけ、ゆっくりと扉を引く。うっすらと光が差し込んできた。
扉の陰からのぞくと、広い渡り廊下のようなものが見えた。辺りはぼんやりとものが見える程度には明るい。人の気配がないのを確認して、扉から出る。
左手側は壁で通路は建物に沿って作られており、右手側は少し盛り土になっていて、飛び降りれなくはないけれど高い。あまり手入れされていないのか背の高い雑草が生い茂っていて、その向こうは森になっている。建物はかなり大きい。神殿というより、貴族のお屋敷を思わせる。大きさ的に帝都だとしてもかなり郊外だろう。
長い通路は、普段あまり使われないのだろう。ところどころ樽や掃除道具がそのまま置かれている。
鳥が遠くでさえずりを始めているのを見ると、夜明けが近いのだろう。
ここはいったいどのあたりなのか。
日が昇る前に、ここを離れたほうがいいのは確かだけれど、闇雲に森の中に逃げるのが正解なのかわからない。
私は足音を忍ばせながら、通路を進んだ。通路は突き当りで曲がっており、折れ曲がった先には、勝手口と思われるドアと井戸がみえた。
この世界では水道に関しては、帝都にいる限り、蛇口をひねれば水が出てくる。井戸があるということは、相当な田舎だ。
井戸にはふたがしてあったが、釣瓶はあり、枯れてはいないようだった。
「よいしょ」
ふたを外し、思い切って井戸の水をくみ上げる。
この水も安全とは言えないかもだけれど、疑いだしたらきりがない。
水を飲んで、乾きを潤し、さらに周囲を観察する。
井戸の傍に、粗末な小屋があった。物置用の小屋だろうか。石造りなので壊れてはいないけれど、随分と年季が入っている。
中をのぞくと、藁と鍬が無造作に置かれていた。家畜用の藁を収納しておく小屋だろうか。それにしては、随分と雑な置き方だ。まるで本来の用途を偽装しているかのような、わざとらしさ。
「まさか、ね」
そんなものを確かめる暇があったら、逃げるべきだとは思いつつ。
私は、藁をゆっくりとどける。すると、そこには金属のふたのようなものがあった。
靴を獄吏から奪うかどうか一時間くらい考えて、水虫移りそうだなと思ってやめました。
(マジで無駄に考えた)
ヒロインが靴を脱がして奪う図もあまりよろしくなさそうなので(;'∀')
次回はようやく話が進みそう。(無駄にサバイバル展開ですみません。私自身はこういうの好きなのでついやってしまう……)




