報告
短め。遅刻。すみません
普通は二日かかる距離を、本当に一日で帰ってこれたのはいいけれど、体力的には限界だった。兄はリオンさまに呼び出されて出かけたりしていたけれど、私は丸一日ほぼ寝込むような状態だった。体力不足を痛感する。
五日あったお休みも、あっという間にあと二日だ。
本当は明日の舞踏会に備えてあれこれ美容的なことをさせられる予定だったのだけれど、陛下から招集されてしまった。ありがたいと思ったのは、母には内緒。もちろん令嬢たるもの、お肌すべすべ、髪つやつやで舞踏会に望まなければいけないのはわかっているけれど、ぶっちゃけ、面倒である。綺麗でありたいという気持ちはもちろんあるのだけれど。
明日は陛下の誕生日の祝祭ということで、宮廷内はどこもバタバタしていた。
広い会議室に呼ばれたのは私と兄、それからガデリ司祭に、ザナン伯爵に、リオンさま。それからレジナルド殿下。今日は、同じテーブルにロイスナートさんもいる。
かしこまって座っていると、陛下があとから入ってきた。
ちなみにこの会議室は、国の重鎮たちが使うお部屋だけあって、非常に質実剛健といった感じだ。
「さて。前置きは省くが、遺跡でみつかったことについてだ」
リオンさまがみんなの前に何枚かの資料を配った。
「まず、湖にあった研究室についてご説明をいたします」
リオンさまが口を開いた。
「開閉については、おそらく龍にかかわりのある人間、道具がないと開かないようになっております。建物を破壊した者はその存在に気づかなかったのでしょう。中は全く荒れておりませんでした」
リオンさまは持ち帰ってきた本を示す。
「遺跡を作った『赤い月』は、『人工龍』の研究をするためにあの遺跡を作ったようです。そもそも人工龍というのが何なのかは、まだはっきりわからないのですけれど」
遺跡から帰ってきてから、かなり頑張って解読しているみたいだけれど、『赤い月』が悪筆のこともあって、読み解くのに苦労しているらしい。
「日誌によれば、遺跡を本国から来た『ナスラン』に発見され、『赤い月』は研究室を封印した。おそらく、その時に『移動の陣』は『ナスラン』によって無効化されたのだと思われます」
「……封書の記述と一致いたします」
ガデリ司祭は頷く。
「思うに、封書を残したのは、魔道王国から密命を帯びてその赤い月を追ってきたものたちでしょう」
「つまり、今のプロティア教を作ったのは、ナスランという組織ということか?」
陛下が眉間にしわを寄せる。
「わかりません。ただ、その可能性はあります」
「しかし、まさか神殿にそのような文書があるとは……」
ザナン伯爵は驚いているようだ。
「禁じても、封じても、どこからか嗅ぎつける者はおります。そうした時に対処するためのものとして残したのでしょう。塔でなく、教団に残したのは、『禁忌』に対する忌避感が、教団の方が強いと思われたのかもしれません」
「まあ、知に対しての好奇心に抗えない魔術師は多いからのう」
ザナン伯爵は苦笑いをする。
「好奇心には悪意がない分、たちが悪い」
「封書を読みふけった私には耳が痛いですな」
ガデリ司祭は頭を掻いた。
「しかし、この三十年で封書を読んだ人間は、最近では、私と大祭司くらいでした。あとはシーマ司祭ですな。あまり人気の書でないのは確かですが」
「シーマ司祭というと、失踪したという司祭か?」
陛下が口をはさむ。
なんでもシーマ司祭は非常に力の強いエリートであったらしいが、ある時を境に失踪して行方がわからないままらしい。
「はい。もう十年になります。何らかの事件に巻き込まれたのか、それとも自ら姿を消したのか全く分からないままです」
ガデリ司祭はゆっくりと首を振る。
「封書を読んだことで何かに巻き込まれたという可能性はないのですか?」
「それはどうでしょう。あれを読んだところで、『龍石』がなければどうにもなりません。『龍石』の製法そのものは、『封書』に記載はないのですから」
人工的に作る方法のほかにも、龍の寵児や巫女がいれば、『龍石』は手に入るかもしれないが、そもそも該当する人物を捜すのは難しい。
「そういえば、マーケー地区の孤児院には、龍の病だった子供たちが多くいましたが、孤児たちには多いのですか?」
「そういうわけではないですよ。シュリーマン神官がどうやら選別してあの孤児院にあちこちから連れてきていたようです。龍の病にかかったものは魔力が高いことが多いので、魔力訓練が必要だったりしますから」
「ああ、つまり、魔力訓練が必要な子供たちを集めてということなのですね」
特殊な訓練が必要となれば、どこの孤児院でもいいというわけにはいかないということなのだろう。
「ということは、魔力の高さで龍の寵児や巫女を捜すことは可能なのですね……」
「ただ、魔力が高いから龍の病の経験者とは限らないですけれどね」
何もない大海から探すよりは早いとは思います、と、ガデリ司祭は頷いた。




