相談
私が遺跡の調査に加わるのが公になるのは、あまり望ましくないということで、まずは婚約について話を進めるということになった。日程調整は父を交えて話し合う必要があるが、とりあえず明日の舞踏会で発表だけ先に行うらしい。黙っていると変な憶測をされる可能性があるかららしい。
「婚約式が終わったら、早々に行儀見習いということで椿宮に住んで、そこから学院に通いなさい」
「それは……」
陛下のお話に、さすがに戸惑う。婚約と結婚は違うし、そもそも、解消しても良いみたいな気楽さだったはずなのに。
「その方が秘密裡に調査が行えるし、なにより妃教育という名目で、そなたを守れる」
私が遺跡のキーになることは人に知られると厄介だというのはわかる。少なくとも移動の陣で儀式を行った連中に見つかるのはよろしくない。
「ですが、さすがに結婚式の日取りも決まらぬうちに同居はどうかと」
兄の顔が険しくなる。
「リオンが本宮に移ればいい。それなら問題あるまい」
陛下はにやりと口の端を上げた。
「なにしろ、リオンが決闘をするほど入れ込んだ相手なのだ。準皇族として扱ったところで、誰も不思議には思わんさ」
「むしろ、納得するでしょうなあ」
ザナン伯爵も同意する。
リオンさまは私の名誉の為に決闘をした。そのことは誰もが知っている。
あれ? ひょっとして、私もリオンさまも後戻りとかできない状態なのでは?
「ごめん。思った以上に、君を囲い込むことになってしまったかも」
リオンさまが頭を下げる。
「その代わり、椿宮では好きにしていい。私は、君が君らしくしてくれているのが一番嬉しいから……」
「リオンさま。それ、アルキオーネに言ったら絶対ダメなやつです」
兄が思わずため息をつく。
「こいつ、好きにしろと言われたら、絶対に好きにするから。しかも何か言われたとしても理不尽だと思ったらおとなしく我慢するようなタイプじゃない。リオンさまはともかく周囲の人間に呆れられてしまう危険が……」
「それを含めてアルキオーネ嬢だから」
にこりとリオンさまは笑う。
「ダビー、野暮はよしなさい。悪いようにはならないだろうから」
ガデリ司祭が首を振る。
「単純に政治的な意味だけの婚約ではない。少なくとも世間はそう思っている。それくらいしてはじめてリアリティが出るくらいだろうからなあ」
レジナルド殿下はふぅと息を吐く。
「しかし、びっくりするほど、首ったけなのだな」
「いけませんか?」
呆れた口調のレジナルド殿下に、リオンさまは言いかえす。
「いや、まあ、少し羨ましいな」
「……すみません」
リオンさまは頭を下げる。
レジナルド殿下から見れば、私とリオンさまの婚約は自由恋愛の結果のように見えるのかもしれない。
「しかしそうなりますと、レジナルド殿下の婚約者争いはし烈になりますなあ。帝位継承権を巡って、周囲の思惑は乱れそうです」
ガデリ司祭の言う通りだ。
リオンさまの婚約者が、可も不可もない侯爵家の私と決まったとなると、帝位継承権争いとしては一歩も退かず、かといって一歩も進まないような状態になる。
「帝位については、私は最初から興味がございません。ただ、アルキオーネ嬢については、誰かに譲るという気はなかっただけです」
なんだかさり気に凄いことを言われていて、胸がドキドキしはじめた。
「正直、フィーナの立太子を急いだほうが国が安定すると私は思います」
「しかしフィーナはまだ幼い」
レジナルド殿下の言葉に、陛下が首を振る。
「スーヴェル皇后陛下がいらっしゃれば問題はないでしょう。あまりに決定を遅らせると、私や母上がいらぬ野心を焚きつけられる危険もありますよ」
レジナルド殿下の表情は冗談にしては険しい。
実際のところ、レジナルド殿下にすり寄ってくる勢力はかなりあると聞いている。
「そんな輩がいるのか?」
「ええ、まあ。私か、フィーナのどちらにつくのが正解か、周囲からずっと探られている感じがして嫌ですね」
そうか。やっぱりそうなのだろうなあと思う。
リオンさまは、三人の中では一歩下がった状態だから、そこまでではないのだろうけれど。
「三人の殿下、どなたが帝位につかれても問題はないとは思いますが……まあ、私としては、リオン殿下は帝位につかれるよりも、塔の導き手になって欲しいとは思っているのですけれどね」
「ザナン伯爵は都合がいいな。この前は、アルキオーネ嬢を勧誘していなかったか?」
リオンさまは苦笑する。
そういえば、塔はいつでも歓迎するみたいなこと、言われた。
「もちろん、お二人そろって塔を盛り上げて下されば、私も安心して隠居できるというものです」
ふぉふぉっと、ザナン伯爵は笑う。
「当座の問題として、明日の舞踏会で婚約発表するなら、アルキオーネはリオンさまのパートナーとして出席することになるのでしょうか」
「えええ? どうしましょう」
兄の疑念を聞いて、私は慌てる。
「何が困るの?」
リオンさまは首を傾げた。
「兄は誰をエスコートしたらいいのでしょう?」
「おい、それはどうでも」
「なるほど。それは困ったことになるな」
私の疑問に陛下が同意する。
舞踏会で、上級貴族の未婚の子息子女はたいてい身内の人間をパートナーにして参加する。もちろん一人で参加できないわけではないけれど、皇族主催のものだけに、そうした慣例はうるさい。
「だったら、フィーナをエスコートすればいいのでは?」
「な、何を?」
レジナルド殿下の提案に兄は目を見開く。
フィーナ皇女は、いつもレジナルド殿下かリオンさまのどちらかがパートナーを務めることが多かった。
「私は、マイア・タランチェ嬢を誘ってみるよ。まあ、ダメなら、母上と出席するから」
「それはさすがに……」
「なるほど。確かにマルドーネ公子がああなった以上、侯爵家の君も、フィーナの候補に挙がってくるだろうなあ」
「いや、それはダメですって……いろんな意味で」
面白がる陛下に兄はどう断ろうかと必死に悩んでいるようだった。




