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私を殺すラスボスは兄の親友  作者: 秋月 忍
高等部編

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帰路

 翌日、神殿に軍の幌馬車がやってきた。昨夜のうちにロイスナートさんが手配してくれたのだ。

 マイノ神官へのお礼をのべ、馬車に乗り込む。

 幌馬車は、兵を輸送するのに使用するため、収容人数が非常に多い。たぶん十人くらい乗れる。ただし、乗り心地はよくない。

 軍用の四頭たての馬車で、スピードを容赦なく出して、しかも休憩なしでいく予定なので、今日の夜中には帝都につくらしい。

 馬は街道の警備隊で都度交代させるとか。

 もちろん、リオンさまには公務があって帝都に大急ぎで帰らないといけないのは事実なのだけれど、それ以上の急ぎかたなのは、移動の魔法陣のことなどがあるからだろう。今すぐどうこうということではないけれど、すべてが『新発見』のことで、いろいろ検討すべきことがある。

 馬車に乗っているのは、私と兄とリオンさまと、ガデリ司祭だ。ロイスナートさんは、御者台に座り、さらに二人の騎士が馬車を護衛している。

 ガデリ司祭は同行する必要はないのだけれど、封書のこともあって、一度塔の教え長を交えて緊急に話し合いをすべきだからということになった。

 幌馬車の座席は、進行方向に向かって横座り、その座席も板に布を張っただけみたいなものだから、とにかく揺れる。

 酔うかな、なんて思ったけれど、そんな生易しいものではなかった。

 怖いのだ。

 座席の座り心地以前に、この世界の馬車はまだゴムタイヤではないから、そこからして衝撃が違う。また街道も整備してあるとはいえ、アスファルト舗装ではないのだ。とにかく、体が軽く飛ぶし、横揺れもすごい。

 それなのに、対面の席に座っているリオンさまは、遺跡で見つけた本を広げて読んでいる。よく気持ち悪くならないなあと思ってしまう。

 昨夜、私はたぶん、リオンさまに告白された。

 朝は意識してしまい、どんな顔をして一緒の馬車に乗っていればと心配だったのだけれど、正直、そんな余裕は全くない。休憩時間をとってはもらえているが、揺れない大地が揺れているかのように感じるくらい、頭がくらくらしてしまう。

「アルキオーネ嬢、酔ったりしていないかい?」

「酔ってはいません……大丈夫ではありませんが」

 恐怖は馬車酔いに勝るらしい。

 乗る前にガデリ司祭からもらった酔い止め薬が効いているだけかもしれないけれど。

「リオンさまだけ先に帰って、俺とアルキオーネはゆっくり帰るでもよかったのに」

 さすがの兄も、この強行軍はしんどいのか、休憩から再び馬車に乗り込みながらため息をついた。

「すまない。私一人で持ち帰るには、秘密が大きすぎるから」

 リオンさまはふうっとため息をつく。

「思っていた以上に、アルキオーネ嬢が狙われる確率が高いことが分かったし」

「まあ、そうかもしれないけれど」

 兄は渋々頷く。

「少なくとも、遺跡の移動の陣を使用したのは、そんなに昔の話ではない。私たちがあの遺跡を発見する前ではあるだろうけれど、きっと使用した人間はまだ生きていても不思議はないくらいの時間しかすぎていないだろう」

「長くて十年ってとこだろうな」

 確かに何百年も過ぎているという感じではなかった。

「それにしても龍石をどこで手に入れたのだろう……」

「龍石の存在自体、知る機会などほぼないでしょうからなあ」

 ガデリ司祭の言う通りだ。それこそ、龍の巫女や寵児から取り出すという方法だって知らなければできない。そもそも龍の病だって正確な知識はあまり広まっていないのだ。

「たとえ偶然にも龍石を見つけたとして、果たして遺跡に辿り着けるとは限らない」

リオンさまは眉間に皺を寄せた。

「両方の情報を持ってないとできないなって、おい、アルキオーネそんなにしがみつくなっ」

「だって、ゆ、揺れっ」

兄の文句もわかるけれど怖いのだから仕方がない。

「ハハハッ。アルキオーネ嬢もこうして見ると普通のご令嬢だったのですなあ」

 ガデリ司祭は楽しげだ。

「普通って、そもそも私は普通ですっ、キャッ」

「おい、こら。さすがにいてぇぞ」

 抗議しようと思ったら、よろめいて兄の足を思いっきり踏んでしまった。

「ごめんなさいっ。不可抗力だからっ」

 怒った時に無言で兄の足を踏むことはよくあるのだけれど、これはわざとではない。だから、加減もしていないから、痛そうではある。

「いやいや。話はいろいろな方面から聞いておりますぞ。陛下の話では、陛下に対しても全く物おじせず、正しいと思ったことを口になさったとか」

「そ、それは」

 確かに我ながら、怖いもの知らずなところはあるとは思う。そもそも、皇子との結婚に条件をつけるとか、不敬もいいところだ。

「だいたい、あの聖膜の件でも、あなたの発想は実に大胆で合理的だった。光輪派の忌み嫌うものを、祈祷した聖膜なら『浄化』できるとしたこと、実に素晴らしかった」

「あ、まり、褒められている気がしない、の、ですが?」

 跳ねながら聞いているので、どうしても言葉が飛んでしまう。どうしてみんなは普通に話せているのだろう。

「そんなことはないですよ。光輪派の暴走ゆえの治療拒否については、本来、我々が諫めなければならなかったこと。感謝しております。私からすれば、あなたこそが、プロティア教における巫女だと思いますね」

 ガデリ司祭は微笑む。

「よくわからない肩書は、もう、十分です……」

 龍の寵児、龍の巫女。さらにプロティア教の巫女なんて言われたら、何が何だかわからない。

「司祭の言いたいこともわかりますが、アルキオーネ嬢の肩書は、これからは私の婚約者だけにしたい」

 リオンさまはコホンと咳払いをしながら言い切って、私を見つめる。

 胸がドキリと音を立てたタイミングで、ゴトッと再び、馬車が跳ねた。

「ひゃっ」

 体が前に傾いで、倒れそうになったところを、リオンさまが立ち上がって受け止めてくれた。

「すみません!」

「危なっかしいな。いっそ、私の膝の上に座るかい?」

 それなら支えられるから。

 リオンさまは冗談とも本気とも思える笑みを浮かべて、そう言うけれど。

「リオンさま、さすがにそれを兄である俺の前で言うの、やめてください」

 顔に熱が集まって何を答えたらいいのかわからなくなった私の横で、兄が呆れたようにため息をついた。

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